「ワーレン王子……」
「ランチェスター公爵か。久しいな。其方、最近めっきり外出をしていないという噂を聞いたが、先ほどのこやつの言葉が関係あるのか?」
なんということだ。よりにもよって一番聞かれたくない相手に聞かれてしまった。
ワーレン王子はこの国で一番の美形として国内外に名を轟かせているが、そのせいでかねてより自分と見た目が釣り合うものを娶ると公言している。そのため、夥しい数の縁談話を片っ端から断っているという噂だ。
すでに適齢期を迎えているが、全く結婚相手を決めようとしない王子に頭を抱えていた陛下だから、フィリグランがこの国にいると知れば、必ず王子の伴侶にする。それがわかっていたから、トキを発見したことを陛下には報告できずにいた。
それに何より、私がトキを手放したくないのだ。
だが、知られた以上誤魔化すことはできないだろう。
「ランチェスター公爵。答えよ。こやつの言葉が関係あるのか?」
二度尋ねられては、もう答えるしかない。
「コルト。下がっていろ」
私と王子のそばで震え上がっていた給仕に声をかけ、下がらせてからゆっくりと口を開いた。
「陛下にはもうしばらく経ってからご報告に上がるつもりでしたが、先日隣国でフィリグランを発見、保護いたしました」
「そうか! ようやく現れたか! ここまで待ち続けていた甲斐があったというものだ」
王子はもうすっかり乗り気になっていらっしゃる。
もちろん、今までのフィリグランは皆、時の王へご報告の上、国王、もしくは王子の伴侶になっているのだから王子がそう思うのも無理はない。
「父上の祝いの日に、素晴らしい報告ができるな。ランチェスター公爵、其方もそう思うだろう?」
にこやかな笑顔を見せる王子とは対照的に、私はやはり出席するのではなかったと後悔の念が渦巻いていた。
「それで、いつ報告に来るつもりだ?」
「申し訳ありません。まだ具体的な日時はお話できない状態です」
「それは、どういうことだ?」
王子は訝しんだ目で私を見る。おそらく私がフィリグランに魅了され、独占していると思われているのだろう。
「私が保護したフィリグランは隣国で心をひどく傷つけられ、ベッドから一人では起き上がれない状態なのです」
「なんと……っ、それはまことか?」
「はい。ですから、まだ人前に出すには時間がかかるかと……」
私の言葉に王子は何やら考え込んだ表情を見せる。
「ランチェスター公爵。其方の話が嘘だとは思わないが、こちらとしても一度確かめたい」
「えっ? 確かめたい、とは……?」
「王家の専属医師をそちらに向かわせ、フィリグランの診断をさせる。その医師に判断をさせよう」
「それは……」
今、トキに余計な心労を与えたくない。
ロジェリオに診せるのもあれほど身体を震わせていたというのに。
「何か、問題でもあるのか?」
ここで私が断れば嘘だと思いかねない状況だ。
だが、トキのためにはそれを認めるわけにはいかない。
「申し訳ございません。それはフィリグランにかなりの負担を強いることになります。フィリグランの心が脆く繊細なのは王子もご存知でしょう? 無理を強いれば繊細な心をさらに傷つける恐れもございます。どうか今はそっとしておいていただきたい」
王子に頭を下げていると、部屋の中で陛下が入場されるという声が高らかに響いた。
「王子。今はとりあえず話を中断させていただきます」
「……わかった」
王子は渋々ながらも了承し、部屋の中に入った。
陛下と王妃様が並んでご入場されるのを、私と王子は並んで見守った。
その間も、王子からずっと突き刺さるような視線を感じていた。
陛下と王妃様が席に着かれ、王子もすぐにそちらに向かわれた。
ようやく視線を浴びずに安堵したのも束の間、王子はそこからもずっと私の動向を確認しているように見えた。
ああ、トキ……
私は絶対に王子から其方を守る。
だから安心してくれ。
「ランチェスター公爵か。久しいな。其方、最近めっきり外出をしていないという噂を聞いたが、先ほどのこやつの言葉が関係あるのか?」
なんということだ。よりにもよって一番聞かれたくない相手に聞かれてしまった。
ワーレン王子はこの国で一番の美形として国内外に名を轟かせているが、そのせいでかねてより自分と見た目が釣り合うものを娶ると公言している。そのため、夥しい数の縁談話を片っ端から断っているという噂だ。
すでに適齢期を迎えているが、全く結婚相手を決めようとしない王子に頭を抱えていた陛下だから、フィリグランがこの国にいると知れば、必ず王子の伴侶にする。それがわかっていたから、トキを発見したことを陛下には報告できずにいた。
それに何より、私がトキを手放したくないのだ。
だが、知られた以上誤魔化すことはできないだろう。
「ランチェスター公爵。答えよ。こやつの言葉が関係あるのか?」
二度尋ねられては、もう答えるしかない。
「コルト。下がっていろ」
私と王子のそばで震え上がっていた給仕に声をかけ、下がらせてからゆっくりと口を開いた。
「陛下にはもうしばらく経ってからご報告に上がるつもりでしたが、先日隣国でフィリグランを発見、保護いたしました」
「そうか! ようやく現れたか! ここまで待ち続けていた甲斐があったというものだ」
王子はもうすっかり乗り気になっていらっしゃる。
もちろん、今までのフィリグランは皆、時の王へご報告の上、国王、もしくは王子の伴侶になっているのだから王子がそう思うのも無理はない。
「父上の祝いの日に、素晴らしい報告ができるな。ランチェスター公爵、其方もそう思うだろう?」
にこやかな笑顔を見せる王子とは対照的に、私はやはり出席するのではなかったと後悔の念が渦巻いていた。
「それで、いつ報告に来るつもりだ?」
「申し訳ありません。まだ具体的な日時はお話できない状態です」
「それは、どういうことだ?」
王子は訝しんだ目で私を見る。おそらく私がフィリグランに魅了され、独占していると思われているのだろう。
「私が保護したフィリグランは隣国で心をひどく傷つけられ、ベッドから一人では起き上がれない状態なのです」
「なんと……っ、それはまことか?」
「はい。ですから、まだ人前に出すには時間がかかるかと……」
私の言葉に王子は何やら考え込んだ表情を見せる。
「ランチェスター公爵。其方の話が嘘だとは思わないが、こちらとしても一度確かめたい」
「えっ? 確かめたい、とは……?」
「王家の専属医師をそちらに向かわせ、フィリグランの診断をさせる。その医師に判断をさせよう」
「それは……」
今、トキに余計な心労を与えたくない。
ロジェリオに診せるのもあれほど身体を震わせていたというのに。
「何か、問題でもあるのか?」
ここで私が断れば嘘だと思いかねない状況だ。
だが、トキのためにはそれを認めるわけにはいかない。
「申し訳ございません。それはフィリグランにかなりの負担を強いることになります。フィリグランの心が脆く繊細なのは王子もご存知でしょう? 無理を強いれば繊細な心をさらに傷つける恐れもございます。どうか今はそっとしておいていただきたい」
王子に頭を下げていると、部屋の中で陛下が入場されるという声が高らかに響いた。
「王子。今はとりあえず話を中断させていただきます」
「……わかった」
王子は渋々ながらも了承し、部屋の中に入った。
陛下と王妃様が並んでご入場されるのを、私と王子は並んで見守った。
その間も、王子からずっと突き刺さるような視線を感じていた。
陛下と王妃様が席に着かれ、王子もすぐにそちらに向かわれた。
ようやく視線を浴びずに安堵したのも束の間、王子はそこからもずっと私の動向を確認しているように見えた。
ああ、トキ……
私は絶対に王子から其方を守る。
だから安心してくれ。


