異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

トキが眠った後、いつもの報告のために寝室を出た。
クラウスとロジェリオに、陛下主催の宴の参加についてトキに話をしたことを告げた。

「私は、欠席するほうに気持ちが傾いていたのだが、トキが健気にも自分は大丈夫だから参加するようにと言ってくれるのだ」

「トキ様は旦那様のお立場をお考えなさったのでしょう」

「その通りだ。一人になるのはまだ不安だろうに、私のことを気遣ってくれる優しい子なのだ」

私の言葉にクラウスがそっと涙を拭う。

「旦那様。それでどうなさるおつもりですか?」

ロジェリオの真剣な表情に、トキを本気で心配しているのがわかる。
毒が消えたとはいえ、それ以前にトラウマがあるトキを一人にして本当に大丈夫なのかと心配なのだろう。

「だから、ロジェリオに協力してもらいたい」

「協力、でございますか?」

「ああ。トキにロジェリオの診察を受けるように話をした。ロジェリオに怯えることなく診察を受けることができて、大丈夫だと判断したら私は宴に参加する。ロジェリオが一人にはさせないほうがいいと判断したら……」

「陛下の宴にはご参加にならないということでございますね。承知いたしました。それでは、明日にでも診察を?」

日を延ばしてもそこまで変わりはないだろう。
それに不参加になるなら早めに連絡を入れなければいけないだろうからな。

「そうだな。明日、昼間に診察を頼むことになるだろう。準備をしておいてくれ」

「承知いたしました。目をお覚ましになっているトキ様にお会いするのは初めてなので、私のほうが緊張してしまいますね」

眠ったままのトキに会わせたことはあるが、起きているトキはその数倍は美しい。おそらくこのロジェリオも魅了されることだろう。それはフィリグランの力なのだからどうしようもない。

だが、トキが私よりロジェリオを気に入ってしまうのではないか……

私にはそのほうが心配でたまらない。


<side斗希>

エリアスさんとの約束で、僕はお医者様の診察を受けることになった。
正直な気持ちを言えば、まだエリアスさん以外の人に会うのは怖い。

でも、ずっとこのままでいられないこともわかっているし、エリアスさんのお世話になりっぱなしではいけないというのもよくわかっている。

だからこそ、いつまでも甘えずに頑張らなければいけないんだ。

「トキが良ければ、医師を呼んでも構わないだろうか?」

昼食の後、エリアスさんに尋ねられる。
その表情には少し心配そうなところも見える。

「大丈夫です。呼んでください」

僕は意を決してその言葉を告げた。

「そうか。わかった。でも無理はしないと約束してくれ」

「はい。わかりました」

そう言いつつも、ドキドキが抑えられなかった。

エリアスさんが僕を抱きかかえて、寝室を出る。
静かにソファに腰を下ろすと、ゆっくりとベルを鳴らした。
その音は驚くほど小さい。

「こんな小さな音で外に聞こえるんですか?」

「いや、さすがにこの音では気づかないだろうな。このベルと我が家の執事が持っているブザーが連動しているんだよ。だからベルを鳴らすと、そのブザーが振動で伝えるんだ」

「そういうシステムなんですか。知らなかった……」

てっきりこのベルをきいて駆けつけているとばかり思っていたけれど、考えてみたらこんなに小さな音が聞こえるなら僕たちの今の話し声もまる聞こえになってしまう。
そんなのプライバシーもへったくれもない。

「ああ、だからトキの可愛い声は私にだけしか聞こえていないから心配しないでいいよ」

「えっ?」

可愛いって……

いきなりエリアスさんからそんなことを言われて頭が混乱している。
そんなこと、今まで一度だって言われたことがない。

もしかしたら、子どもだと思われているのかもしれない。
うん、そうに決まってる。

自分でそう納得していると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

その音だけで身体がびくついてしまう。

「トキ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけです」

そう言いつつも、僕はエリアスさんの服をギュッと掴んでしまっていた。

エリアスさんはそんな僕の背中を大きな手で支えながら、扉に向かって「入れ!」と声をかけた。
ゆっくりと扉が開き、赤い髪の男性が入ってきた。
優しく穏やかな表情を浮かべている。
お医者さんだから、多分怖い人じゃないんだろう。
でも無意識に僕は固まってしまっていた。

「ロジェリオ。そこから動くな、ちょっと待ってくれ」

エリアスさんの声に、お医者さんはぴたりとその場に止まった。

「トキ、無理するな」

「あ、あの……大丈夫です。ごめんなさい」

「謝ることはない。本当に無理はしなくていいんだ」

「いえ、大丈夫です」

僕はふぅと深呼吸して、お医者様をみた。

「僕、トキと言います。先生、診察をお願いします」

声が上擦りそうになるのを必死に抑えて、先生に声をかける。
先生は顔を真っ赤にしてその場にしゃがみ込んだ。