異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

「皆の者。今宵は楽しんでくれ」

陛下のありがたいお言葉があり、宴が始まる。
大広間に楽師たちが奏でる音楽と、列席者の和やかな声が柔らかく響き始めた。
私に声をかけてくる者たちに囲まれるが私にはこんなことをしている時間はない。
トキを一人で待たせているのだ。
二時間の約束を破るわけにはいかない。
私は適当に話を終わらせ列席者の合間を抜け、陛下の御前に向かった。

「陛下」

静かに一礼をして、陛下の御前に進み出た。

「陛下におかれましては、本日この佳き日をお迎えになられましたこと、心よりお慶び申し上げます」

「おお、ランチェスター公爵か。祝福に感謝する。だが今宵はめでたい日だ。これ以上堅苦しい挨拶はいらぬ」

「はっ。陛下のお心遣い、ありがたく存じます」

だが、もうそろそろ帰ることを伝えなければいけない。
そう告げようと思ったところで、陛下から言葉を投げかけられた。

「それより、相変わらずめでたい話は聞かぬな。其方の元には毎日縁談話が来ているそうではないか? そろそろ身を固める気にはならぬか?」

ワーレン王子の縁談もだが、フィオラード王国唯一の公爵家の私の縁談も陛下は気になさっておられるようで、毎回こうしてお尋ねになられる。

「いえ、私は……」

トキと出会った今は、トキ以外の者と結婚など考えられない。
だが、そのことを伝えるわけにはいかない。
チラリと陛下の後ろにおられるはずのワーレン王子の姿を探すがどこにも見当たらない。

「陛下。あの……王子はどちらに?」

「ああ、先ほど少し風に当たってくると言って出て行ったな。あいつにもいい加減、身を固めて欲しいのだが、いかんせん本人に結婚の意思が見えぬ。高望みばかりしおって……本当に呆れたものだ」

陛下は大きなため息を吐かれるが、私の胸の奥に言葉にはできない何か不吉な予感が蠢いた。

「ランチェスター公爵、其方だけでも先に私を安心させてくれぬか? 其方のことを気に入っている娘がいる。隣国の姫君だがどうだ? 一度会って……」

そうおっしゃられたところで、私の胸ポケットからベルが鳴り響いた。
トキに何かがあったのだ!
そう思ったら居ても立ってもいられなくなった。

「陛下。申し訳ございません。すぐに屋敷に戻らなければいけない事態になりましたので、これで失礼致します」

私は陛下に頭を下げ、急いでその場を離れた。
私を呼ぶ陛下の声が背後に聞こえていたが、それを気にする余裕など何もなかった。

<side斗希>

エリアスさんを見送って、多分まだ三十分くらいしか経っていないだろう。
でも身体の半分が消えてしまったような、そんな喪失感に襲われる。

だめだ、こんなんじゃ。
エリアスさんに心配させてしまう。

僕はちゃんと笑顔でエリアスさんを迎えるんだ!
そう必死に気持ちを奮い立たせるけれど、やっぱり少し経つと気持ちが弱くなってくる。

本当に僕は、エリアスさんがいないと何もできなくなってしまっている。
頑張ろうと思っても、どうしようもなく不安でたまらない。

エリアスさん……早く、帰ってきて……

エリアスさんに渡されたベル。
これを鳴らしたらすぐに帰ってきてくれるって言ってたけど、さすがにこれは鳴らせないな。

だって国王さまのお誕生日を途中で抜けるわけにはいかない。

もう少し頑張ろう。
今日を乗り切ることができたらきっと、これから僕はもっと頑張れる。
気持ちを落ち着けるために深呼吸をしてみる。

すると部屋の外で微かに何かが騒いでいるような声が聞こえた。

何かあったのかな?
今までこんな声、この家で聞いたことがない。
しかも声が近づいてくる気がする。
しんとしているから余計にそれがわかる。

こわい、こわい。

身体の震えが止まらない。
ここに来ないで!
ずっと願っていたけれど、

「おやめください!」

「うるさい! 私に指図をするな!」

そんな声が僕がいる寝室にも鮮明に聞こえてきた。

「ここだな、フィリグランがいるのは」

絶対にエリアスさんとは違う声が聞こえる。
同時に、ガチャリと扉が開いていくのが見えて、気づいたら僕は手に持っていたベルを鳴らしてしまっていた。