<sideエリアス>
トキはだいぶ落ち着いたようだ。
深い眠りに落ちていったのがわかる。
怖い思いをさせてしまったが、なんとか落ち着かせることができて良かった。
自分の腕の中にトキがいてくれることに安堵しつつ抱きしめていると、寝室の扉の外に気配を感じた。ほんの少しだけ扉が開き、ロジェリオの声が聞こえた。
「旦那様。陛下がお話がしたいと仰っておられます」
「全てが終わった、ということか?」
私の言葉にロジェリオは一瞬黙った。
そして少し間をおいて声が聞こえた。
「それは陛下から直接お伺いになるのがよろしいかと存じます」
「そうだな。ただ、トキを一人にするのが心配なのだが……」
「少し診察をさせていただいても宜しいでしょうか?」
今のトキにあまり負担をかけたくはない。だが、ロジェリオには会わせてあるから、もし、目を覚ましたとしても怯えることはないだろう。
「構わぬ、入れ」
その声に入ってきたロジェリオは、ベッドの中でピッタリと寄り添っている私たちを見て、少し驚いているように見えた。だがそこは医師。表情を変えぬまま入ってきて、トキの状態を確認すると安堵の表情を見せた。
「トキ様は深い眠りに入っておられます。一時間ほどなら問題ないかと」
「そうか。わかった。陛下にはすぐに下りてくると伝えておいてくれ」
「承知いたしました」
頭を下げると足早に寝室から出ていった。
そっとトキの頬に口付けをする。
すぐに帰ってくるからと固く誓って、静かにベッドを下りた。
トキを起こさないようにそっと部屋を出て、陛下がいらっしゃる応接室に向かった。
ノックをして中に入ると、そこには王冠を外した陛下がいらっしゃった。
「来てくれたか、ランチェスター公爵」
「陛下」
私は片膝をつくことなく、一礼のみで応じた。
王冠を外していた陛下だからこそ、形式にとらわれる必要はないと思ったのだ。
陛下は私をじっと見つめてから、深く息を吐いた。
「ランチェスター公爵。まずは詫びさせて欲しい」
その言葉に私はハッと息を呑んだ。
陛下自ら私に詫びを……
黙って見つめていると、陛下は言葉を続けた。
「王家の人間が、守るべき者を傷つけたことは決して許されることではない。王として、そして父として本当に申し訳なかった」
陛下は椅子から立ち上がり、私に向かって深々と頭を下げた。
これが、陛下の出した答え、か……
「陛下……顔をお上げください」
私の言葉に静かに顔を上げた陛下の表情からは、深い後悔と迷いない信念が感じられた。
「トキ殿は、フィリグランではなく一人の人間として守られるべきだったが、ワーレンは最後まで彼をフィリグランというものでしか見ることができなかった。その結果があれだ。決して冒してはいけない領域に足を踏み入れた」
話を聞きながら、私は小さく頷いた。
「その罰として、ワーレンの王位継承権を剥奪し、永久にトキ殿に近づくことを禁じた。これは決定事項だ」
父親として、最も重い罰を与えてくださったのか……
もう二度と会うことがないのはトキにとっては一番安心できる罰だろう。
「そして、もう一つ。私はここではっきりと告げる。フィリグランが王家のものだという慣例は全て廃止する」
そのはっきりとした言葉に、一瞬時が止まったような気さえした。
「それが、陛下のご決断ですか?」
「ああ。遅すぎた決断だがな」
陛下は自嘲気味に微笑んだが、私とトキには嬉しい決断だ。
「これまで王家の人間がフィリグランを守り世話をしてきたが、あれはフィリグラン自身が望んだことだった。それをワーレンは曲解し、フィリグランが現れれば自分のものになると思い込んでいたのだ。だが、トキ殿の望みはランチェスター公爵。其方がそばにいることなのだろう。王家が果たせなかった役目を其方に託したい。どうか。トキ殿を頼む」
「言われるまでもありません。私はトキを心から愛していますから……」
そう告げた瞬間、陛下の表情は和らいだ気がした。
「トキ殿が目を覚ましたら……いや、いつでもいい。トキ殿の負担にならないときに正式に謝罪させてほしい」
「トキが望むならば……」
「……そうだな。わかった」
そう言って、陛下は応接室を出ていった。
――終わった。
やっとだ。
私は急いでトキの待つ寝室に戻った。
もうトキはフィリグランではない。
ただトキとしてここにいてくれたらいい。
私はトキの隣に身体を滑り込ませて、小さな身体をそっと抱きしめた。
トキはだいぶ落ち着いたようだ。
深い眠りに落ちていったのがわかる。
怖い思いをさせてしまったが、なんとか落ち着かせることができて良かった。
自分の腕の中にトキがいてくれることに安堵しつつ抱きしめていると、寝室の扉の外に気配を感じた。ほんの少しだけ扉が開き、ロジェリオの声が聞こえた。
「旦那様。陛下がお話がしたいと仰っておられます」
「全てが終わった、ということか?」
私の言葉にロジェリオは一瞬黙った。
そして少し間をおいて声が聞こえた。
「それは陛下から直接お伺いになるのがよろしいかと存じます」
「そうだな。ただ、トキを一人にするのが心配なのだが……」
「少し診察をさせていただいても宜しいでしょうか?」
今のトキにあまり負担をかけたくはない。だが、ロジェリオには会わせてあるから、もし、目を覚ましたとしても怯えることはないだろう。
「構わぬ、入れ」
その声に入ってきたロジェリオは、ベッドの中でピッタリと寄り添っている私たちを見て、少し驚いているように見えた。だがそこは医師。表情を変えぬまま入ってきて、トキの状態を確認すると安堵の表情を見せた。
「トキ様は深い眠りに入っておられます。一時間ほどなら問題ないかと」
「そうか。わかった。陛下にはすぐに下りてくると伝えておいてくれ」
「承知いたしました」
頭を下げると足早に寝室から出ていった。
そっとトキの頬に口付けをする。
すぐに帰ってくるからと固く誓って、静かにベッドを下りた。
トキを起こさないようにそっと部屋を出て、陛下がいらっしゃる応接室に向かった。
ノックをして中に入ると、そこには王冠を外した陛下がいらっしゃった。
「来てくれたか、ランチェスター公爵」
「陛下」
私は片膝をつくことなく、一礼のみで応じた。
王冠を外していた陛下だからこそ、形式にとらわれる必要はないと思ったのだ。
陛下は私をじっと見つめてから、深く息を吐いた。
「ランチェスター公爵。まずは詫びさせて欲しい」
その言葉に私はハッと息を呑んだ。
陛下自ら私に詫びを……
黙って見つめていると、陛下は言葉を続けた。
「王家の人間が、守るべき者を傷つけたことは決して許されることではない。王として、そして父として本当に申し訳なかった」
陛下は椅子から立ち上がり、私に向かって深々と頭を下げた。
これが、陛下の出した答え、か……
「陛下……顔をお上げください」
私の言葉に静かに顔を上げた陛下の表情からは、深い後悔と迷いない信念が感じられた。
「トキ殿は、フィリグランではなく一人の人間として守られるべきだったが、ワーレンは最後まで彼をフィリグランというものでしか見ることができなかった。その結果があれだ。決して冒してはいけない領域に足を踏み入れた」
話を聞きながら、私は小さく頷いた。
「その罰として、ワーレンの王位継承権を剥奪し、永久にトキ殿に近づくことを禁じた。これは決定事項だ」
父親として、最も重い罰を与えてくださったのか……
もう二度と会うことがないのはトキにとっては一番安心できる罰だろう。
「そして、もう一つ。私はここではっきりと告げる。フィリグランが王家のものだという慣例は全て廃止する」
そのはっきりとした言葉に、一瞬時が止まったような気さえした。
「それが、陛下のご決断ですか?」
「ああ。遅すぎた決断だがな」
陛下は自嘲気味に微笑んだが、私とトキには嬉しい決断だ。
「これまで王家の人間がフィリグランを守り世話をしてきたが、あれはフィリグラン自身が望んだことだった。それをワーレンは曲解し、フィリグランが現れれば自分のものになると思い込んでいたのだ。だが、トキ殿の望みはランチェスター公爵。其方がそばにいることなのだろう。王家が果たせなかった役目を其方に託したい。どうか。トキ殿を頼む」
「言われるまでもありません。私はトキを心から愛していますから……」
そう告げた瞬間、陛下の表情は和らいだ気がした。
「トキ殿が目を覚ましたら……いや、いつでもいい。トキ殿の負担にならないときに正式に謝罪させてほしい」
「トキが望むならば……」
「……そうだな。わかった」
そう言って、陛下は応接室を出ていった。
――終わった。
やっとだ。
私は急いでトキの待つ寝室に戻った。
もうトキはフィリグランではない。
ただトキとしてここにいてくれたらいい。
私はトキの隣に身体を滑り込ませて、小さな身体をそっと抱きしめた。


