異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

<sideクラウス>

旦那様がトキ様を中庭にお連れになる。
人払いをせずのその行動に、私はトキ様が順調に御快復されていることに安堵した。

何かあればすぐに整えられるよう準備をして、中庭で待機する。
その間、自分からは決してトキ様のお目に触れないように心がけた。

旦那様が抱きかかえてお連れになったトキ様を、地面にお下ろしになる。
裸足のトキ様は大丈夫だろうかと心配になるが、ここは旦那様にお任せだ。

旦那様とトキ様は手を繋ぎ、トキ様の歩くスピードに合わせて進み始める。
トキ様が一歩進み出された時は、その昔赤子の旦那様が初めて歩かれたとき以上の喜びがあった。

エヴァンス子爵家の地下室で、今にも息絶えてしまいそうな姿を見ていたから余計にそう思うのかもしれない。
あの時は、またご自身のお力で歩けるようになるとは到底思えなかったから。

トキ様がここまでお元気になられたのも、全ては旦那様の深い愛情の賜物の他にあり得ない。
なんせトキ様は旦那様以外の人には目を合わすことさえできなかったのだから。
唯一、医師のロジェリオ様だけはお会いになれたが、それも旦那様とご一緒の時に一度だけ。それ以外は全て、旦那様がトキ様のお世話をなさっていた。

その深い愛情がようやくトキ様の恐怖に満ちたお心を溶かし、この日を迎えられた。
今日はこのランチェスター公爵家にとっても始まりのときといえよう。

しばらく散歩をなさったトキ様を抱き上げ、大木に向かって歩き出される。
あそこで休憩なさるとわかり、すぐに敷物を敷きお休みになる準備を整えた。

お二人が木の下にお座りになってすぐに、こちらに来るようにと指示が出された。
私が近づいて大丈夫だろうかと心配になりながら、そっとお二人のもとに向かった。

トキ様を驚かせないように静かに近づき、声をかける。
すると濡れタオルと菓子を御所望になった。

敷物の上にそのままお上りになって頂いて構わない。だが、チラリとトキ様に視線を向けると、裸足が敷物につかないように気遣ってくださっているのが見えた。

これは敷物が汚れないようにしてくださっているのだろう。
旦那様がそれを求めるはずがない。ならばこれはトキ様ご自身のお考えに違いない。

ランドリーメイドのことをお気遣いくださっているのか……
なんと思慮深いお方だろう。

そのトキ様が召し上がる菓子を用意する。
何を出したら良いか……
私の頭には一つの考えしか浮かばなかった。

まずは濡れタオルを旦那様にお渡しし、すぐに菓子の準備に取り掛かる。
シェフのロドリゴを呼び、旦那様のお好きな菓子を用意させた。

思慮深いトキ様なら、ご自身が好きなものより旦那様のお好きなものをお召し上がりになりたいと思われる。そう思ったのだ。

旦那様が好まれる甘味の少ない焼き菓子を持って、中庭に戻る。

紅茶と焼き菓子を目の前に出すと、旦那様は驚きの声をおあげになった。だが、トキ様はこの菓子が旦那様のお好きなものだと知って喜んでいらっしゃった。

やはり間違いはなかった。
ホッと胸を撫で下ろし、お二人のそばをさっと離れた。

旦那様が嬉しそうにトキ様の口に菓子を運ぶのが遠目ながら見えて、私も嬉しくなった。

しばらくお二人の仲睦まじいご様子を拝見しつつ、幸せな時間は過ぎていった。

片付けをするためにお二人のもとに近づくと、

「エリアスさんの仕事場を見てみたいです」

と可愛らしいおねだりをするトキ様の声が聞こえた。

「そうか、じゃあ一緒に執務室に行ってみようか」

「わぁ、ありがとうございます」

私はお二人の距離が縮まっていっていることに喜びを感じながら、屋敷に戻るお二人の背中を見守り続けた。

<sideエリアス>

「トキ。ここが私の仕事部屋だ」

トキを抱きかかえたまま執務室の扉を開けると、トキが目を輝かせる。
どうしてこれほど興味を持ってくれるのかわからないが、私の仕事だからと思ってくれるのなら嬉しいことだ。

「僕が見て良い書類とかありますか?」

「どれを見ても構わぬ。トキが見てはいけないものは、この部屋にない」

そうはっきりと告げ、机の上にある書類を取り、トキに手渡した。

「あっ、ちゃんと文字が読めます」

なるほど。それを確認したかったのか。
だが、トキはその後も食い入るように書類を見続けていた。

「そんなに面白いものだったか?」

「いえ、そうじゃなくて……僕にもエリアスさんのお仕事が手伝えるかなって」

「えっ?」

「僕、ずっとエリアスさんにお世話してもらったのでお返しがしたいんです。この広い部屋なら僕がいても邪魔にはならないだろうし、一緒にお仕事できたら嬉しいなって……」

トキがそこまで私のことを考えてくれていたなんて……

以前、身体が元気になったら働きたいと話していたが、あれはトキの本心だったのだな。