<side国王>
今年も私の生誕の宴は滞りなく終わった。
この宴を開くことができるのも我が国が平和な証。
そのことをひしひしと感じながら、私は自室にいた。
気になるのは、ランチェスター公爵が途中で帰ったことについてだ。
あの焦り様はただ事ではなかった。
あれほど感情をあらわにする者ではなかったから、余計に気になる。
それに、風に当たりに行くといったワーレンもあのあと姿を見せなかった。
私の祝いをなんだと思っているのだろう。本当に、愚息には呆れる。
大きなため息が漏れたところで、自室の扉をノックする音が聞こえた。
ワーレンが謝りに来たのかもしれない。
「入れ!」
少し怒りを滲ませながら声をかけると、入ってきたのは王城筆頭執事のグスタフ。
その表情は青白い。何かあったのは明白だ。
「どうした? 何があった?」
「王子が……ワーレン王子が、拘束されました」
「なっ――」
ワーレンが、拘束?
一体、何が起こっているんだ?
「どういうことだ? 説明してくれ」
できるだけ感情的にならぬよう、グスタフに問いかけた。
すると、グスタフは驚きの事実を話し始めた。
「王子は主人が留守にしているランチェスター公爵家に無理やり侵入。制止しようとした公爵家の専属医師を蹴り飛ばし、ランチェスター公爵の寝室に入り、ベッドに寝ていたお方に無体を働こうとしたところを、ランチェスター公爵様の手によって拘束され、現在は公爵家の地下にある檻に収容されているとのことでございます」
「ワーレンが? そのような愚かなことを?」
全く信じられない。
だが、グスタフが虚偽を述べる男ではないし、ランチェスター公爵も嘘を吐く人間でないことは十二分に理解している。
「その、ベッドに寝ていたというのは……ランチェスター公爵の、伴侶になる者か?」
「いいえ。それが……ランチェスター公爵が、隣国で命の危機に晒されているところを保護した、フィリグランだそうです」
「なっ、なんだと?」
脆く繊細な心を持つフィリグラン。
それは代々、王家の伴侶となるとされている存在の名。
だが、それは決定事項ではなく、全てはフィリグラン本人の意思が優先される。
今回発見されたフィリグランが命の危機にあったとするなら、それはランチェスター公爵が密かに保護し、守っていたのは当然のことだろう。ワーレンは公爵家にフィリグランがいると知って、力ずくで手に入れようとしたというのか……
なんと愚かな……
我が息子ながら呆れる。
この報告が事実であるならば、これはもはや使者を送るだけで済ませられる問題ではない。
「グスタフ。すぐに支度を整えよ。ランチェスター公爵家に向かう」
この目で息子の愚かさを確かめなければな。
馬車に乗り込み、公爵家に向かった。
先ほど大広間でこれからの国の繁栄を願っていたというのに、今の私の心はどうだろう。次期国王となるはずのワーレンの愚行に失望と悲しみしかない。
だが、それ以上に傷つけ不安にさせてしまったフィリグランに心から謝罪しなければいけない。
グスタフが公爵家の扉を叩く。
すぐに出てきたのは執事のクラウス。
彼は私の姿を見て驚いていた。
おそらくこれほど早くやってくるとは思っていなかったのだろう。
だが、国王として事実を確認するため、そして父として息子がしでかしたことの後始末をするためには、少しでも早く行くべきだと考えたのだ。
「ランチェスター公爵と話はできるか?」
「ただいま、トキ様と寝室にいらっしゃいますのでトキ様のご様子を確認してからでないとなんとも……」
「トキ、というのだな。保護したフィリグランは」
「はい。その通りでございます」
ワーレンが怯えさせてしまったのを、ランチェスター公爵が落ち着かせているところなのだろう。
「そうか、ならば其方に確認を頼むとしよう。私はその間、専属医師に話をきかせてもらいたい」
「承知いたしました。それではどうぞこちらに」
公爵家の応接室に案内され、すぐに公爵家専属医師のロジェリオがやってきた。
その表情には怒りが見える。
フィリグラン……いや、トキ殿への愚行、そして、自身に向けられた暴力。
そのどちらにも対する怒りだろう。
その怒りを私は咎める気にはなれない。むしろ当然の感情だと思えた。
「陛下」
「ロジェリオ。まず先に謝罪をさせてほしい。愚息が其方に無礼を働いたこと、本当に申し訳ない」
頭を下げると、ロジェリオはハッと息を呑んだ。
「謝罪を受け取る立場ではありません。ただ、事実をお伝えします」
彼は感情を抑えるように淡々と語り始めた。
「トキ様は、隣国で捕えられ命を落とす寸前で公爵様に救出されました。そのため、目を覚まされてから公爵様でさえ怯えておられたのです。公爵様の献身的なお世話でようやく公爵様にだけ心を開かれるようになりましたが、今でもまだ恐怖反応が強く、誰ともお会いになれない状態です」
そんな状態の中、ワーレンは無理やり押し入って自分のものにしようとしたのか……
「……トキ殿の、命に別状はないのか?」
「命に別状はございません。ただ、先ほどの王子の行動により、恐怖反応は強くなったかと存じます」
ロジェリオの言葉に、私は何もいえなかった。
今年も私の生誕の宴は滞りなく終わった。
この宴を開くことができるのも我が国が平和な証。
そのことをひしひしと感じながら、私は自室にいた。
気になるのは、ランチェスター公爵が途中で帰ったことについてだ。
あの焦り様はただ事ではなかった。
あれほど感情をあらわにする者ではなかったから、余計に気になる。
それに、風に当たりに行くといったワーレンもあのあと姿を見せなかった。
私の祝いをなんだと思っているのだろう。本当に、愚息には呆れる。
大きなため息が漏れたところで、自室の扉をノックする音が聞こえた。
ワーレンが謝りに来たのかもしれない。
「入れ!」
少し怒りを滲ませながら声をかけると、入ってきたのは王城筆頭執事のグスタフ。
その表情は青白い。何かあったのは明白だ。
「どうした? 何があった?」
「王子が……ワーレン王子が、拘束されました」
「なっ――」
ワーレンが、拘束?
一体、何が起こっているんだ?
「どういうことだ? 説明してくれ」
できるだけ感情的にならぬよう、グスタフに問いかけた。
すると、グスタフは驚きの事実を話し始めた。
「王子は主人が留守にしているランチェスター公爵家に無理やり侵入。制止しようとした公爵家の専属医師を蹴り飛ばし、ランチェスター公爵の寝室に入り、ベッドに寝ていたお方に無体を働こうとしたところを、ランチェスター公爵様の手によって拘束され、現在は公爵家の地下にある檻に収容されているとのことでございます」
「ワーレンが? そのような愚かなことを?」
全く信じられない。
だが、グスタフが虚偽を述べる男ではないし、ランチェスター公爵も嘘を吐く人間でないことは十二分に理解している。
「その、ベッドに寝ていたというのは……ランチェスター公爵の、伴侶になる者か?」
「いいえ。それが……ランチェスター公爵が、隣国で命の危機に晒されているところを保護した、フィリグランだそうです」
「なっ、なんだと?」
脆く繊細な心を持つフィリグラン。
それは代々、王家の伴侶となるとされている存在の名。
だが、それは決定事項ではなく、全てはフィリグラン本人の意思が優先される。
今回発見されたフィリグランが命の危機にあったとするなら、それはランチェスター公爵が密かに保護し、守っていたのは当然のことだろう。ワーレンは公爵家にフィリグランがいると知って、力ずくで手に入れようとしたというのか……
なんと愚かな……
我が息子ながら呆れる。
この報告が事実であるならば、これはもはや使者を送るだけで済ませられる問題ではない。
「グスタフ。すぐに支度を整えよ。ランチェスター公爵家に向かう」
この目で息子の愚かさを確かめなければな。
馬車に乗り込み、公爵家に向かった。
先ほど大広間でこれからの国の繁栄を願っていたというのに、今の私の心はどうだろう。次期国王となるはずのワーレンの愚行に失望と悲しみしかない。
だが、それ以上に傷つけ不安にさせてしまったフィリグランに心から謝罪しなければいけない。
グスタフが公爵家の扉を叩く。
すぐに出てきたのは執事のクラウス。
彼は私の姿を見て驚いていた。
おそらくこれほど早くやってくるとは思っていなかったのだろう。
だが、国王として事実を確認するため、そして父として息子がしでかしたことの後始末をするためには、少しでも早く行くべきだと考えたのだ。
「ランチェスター公爵と話はできるか?」
「ただいま、トキ様と寝室にいらっしゃいますのでトキ様のご様子を確認してからでないとなんとも……」
「トキ、というのだな。保護したフィリグランは」
「はい。その通りでございます」
ワーレンが怯えさせてしまったのを、ランチェスター公爵が落ち着かせているところなのだろう。
「そうか、ならば其方に確認を頼むとしよう。私はその間、専属医師に話をきかせてもらいたい」
「承知いたしました。それではどうぞこちらに」
公爵家の応接室に案内され、すぐに公爵家専属医師のロジェリオがやってきた。
その表情には怒りが見える。
フィリグラン……いや、トキ殿への愚行、そして、自身に向けられた暴力。
そのどちらにも対する怒りだろう。
その怒りを私は咎める気にはなれない。むしろ当然の感情だと思えた。
「陛下」
「ロジェリオ。まず先に謝罪をさせてほしい。愚息が其方に無礼を働いたこと、本当に申し訳ない」
頭を下げると、ロジェリオはハッと息を呑んだ。
「謝罪を受け取る立場ではありません。ただ、事実をお伝えします」
彼は感情を抑えるように淡々と語り始めた。
「トキ様は、隣国で捕えられ命を落とす寸前で公爵様に救出されました。そのため、目を覚まされてから公爵様でさえ怯えておられたのです。公爵様の献身的なお世話でようやく公爵様にだけ心を開かれるようになりましたが、今でもまだ恐怖反応が強く、誰ともお会いになれない状態です」
そんな状態の中、ワーレンは無理やり押し入って自分のものにしようとしたのか……
「……トキ殿の、命に別状はないのか?」
「命に別状はございません。ただ、先ほどの王子の行動により、恐怖反応は強くなったかと存じます」
ロジェリオの言葉に、私は何もいえなかった。


