<side斗希>
優しい温もりと落ち着く匂いに包まれて、僕は目を覚ました。
「え、りあすさん……」
「私はここにいるよ」
背中に回された腕がキュッと強くなり、胸元に押し当てられる。
夢の中でも包み込まれていたあの落ち着く匂いがする。
「よかった……」
目を覚まして一人じゃなくてよかった。
エリアスさんがいてくれてよかった。
そのどちらもに対する僕の気持ちだ。
「もう怖くないか?」
「えっ……ああ、そうか」
そういえば、怖い思いをしたんだった。
でもエリアスさんが助けてくれて大丈夫だって言ってくれたから、胸の奥にあった怖さが少し薄らいだ気がする。
思い出そうとするともちろんまだ少し怖いけど……
「だいじょうぶ。エリアスさんがいてくれるから……」
そう言いながら、僕は無意識にエリアスさんの服を掴んでいた。
多分離れたくない気持ちが溢れていたんだろうと思う。
エリアスさんは、僕の背中に回していた手でポンポンと優しく叩く。
「私はずっとトキのそばにいるよ」
その言葉が、僕を心から安心させてくれた。
だからちゃんと言葉にしたかった。
助けてくれたことも、いつも僕を守ってくれることも……
「ありが、とう……」
そこまで言って、続きが喉につかえる。
これまでエリアスさんがしてくれたことが大きすぎて、ありがとうだけじゃ足りない。でも、他になんていえばいいのかわからない。
僕が黙り込むと、エリアスさんは強く抱きしめてくれた。
「トキの気持ちはちゃんとわかっているから……」
急かすことのない、その優しさが僕は嬉しかった。
その穏やかな気持ちの中で、僕はもう一度眠りに落ちた。
それから数日が経った。
あの日から、何度か目を覚ましたけれど、その度にエリアスさんが隣にいてくれた。
その間、身の回りのことは何もかも当たり前のように気遣ってくれて、僕は一切不安を感じることなく過ごすことができた。
穏やかな時間の中で、エリアスさんの出し惜しみ無いまっすぐな愛情に触れるたびに、僕の心は少しずつ、でも確実に満たされていった。
「トキ。どうだ? 体調が良さそうなら、中庭にでも出てみないか」
そういえば、ここにきて一度エリアスさんに抱きかかえられて、中庭に出たことがある。久しぶりの太陽の光と青々とした緑の匂いに心が弾んだのを覚えている。
あの時は、ずっと抱かれたままだった。
「はい。僕……自分で歩いてみたいです」
「トキが望むならもちろんさせてやりたいが、無理をしてはダメだぞ」
「大丈夫です。僕……エリアスさんが一緒なら頑張れそう」
「そうか。じゃあ、行ってみようか。ちょっと待っていてくれ。使用人たちに近づかないように声をかけてくる」
そうだった。以前は、まだエリアスさん以外に会うのが怖かったから誰にも会わないようにしてくれた。でも今の僕は大丈夫。
「大丈夫です。エリアスさんが一緒なら、僕……もう怖く無いです」
エリアスさんの目をまっすぐに見つめると、エリアスさんはただ一言「わかった」と言って僕を抱きかかえた。
「ここは危ないから、歩くのは中庭にしよう」
「はい。土の上を歩くの楽しそうです」
無意識に出た言葉だった。
でも楽しいなんて思えるようになった自分が、なんだかとても嬉しかった。
「うわっ、眩しい!」
燦々と降り注ぐ太陽の光を、僕は手の甲でそれを覆った。
「トキ、大丈夫か?」
「はい。やっぱり外の空気って気持ちがいいですね」
眩しい光も、穏やかな風も、流れる空気の匂いも全てが心地良い。
エリアスさんは中庭の中ほどまで歩き、僕を腕からそっと下ろした。
裸足の僕は直に土に触れる。
その感触が柔らかくて、少しひんやりとしているのが伝わってくる。
いつぶりだろう。この感覚。
子ども時代に戻ったようで楽しくなる。
エリアスさんと手を繋いだまま、僕は一歩を踏み出した。
この感覚。気持ちがいい。
「ゆっくりでいいぞ」
エリアスさんからそう声をかけられながら、僕はもう一歩踏み出した。
今まで抱きかかえられてばかりだった。
その僕が自分の足で立っている。それが実感できて嬉しい。
草の匂い、太陽の暖かさ。そして鳥の囀る声。
最初に降り立った世界は怖くて暗い森の中だったけれど、ここは怖くない。
穏やかで優しい世界だ。
「トキ。上手に歩いているぞ」
まるで初めて歩く赤ちゃんのように褒めてくれる。
そんなエリアスさんに笑ってしまった。
声に出して笑える喜び。
それをエリアスさんが教えてくれた。
「わっ!」
小さな石に躓きそうになったけれど、すぐにエリアスさんが手を添えてくれる。
「大丈夫、ゆっくりでいい」
その声に安心して一歩ずつ先に進む。
ふと視線を上げると、綺麗な花が咲いているのが目に入った。
「わぁ、きれい……」
思わず声に出すと、エリアスさんも微笑んでくれた。
ここは本当に怖くない。僕はもう大丈夫だ。
「トキ。もう少し先に行ってみようか」
「はい!」
僕はエリアスさんの手を握り、また一歩先に歩を進めた。
優しい温もりと落ち着く匂いに包まれて、僕は目を覚ました。
「え、りあすさん……」
「私はここにいるよ」
背中に回された腕がキュッと強くなり、胸元に押し当てられる。
夢の中でも包み込まれていたあの落ち着く匂いがする。
「よかった……」
目を覚まして一人じゃなくてよかった。
エリアスさんがいてくれてよかった。
そのどちらもに対する僕の気持ちだ。
「もう怖くないか?」
「えっ……ああ、そうか」
そういえば、怖い思いをしたんだった。
でもエリアスさんが助けてくれて大丈夫だって言ってくれたから、胸の奥にあった怖さが少し薄らいだ気がする。
思い出そうとするともちろんまだ少し怖いけど……
「だいじょうぶ。エリアスさんがいてくれるから……」
そう言いながら、僕は無意識にエリアスさんの服を掴んでいた。
多分離れたくない気持ちが溢れていたんだろうと思う。
エリアスさんは、僕の背中に回していた手でポンポンと優しく叩く。
「私はずっとトキのそばにいるよ」
その言葉が、僕を心から安心させてくれた。
だからちゃんと言葉にしたかった。
助けてくれたことも、いつも僕を守ってくれることも……
「ありが、とう……」
そこまで言って、続きが喉につかえる。
これまでエリアスさんがしてくれたことが大きすぎて、ありがとうだけじゃ足りない。でも、他になんていえばいいのかわからない。
僕が黙り込むと、エリアスさんは強く抱きしめてくれた。
「トキの気持ちはちゃんとわかっているから……」
急かすことのない、その優しさが僕は嬉しかった。
その穏やかな気持ちの中で、僕はもう一度眠りに落ちた。
それから数日が経った。
あの日から、何度か目を覚ましたけれど、その度にエリアスさんが隣にいてくれた。
その間、身の回りのことは何もかも当たり前のように気遣ってくれて、僕は一切不安を感じることなく過ごすことができた。
穏やかな時間の中で、エリアスさんの出し惜しみ無いまっすぐな愛情に触れるたびに、僕の心は少しずつ、でも確実に満たされていった。
「トキ。どうだ? 体調が良さそうなら、中庭にでも出てみないか」
そういえば、ここにきて一度エリアスさんに抱きかかえられて、中庭に出たことがある。久しぶりの太陽の光と青々とした緑の匂いに心が弾んだのを覚えている。
あの時は、ずっと抱かれたままだった。
「はい。僕……自分で歩いてみたいです」
「トキが望むならもちろんさせてやりたいが、無理をしてはダメだぞ」
「大丈夫です。僕……エリアスさんが一緒なら頑張れそう」
「そうか。じゃあ、行ってみようか。ちょっと待っていてくれ。使用人たちに近づかないように声をかけてくる」
そうだった。以前は、まだエリアスさん以外に会うのが怖かったから誰にも会わないようにしてくれた。でも今の僕は大丈夫。
「大丈夫です。エリアスさんが一緒なら、僕……もう怖く無いです」
エリアスさんの目をまっすぐに見つめると、エリアスさんはただ一言「わかった」と言って僕を抱きかかえた。
「ここは危ないから、歩くのは中庭にしよう」
「はい。土の上を歩くの楽しそうです」
無意識に出た言葉だった。
でも楽しいなんて思えるようになった自分が、なんだかとても嬉しかった。
「うわっ、眩しい!」
燦々と降り注ぐ太陽の光を、僕は手の甲でそれを覆った。
「トキ、大丈夫か?」
「はい。やっぱり外の空気って気持ちがいいですね」
眩しい光も、穏やかな風も、流れる空気の匂いも全てが心地良い。
エリアスさんは中庭の中ほどまで歩き、僕を腕からそっと下ろした。
裸足の僕は直に土に触れる。
その感触が柔らかくて、少しひんやりとしているのが伝わってくる。
いつぶりだろう。この感覚。
子ども時代に戻ったようで楽しくなる。
エリアスさんと手を繋いだまま、僕は一歩を踏み出した。
この感覚。気持ちがいい。
「ゆっくりでいいぞ」
エリアスさんからそう声をかけられながら、僕はもう一歩踏み出した。
今まで抱きかかえられてばかりだった。
その僕が自分の足で立っている。それが実感できて嬉しい。
草の匂い、太陽の暖かさ。そして鳥の囀る声。
最初に降り立った世界は怖くて暗い森の中だったけれど、ここは怖くない。
穏やかで優しい世界だ。
「トキ。上手に歩いているぞ」
まるで初めて歩く赤ちゃんのように褒めてくれる。
そんなエリアスさんに笑ってしまった。
声に出して笑える喜び。
それをエリアスさんが教えてくれた。
「わっ!」
小さな石に躓きそうになったけれど、すぐにエリアスさんが手を添えてくれる。
「大丈夫、ゆっくりでいい」
その声に安心して一歩ずつ先に進む。
ふと視線を上げると、綺麗な花が咲いているのが目に入った。
「わぁ、きれい……」
思わず声に出すと、エリアスさんも微笑んでくれた。
ここは本当に怖くない。僕はもう大丈夫だ。
「トキ。もう少し先に行ってみようか」
「はい!」
僕はエリアスさんの手を握り、また一歩先に歩を進めた。


