異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

<sideエリアス>

トキの笑顔が見える。
ここまで来るのにどれだけ辛い思いをさせたか…‥

だが、今は後悔よりもこれからのことを考えよう。
この笑顔を絶やさぬように、私はいつでもトキを第一に生きていこう。

「トキ、少し休憩しようか。最初から無理をすると良くない」

トキをそっと抱きかかえて、チラリと後ろを見る。
すると、すぐにクラウスが大きな木の下に休憩場所を作っていく。

敷物を敷き、場所を整えたのを確認して私はトキを抱きかかえたままその場に向かった。靴を脱ぎ、敷物に座る。

「あ、僕の足が……」

土で汚れていると言いたいのだろう。

「後で敷物を洗えばいいのだから気にしないでいい」

「でも、洗うの大変ですよ。僕の足を拭いたほうが汚れを落とすのも楽です」

トキのその言葉にハッとする。
今まで洗う者の気持ちを考えたことなど特になかったが、トキはランドリーメイドたちの負担も考えているのだ。

「トキの言う通りだな。それじゃあ濡れタオルを用意させよう。我が家の執事のクラウスをこちらに呼んでも構わないだろうか?」

「は、はい。大丈夫です」

一瞬トキに緊張が走ったが、私を信頼してくれているのだろう。そこまで強い怯えは見られない。

今までロジェリオしか会わせていなかったから、これから少しずつトキの恐怖心を減らしていけたらいい。

私はトキを片腕で支えたまま、大木の後方で私たちの様子を見守っていたクラウスにこちらに来るようにと指示を出した。きっと今頃驚いていることだろう。

ゆっくりとやって来たクラウスはトキを驚かせないように、少し離れた場所に片膝をついて声をかけてきた。

「旦那様。お呼びでしょうか?」

「ああ。トキの足を拭きたい。用意してくれ」

「承知いたしました」

「それからおやつの準備も頼む」

そう告げると、クラウスの表情が明るくなる。
今まで私の部屋以外でトキが食事をとることはなかった。
たとえそれがおやつであってもかなりの前進と言えるだろう。

「お任せくださいませ」

クラウスの笑顔に、トキは安心したのかふっと身体の力を抜いた。
立ち上がろうとするクラウスに小さな声がかかる。

「あの……」

「えっ?」

驚いたクラウスがこちらを振り向くと、トキが私に抱きつきながらもクラウスに話しかけた。

「僕……斗希、です。よろしくお願いします」

私以外には怯えて動くこともできなかったトキがクラウスをまっすぐに見つめて笑顔を見せる。そのあまりの衝撃に、クラウスは口をぽかんと開けていた。
美しいトキに声をかけられ、笑顔で見つめられればそうなってしまうのも当然だが、このままではトキが不安になってしまう。

「ん゛っ、ん゛っ」

大きく咳払いをすると、クラウスはハッと我に返ったようだ。

「は、はい。わ、私は、この屋敷の執事をしております、クラウスでございます。こちらこそどうぞよろしくお願い申し上げます」

声を上擦らせながらも挨拶を返したクラウスに、トキはホッと胸を撫で下ろしていた。クラウスはすぐに立ち上がり、濡れタオルを取って戻ってきた。
そして私にそれを渡し、すぐにお茶の支度をしに戻って行った。

「さぁ、足を拭こう」

トキをしっかりと膝に座らせて、小さな足に触れる。

私の手のひらよりも小さなその足を持ち、タオルで拭いていく。

「どうだ?」

「はい。すごく気持ちがいいです」

うっとりとした顔で言われると、邪な想像をしてしまうがそれも仕方がない。
なんせこんなにも可愛いトキを腕に抱いているのだから。

小さな足の汚れをあっという間に拭き取ると、すぐにお茶の支度が整えられた。

「クラウス、これは……」

目の前にあるのは甘みの少ない焼き菓子ばかり。

「旦那様がお好きなおやつをご用意させていただきました」

確かに執務中、小腹が空いた時によくつまむものだが、トキには物足りないのではないか。クラウスにしては気が利かない。
そう思ったが、

「これ、エリアスさんの好きなお菓子なんですか? わぁ、美味しそう!」

トキは目を輝かせて喜んでくれている。

「食べてみるか?」

「はい」

嬉しそうに口を開けるトキを見て、クラウスはさっとその場を離れる。
そして、私はいつものようにトキの口に運んだ。

「ん、サクサクして美味しい! エリアスさんの好きなお菓子がわかって嬉しいです」

その言葉に、クラウスがこれを用意した意味がわかった気がした。
好きなものを共有できる。それはなんと幸せなことなのだろう……