異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

そしてあっという間に陛下の生誕祝いの宴の日がやってきた。
トキを安心させるために家を出る直前までトキのそばにいた。

「二時間で必ず帰ってくるから安心してくれ」

「エリアスさん。僕は大丈夫ですから、パーティーを楽しんできてください」

そうして笑顔を見せてくれるが、きっと内心は不安に駆られていることだろう。

「何かあれば、このベルを鳴らしてくれ。王城までなら十分反応する。すぐに飛んで帰ってくるよ」

この日のために特別に用意しておいたベルを渡すと、トキは明らかに安堵の表情を浮かべた。
おそらくトキのことだ。
どれだけ不安になっても私のためにベルを鳴らすのを我慢するだろう。
だが、トキに何かがあった時に私と繋がることができるものを持っているというだけでトキの不安が少しは解消されるに違いない。

「気をつけて行ってきて下さい」

ベッドに腰をかけていた私にトキが見送りの言葉をかけてくれて、ついよからぬ考えが頭をよぎった。

「トキ。我が家には見送る際に、その……頬に口付けをして見送るという儀式があるのだが、してもらえないだろうか?」

「えっ? そんな儀式が?」

トキは驚いているが、そんな儀式あるわけがない。
そんなことをするのは、思いが通じ合った夫婦や恋人だけだ。
本当は唇に、と言いたかったがそれはかなりハードルが高い。
頬ならばトキもしてくれるのではないかと期待したのだが、やはりあまりにも性急過ぎたようだ。

冗談だから……

そう言おうとして口を開きかけたそのとき、トキがそっと顔を近づけてきた。
そして、柔らかなトキの唇が私の頬に触れる。

「エリアスさん。気をつけて行ってきて下さい。帰ってきたらお土産話を聞かせて下さいね」

口付けだけでも信じられないほど嬉しかったのに、さらにそんな優しい言葉をかけられる。

「あ、ああ。行ってくるよ」

その場で昇天してしまいそうだったのを必死に堪えて立ちあがろうとすると、そっと私の服の袖をトキが引っ張った。
やはり私が離れてしまうのが怖いのだろうか。

そう思いながらトキに振り返る。

すると、トキは私の予想を大きく上回る言葉を告げてきた。

「あの、僕の頬にはしないんですか?」

私にほんのり赤く色づいた頬を見せながら、そんなことを言ってくる。
まさか、トキのほうからそのような言葉をかけてくれるとは思いもしなかったが、こんな夢のような機会を失うわけにはいかない。

興奮で声が上ずりそうになるのを抑えて、「そうだったな」とあたかも当然のようにトキに顔を近づけた。

トキの反対の頬に手を当て、もう片方の頬に唇を当てる。

眠っているトキと何度か唇同士を重ねたことはあるが、起きているトキとは初めてのことだ。それが頬であろうが、私には特別な瞬間だ。

トキの柔らかな頬から唇を離すのが名残惜しいが、長々とするわけにもいかない。

そっと唇を離すと、トキは可愛らしい笑顔で私を見てくれた。

「行ってくるよ」

これ以上、ここにいると離れがたくなる。
私はトキに声をかけ寝室を出た。

ふぅと深呼吸をして気を引き締めて部屋を出る。

すぐに駆け寄ってきたクラウスに、「この部屋から目を離すな」と指示を出した。

トキと物理的に離れることに不安も残しつつ、私はヨハンの馬車で王城に向かった。
すでに城の大広間には招待客のほとんどが集まっていた。

「お飲み物はいかがでしょうか?」

トレイを手に近づいてきた給仕に声をかけられ、シャンパングラスを手に取った。

そういえば久しぶりのアルコールだ。
ごくっと半分ほど飲み干すと、少し離れた場所で給仕をしている男と目があった。

ん? あいつは……

間違いない。エヴァン子爵の家にいた執事。
名前は確か、コルトと言っていたか。

あの家を出てどこかに職探しに行ったのは知っていたが、まさかこの国に来ていたとは思いもしなかった。

奴はトキの存在を知っていたのか、どうか…‥
そこが気になるところだ。

私は近くにいた給仕にグラスを渡し、コルトの元に向かった。