異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

<sideロジェリオ>

トキ様のことを伺ってから、こちらに住み込みでお世話になっていた。
だが、トキ様がお一人になられると決まってから、何かあった時のために薬などを準備しておこうと、一旦自宅に帰っていた。

フィリグランは心が繊細で脆く傷つきやすいため、ほんの少しのことも命に関わる。
ましてや、トキ様は隣国で酷い扱いを受けたことにより、心も身体も傷ついていらっしゃる。そんな中、旦那様のことを慮って、一人でお過ごしになることを決めたトキ様をお守りするために、貯蔵庫にある薬をあれもこれも携えて公爵家に戻った。

屋敷に入ると、しんと静まり返っている。

「旦那様はもうお出になられたのですか?」

「はい。先ほどおでかけになりました。トキ様は旦那様の寝室でお休み中でございます」

この静けさはそのためか。
トキ様の心の平穏を保つために、皆が静かに見守っているということなのだろう。

旦那様がお帰りになるまで、ここまま平和であればいい。
そう願っていたのだが……

公爵家の客間で何かあった時のために薬を整えていると、突然玄関のチャイムが激しく鳴り響いた。
このチャイムは旦那様の部屋には聞こえない仕様になっているから、これでトキ様がお目覚めになることはない。だが、それにしてもこの非常識なベルの鳴らし方はなんだ?

公爵家を訪ねてくる客人とは思えない、その振る舞いに怒りすら感じてしまう。
狂気的にも思えるその様子に、私は居てもたってもいられず客間を飛び出した。

急いで玄関に向かえば、クラウス殿が玄関を前に困惑の表情を浮かべている。

「どうしたんですか?」

「あ、ロジェリオ様。突然、おう――」

クラウス殿が説明をしようとした矢先、玄関の外から大声が響き渡る。

「私は王子だ。この扉を開けろ! 早く開けないと処罰の対象だぞ!」

まさかの王子の訪問に驚いた。
だが王子といえども、旦那様がお留守のこの屋敷に勝手に入れることなどできない。
しかも二階にはトキ様がいらっしゃるのだ。

「申し訳ございません。ただいま旦那様がお留守でございますのでお引き取りを……」

クラウス殿がなんとか鎮めようと扉越しに声を掛ける。
だが、やむどころか激しくなる一方。

「何を言っている! 早く開けぬか! ドアを蹴破って入っても良いのだぞ!」

ドーン、ドーンと玄関扉が激しい音を立てる。
明らかに拳で叩いているのとは違う音が聞こえる。
このままだと本当に扉が蹴破られそうだ。

「クラウス殿。扉を開けましょう。そして話をして帰っていただくのです」

クラウス殿は困惑気味に頷く。
万が一のために、と旦那様から渡されているベルを懐でこっそり鳴らすと同時に、クラウス殿が扉に手をかけた。
鍵を開けると、汗を流し、ニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべた王子が入ってきた。

「フィリグランはどこだ? この家にいるのだろう?」

「い、いらっしゃいません」

クラウス殿は必死にかぶりを振り、隠し通そうとしたが王子は大声でそれを遮った。

「嘘をつくな! 私は全て知っておる。ランチェスター公爵がフィリグランを独り占めにしようとしていることも全てな。早くフィリグランのもとに連れて行け!」

おそらく何かのきっかけで宴の最中に、トキ様のことをご存知になったのだろう。
だが、それならばトキ様が床に臥せっておられるのもお聞きになっているはず。
ここは主治医として私がしっかりと説き伏せるところだろう。

「恐れながら王子、トキ様はお話しできる状態にございません。申し訳ございませんが、今日のところおはお引き取り願います」

「お前まで嘘をついて私にフィリグランを会わせないつもりか?」

「いいえ。嘘ではございません。命に関わることなのです。ですから、どうか……」

王子の足元に跪いて懇願する。だが、全く聞き入れられない。

「ええい! うるさい! さっさとそこを退け!」

「ぐはっ!」

邪魔だと言わんばかりに思いっきり蹴り飛ばされ、私が床に倒れている間に王子は階段を駆け上がっていく。

「王子、おやめください!」

「うるさい! 私に指図をするな!」

王子が部屋に行かぬように、クラウス殿が必死に足に縋り付く。
しばしの格闘の末、王子は制止を振り切って旦那様の部屋に向かう。
それを見て、私は痛みを堪えて階段を駆け上がった。

「ここだな? 公爵の部屋は。自分の部屋にフィリグランを隠すとは、ランチェスター公爵もすっかり魅了されているようだな。そんな美人なら私にぴったりだ」

顔をニヤつかせながら旦那様の扉を開け、入っていく。

私は必死に後を追い、旦那様の部屋に入った。
だが、そのときすでに王子はトキ様がいらっしゃる寝室の扉に手をかけておられた。

「いやぁーーーっ!」

トキ様の断末魔の叫びの如き絶叫が響いた瞬間、私の背後から「トキ!!」と旦那様の声が聞こえた。
痛みを堪え振り返った時には、旦那様はもう私の横をすり抜けて行かれた後だった。
そして、寝室の扉の前にいた王子を渾身の力で殴りつけ、あっという間に寝室の中に消えていった。