トレイの上にたくさんのグラスを載せていたコルトは、私の姿を見ると、近くのテーブルにトレイを置き、深々と頭を下げた。
窶れきってフラフラだったあの時の姿とは比べ物にならない様子だ。
「やはり其方だったか。元気にしていたか?」
「はい。ランチェスター公爵様にはお力添えをいただき、深く感謝を申し上げます」
コルトの言葉に嘘はないだろう。
だが、なんとなく表情に違和感がある。
「其方と少し話がしたい。テラスに出られるか?」
「は、はい。お供させていただきます」
コルトをじっと見つめたまま声をかけると、やけに身体をびくつかせる。
だが、拒むことはなく私に黙ってついてきた。
誰もいないテラスの隅にコルトを連れていく。
私は何も言わずに黙ってコルトの表情を見ていたが、彼はだんだんと落ち着きがなくなっていく。
「あ、あの……お話とはなんでございましょう?」
「まだ宴が始まるまでは時間がある。そう焦ることもないだろう」
王家に次ぐ力を持つ私と共にいるのだ。
誰に見られたとして邪魔されることはないだろう。
「其方は私に何か隠し事はないか?」
その何かとはもちろんトキのことであるが、目の前のこの男がそれを知っているのかどうかが知りたい。
「あの、私には何も……」
「今、全てを吐くなら情状酌量の余地もあるぞ。それでも何も知らないを貫けるか?」
コルトの表情を見る限り、確実に何かを隠していることは間違いない。
「良いのだな?」
最後の言葉をかけるとコルトは一気に表情を青褪めさせ、その場に崩れ落ちた。
そして、そのまま床に平伏し、額に擦り付けて詫びの言葉を述べた。
「其方の口から全て話してもらおうか」
私の言葉に、コルトは観念したように話し始めた。
「あの日、屋敷に戻ると旦那様のお姿が見えず、他の使用人たちに一階を探すように命じ、私は一人で二階の旦那様の部屋に向かいました。ノックをしても何の反応もなく、部屋に入ると開いた本棚の前で倒れていらっしゃったのです」
「お前はあの地下室の存在を知っていたのだな」
コルトは震えながら頷いた。
「旦那様が以前、酒に酔われた時に話をされていました。地下室にはいつも宝を隠すのだ、と。それで、あの日地下室の扉が開いていて私はつい、出来心で入ってしまいました」
「それで、何を見た?」
「てっきり、金銀財宝があるのかと思っていたのですが、暗がりでほとんど何も見えず、唯一見つけたのは小さな檻。その中に何か動物のようなものがいるのを見ました。近づこうとすると、突然ひどい頭痛に襲われ、もしかしたら呪いかもしれないと急いでその場を離れました。それだけです」
コルトは檻の中にいたトキを見ていた。
だが近づくことはできなかった、というわけか。
私の時には、そのような頭痛などはなかった。
それは神が私にだけ近づくことをお許しになったということか?
「では、もう一つ聞かせてもらおうか。なぜ、そのことを私に伝えなかった?」
コルトが地下室の存在と中で見つけたそれを教えてくれさえいれば、もっと早くトキを救出できたのだ。
「申し訳ございません。頭痛がひどく、立っていられないほどの有様でしたので、すぐにでもあの屋敷を出たかったのです。もし、あの地下室のことを告げ、公爵様がお入りになったら私と同じように呪いを受けるのでは、と考えた次第でございます」
その言葉に嘘はなさそうだ。
「では、其方はその檻の中のものを見ていないのだな?」
「は、はい。ですが……公爵様がお見えになるまでに、何度か旦那様がおっしゃっておられた言葉が耳に残っております」
その言葉になんとなく嫌な予感がした。
「フィリグ……」
「コルト! それ以上は口にするな!」
慌てて声をかけたが、最悪なことにそのタイミングでテラスにやってきた人にコルトの言葉を聞かれてしまった。
「今、なんと言ったのだ? フィリグランと言わなかったか?」
駆け寄ってきたのは、紛れもなくこの国のコルドゥラ陛下の御嫡男、ワーレン王子の姿だった。
窶れきってフラフラだったあの時の姿とは比べ物にならない様子だ。
「やはり其方だったか。元気にしていたか?」
「はい。ランチェスター公爵様にはお力添えをいただき、深く感謝を申し上げます」
コルトの言葉に嘘はないだろう。
だが、なんとなく表情に違和感がある。
「其方と少し話がしたい。テラスに出られるか?」
「は、はい。お供させていただきます」
コルトをじっと見つめたまま声をかけると、やけに身体をびくつかせる。
だが、拒むことはなく私に黙ってついてきた。
誰もいないテラスの隅にコルトを連れていく。
私は何も言わずに黙ってコルトの表情を見ていたが、彼はだんだんと落ち着きがなくなっていく。
「あ、あの……お話とはなんでございましょう?」
「まだ宴が始まるまでは時間がある。そう焦ることもないだろう」
王家に次ぐ力を持つ私と共にいるのだ。
誰に見られたとして邪魔されることはないだろう。
「其方は私に何か隠し事はないか?」
その何かとはもちろんトキのことであるが、目の前のこの男がそれを知っているのかどうかが知りたい。
「あの、私には何も……」
「今、全てを吐くなら情状酌量の余地もあるぞ。それでも何も知らないを貫けるか?」
コルトの表情を見る限り、確実に何かを隠していることは間違いない。
「良いのだな?」
最後の言葉をかけるとコルトは一気に表情を青褪めさせ、その場に崩れ落ちた。
そして、そのまま床に平伏し、額に擦り付けて詫びの言葉を述べた。
「其方の口から全て話してもらおうか」
私の言葉に、コルトは観念したように話し始めた。
「あの日、屋敷に戻ると旦那様のお姿が見えず、他の使用人たちに一階を探すように命じ、私は一人で二階の旦那様の部屋に向かいました。ノックをしても何の反応もなく、部屋に入ると開いた本棚の前で倒れていらっしゃったのです」
「お前はあの地下室の存在を知っていたのだな」
コルトは震えながら頷いた。
「旦那様が以前、酒に酔われた時に話をされていました。地下室にはいつも宝を隠すのだ、と。それで、あの日地下室の扉が開いていて私はつい、出来心で入ってしまいました」
「それで、何を見た?」
「てっきり、金銀財宝があるのかと思っていたのですが、暗がりでほとんど何も見えず、唯一見つけたのは小さな檻。その中に何か動物のようなものがいるのを見ました。近づこうとすると、突然ひどい頭痛に襲われ、もしかしたら呪いかもしれないと急いでその場を離れました。それだけです」
コルトは檻の中にいたトキを見ていた。
だが近づくことはできなかった、というわけか。
私の時には、そのような頭痛などはなかった。
それは神が私にだけ近づくことをお許しになったということか?
「では、もう一つ聞かせてもらおうか。なぜ、そのことを私に伝えなかった?」
コルトが地下室の存在と中で見つけたそれを教えてくれさえいれば、もっと早くトキを救出できたのだ。
「申し訳ございません。頭痛がひどく、立っていられないほどの有様でしたので、すぐにでもあの屋敷を出たかったのです。もし、あの地下室のことを告げ、公爵様がお入りになったら私と同じように呪いを受けるのでは、と考えた次第でございます」
その言葉に嘘はなさそうだ。
「では、其方はその檻の中のものを見ていないのだな?」
「は、はい。ですが……公爵様がお見えになるまでに、何度か旦那様がおっしゃっておられた言葉が耳に残っております」
その言葉になんとなく嫌な予感がした。
「フィリグ……」
「コルト! それ以上は口にするな!」
慌てて声をかけたが、最悪なことにそのタイミングでテラスにやってきた人にコルトの言葉を聞かれてしまった。
「今、なんと言ったのだ? フィリグランと言わなかったか?」
駆け寄ってきたのは、紛れもなくこの国のコルドゥラ陛下の御嫡男、ワーレン王子の姿だった。


