異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

<sideエリアス>

ロジェリオを部屋に呼び、トキの診察をさせることにした。
だが、ロジェリオが部屋の扉をノックしただけでトキは身体を震わせる。
まだ人に会うのが恐ろしいのだろう。
それなのに健気にも大丈夫だと言ってくれる。
本当になんと優しい子なのだろう。

私に助けを求めるようにしがみついているトキを可哀想だという気持ちもあるが、それほど私のことは信頼してくれているのがわかって嬉しくも思う。不安でいっぱいのトキのことを思えば、私が嬉しいと思うのは不謹慎なのだが、心の中でこっそりと思うだけは許してほしい。
だが、トキの顔を見れば不安が大きすぎて少し血の気が引いている。
これ以上無理はさせたくない。

そう思ってトキに声をかけたのだが、トキは大丈夫だと言い張った。
そして深呼吸をして、自分の心を落ち着かせると、ロジェリオをまっすぐ見つめた。

あの漆黒の瞳が私以外の人間を映す。それを初めて目の当たりにしている。
私はその様子をじっと見守っていたが、トキがロジェリオに声をかけた途端、ロジェリオは顔を真っ赤にしてその場に蹲った。

そうなるのも無理もない。
どんな者でも瞬く間に魅了するフィリグランなのだから。
あの漆黒の瞳で、じっと見つめられたらひとたまりもない。

これがフィリグランと出会った時の普通の反応だろう。
だが、私はそこまでの反応はなかったはずだ。

やはり私はトキをフィリグランとしてではなく、運命の相手として最初から惹かれていたのだろう。だから、フィリグランの魅了の力が効かなかったのかもしれない。

「えっ、あ、あの……だ、いじょう、ぶですか?」

突然のロジェリオの行動にトキは驚きつつも、心配しているようだ。
それはそうだろう。
目の前で急に大人が顔を真っ赤にして蹲ってしまったのだから。

「トキ、心配はいらない」

「でも……」

トキがチラリとロジェリオに視線を送る。
ロジェリオはまだ立ち上がれないようだ。
だが、これ以上ロジェリオに意識を向けさせたくない。

「本当に何も心配はいらないんだ。ロジェリオはトキが美しすぎて驚いただけだよ」

「えっ? 僕が美しい? そんな冗談……」

やはりトキは自分がどれほど人の目を惹く容貌をしているかを知らないのだ。

「冗談ではない。この世界において、トキほど美しいものは存在しない。そうだな、ロジェリオ」

その声かけにようやく我に返ったロジェリオが声を上げた。

「そ、その通りでございます。わ、私も初めてトキ様のようなお美しい方にお会いしましたので驚いてしまいました。大変失礼いたしました」

ロジェリオは極力トキと目を合わさないように深々と頭を下げた。
それはトキを怖がらせないためでもあるが、ロジェリオ自身がまた魅了されないようにするためでもある。

トキは信じられないと言った表情を浮かべているが、これは真実なのだ。


「ロジェリオ。落ち着いたならば、そろそろトキの診察をしてもらおうか」

「は、はい。失礼いたします」

ロジェリオは一歩前に近づいた。
すると、トキはピクリと身体を震わせる。

やはり近づくのはまだ厳しいか。

だが、トキは震えつつも無理だとは絶対に言わない。
そうして、ロジェリオはトキのすぐ近くにまでやってきた。
その間、トキは私の手を離すことはなかった。

怖いだろうに、必死に頑張ってくれているのだ。
私にはトキの気持ちが嬉しかった。

ロジェリオはまだ表情に動揺が見えるが、それでもこの国でも三本の指に入る優秀な医者。しっかりとトキの様子を見つめていた。

「失礼いたします」

スッと手を伸ばし、トキの手首に触れる。
と言っても指先だけだが、トキは怖かったことだろう。

ロジェリオに指が離れた時は、明らかに安堵の表情を見せていた。

「ロジェリオ。どうだ?」

「僭越ながら申し上げます。旦那様の献身的なお世話により、トキ様のご体調は快方に向かっておられます。それを踏まえて、二時間ほどでしたら、トキ様をお一人になさっても大丈夫かと存じます」

ロジェリオのその言葉に、トキの口から「よかった」と声が漏れた。

「エリアスさん。国王さまのお誕生日パーティーに行ってきてください。僕、一人で大丈夫です」

「トキ……」

本当はロジェリオがダメだと言ってくれるのを期待していたのだが、おそらくトキの気持ちをくんだのだろう。

「わかった。それでは二時間だけ、出かけてくるよ。トキ、ありがとう」

私がお礼を告げると、トキは柔らかな笑みを浮かべた。
その笑顔に胸の奥がざわつき、抑えるのに必死になっていた。