異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

<sideエリアス>

大広間を飛び出し、馬車の待機場に向かう。

「ヨハン! 馬を外せ!」

突然現れた私の姿にヨハンは慌てていたが、私の勢いに押されてすぐに馬車から馬を外した。

「旦那様、鞍を」

「鞍はいらん!」

馬の背に一息で飛び乗り、踵を入れた。

「ヴィント、急げ! トキが危ない!」

その声が聞こえたのか、ヴィントは力強く蹄で石畳を叩き、走り出した。

「門を開けろ!」

私の声に門番が急いで城門を開ける。
少し開いた門をすり抜けるように飛び出した。

屋敷まで飛ばせばすぐだ。
トキのことを思うと、振り下ろす手綱に力が籠る。
ヴィントは限界まで速度を上げた。

トキ! 間に合ってくれ!

自分の愚かさを呪い、唇を噛み締める。
私が守ると約束したのに、トキを怖がらせてしまっている。

くそっ!

怒りに震えながら手綱を振り、ようやく屋敷が見えて馬から飛び降りた。

玄関に走り、扉を開ける。必ず出迎えるはずのクラウスの姿はない。
それだけで異常さを物語っている。

階段を駆け上がり、自室の扉を開いた途端、恐怖に押しつぶされたトキの必死の声が聞こえた。トキの名を呼び、迷うことなく寝室の扉の前に立つ男の顔に拳を入れた。

「ぐはぁっ!」

手加減もなく殴りつけたせいで、骨が砕ける音が聞こえたがどうでもいい。
扉から離れた場所に飛ばされた男に目をむける時間も惜しい。

「縛り上げて地下に連れて行け!」

それだけ指示を出し、急いで寝室に飛び込む。
トキはベッドの上で身体を小さく縮こませて震えていた。

「トキ!」

その呼びかけにトキが振り向いて私を見た。

「……え、りあす、さん……」

怖かったと表情で訴えるトキに駆け寄り、強く抱きしめる。

「もう大丈夫だ。怖がらせて申し訳ない」

小さな身体をこんなにも震わせているのに、トキは私に縋りついたまま何も言わない。私の胸に顔を擦り寄せ、首を横にふる。

こんなにも怖い思いをしたというのに、私のせいではないと言ってくれるのか……
なんと優しいのだろう。
トキの顔を覗き込むと、血の気が引いて顔が青白い。
このまま無理をしたら意識を失ってしまうだろう。

「トキ、少し身体を休ませよう」

「いや! エリアスさん……はなれないで。そばにいて……」

私がまたどこかに行ってしまうと思ったのかもしれない。
トキの必死な声を聞くだけで胸が痛い。

「大丈夫、どこにも行かないから」

腕の中にいるトキに声をかけながら、そっと扉に視線を送る。
クラウスとロジェリオの姿が見えて、目で指示を出した。

二人は静かに頷き、扉を閉めた。

ようやく二人きりの空間が訪れ、安心してくれたのかトキの身体の力が抜けるのを感じる。それほど恐怖に怯えていたということだ。

私の心音がしっかりと聞こえるように急いで上着を脱ぎ捨てながらトキを抱きしめる。急いできたせいで汗をたっぷりかいているが、

「エリアスさんの匂い、安心する……」

と言ってくれる。

そして、そのままトキは眠りについた。

小一時間ほど抱きしめていると、静かに扉をノックする音が聞こえる。
トキを起こさぬようにそっとベッドから抜け出し、扉を開ける。
そこにはロジェリオの姿があった。

「旦那様。トキ様にこれを……」

「なんだ?」

「深い眠りに落としてくれる液体薬です。即効薬で効果は一時間。その間に、旦那様にしていただきたいことがございます」

ロジェリオの言いたいことはわかっている。
私がトキを守るために振るった拳の後始末だ。

「あれは、王子だったのだな?」

「はい。その通りでございます」

あのときの私にはトキを襲おうとする賊にしか見えなかった。
だが、あの時あれが王子だとわかっていても、結果的には同じことをしただろう。

「たとえあれが王子であろうと主のいない屋敷に上がり込み、勝手に寝室に踏み込む理由にはならない。私は当然のことをしたまでだ」

私のキッパリとした言葉に、ロジェリオは大きく頷いた。

「旦那様がトキ様をお守りにならなかったら、今頃トキ様は命を落としていらっしゃったことでしょう。旦那様がなさったことは正しい行いであると私も思っております」

「ロジェリオ、ありがとう。トキに薬を飲ませたら、私も地下室に行く。待っていてくれ」

「承知いたしました」

私はロジェリオから薬を受け取り、眠るトキのもとに戻った。
そして、液体薬を口に含みゆっくりとトキに流し込んだ。

こくりとトキの喉が動くのを見て、私は静かにベッドを出た。