<side斗希>
僕を地下室に閉じ込めたあの男に殺されると思ったのは、毒が見せた幻覚だったと教えられた。それでもしばらくは、物音がするたびにあの男が現れるんじゃないかと常に猜疑心に苛まれて怖かった。
けれど、あの日からずっとエリアスさんがそばにいてくれた。
いつ目を開けても隣にいてくれるから怖く無くなってきた。
トイレも一人で密室空間にいるのが怖いと言ったら、一緒に中に入って世話をしてくれる。もちろん、恥ずかしさもあったけれどそれ以上に恐怖が勝って、どうしようもなかった。
でもエリアスさんは嫌がるどころか、
――出会ったときから、全ての世話を私がしている。今さらトイレの世話など恥じらうことじゃない
と、なんでもないことのように言ってくれた。
そのおかげで僕の生活の全てはエリアスさんに頼りっきりだ。
この世界に来る前は全てのことを自分だけで頑張るしかなかったから、誰かに頼ってばかりのこの生活が自分でも信じられない。
でも、ものすごく居心地よく思ってしまっている自分がいる。
それくらいエリアスさんの隣は安心するし、離れたくないと思ってしまう。
そんなある日、一緒にベッドに横になってくれているエリアスさんが浮かない表情を浮かべていることに気づいた。
気になって尋ねると、何もない、何も心配しなくていいといっていたけれど、何かあったのは間違いない。だってずっとそばにいたんだから、顔を見ればわかる。
「エリアスさん、何か困ってますよね。僕、大丈夫ですよ」
僕のせいで何か困っているんだったら教えて欲しい。
その気持ちを込めて、もう一度尋ねると、エリアスさんは観念したように話をしてくれた。
「実は、もうすぐこの国の国王であらせられるコルドゥラ陛下の生誕を祝う宴が催されるのだ。その宴に私も招待を受けている」
「生誕を祝う宴……」
国王さまのお誕生日パーティーってことか。
「そうだ。だが、私はそれを参加しようか悩んでいる」
「えっ……でも、そんなこといいんですか? 国王さまからの招待なんですよね?」
「そうだが、今はトキのそばを離れたくない」
その言葉でエリアスさんが悩んでいる意味が全てわかった。
「僕のせいで……」
「そうじゃない。私が離れたくないのだ」
強く抱きしめられるとエリアスさんの匂いと温もりを強く感じられてホッとする。
隣にいてくれるとこんなにも安心するから、いなくなるのが怖い気持ちはもちろんある。
「でも、エリアスさんは……この国でもすごい人なんでしょう? こんなすごいお屋敷に住んでいるから」
どんな立場の人かは聞いていないけれど、この世界のことを知らない僕にだってわかる。エリアスさんがすごい立場の人だってことは。
「うーん、まぁそれは確かにそうだが……」
「それなら行ってきてください。僕は、大丈夫ですから」
僕のせいでエリアスさんの立場を悪くしたくない。
「だが……」
「大丈夫です! 僕、一人でいられます」
何度かそれを繰り返すと、エリアスさんはわかったと言いつつも、一つの条件を出した。
「トキ。一度主治医の診察を受けてみないか?」
「お医者さんの、診察?」
「そうだ。それで医師が大丈夫だと判断したら、私は出かけよう」
今までずっと薬をもらっていたから、僕をお医者さんが診てくれていたのは知っている。でも直接対面したことはない。
エリアスさん以外の人に会う……
それだけで身体がこわばってしまうけれど、これを頑張れないと僕が大丈夫だと言っても心配をかけてしまうだろう。
「わかりました。僕、診察を受けます」
そう告げると、エリアスさんは僕をギュッと抱きしめてくれた。
<sideエリアス>
トキに悩んでいた話を伝え、正直に行こうか悩んでいると伝えるとトキは自分のことのように心配してくれた。
トキはこの国での私の立ち位置を知らないが、それでも私のことを慮ってくれる。
身体はこんなにも震えているのに。
まだ一人にはさせては危ないだろうに、何度も自分は大丈夫だと言ってくる。
トキの健気さに胸を打たれる。
その思いを無にしたくない。
だが、一人にさせるのもまだ不安だ。
だから私はロジェリオの診察を受けるように提案した。
ロジェリオに怯えず診察が受けられたら、数時間なら一人でいさせても大丈夫かもしれない。
そう思って提案したのだが、トキは身体をこわばらせながら診察を受けると言ってくれた。私を思ってくれるその気持ちに、愛おしい気持ちが抑えられなかった。
僕を地下室に閉じ込めたあの男に殺されると思ったのは、毒が見せた幻覚だったと教えられた。それでもしばらくは、物音がするたびにあの男が現れるんじゃないかと常に猜疑心に苛まれて怖かった。
けれど、あの日からずっとエリアスさんがそばにいてくれた。
いつ目を開けても隣にいてくれるから怖く無くなってきた。
トイレも一人で密室空間にいるのが怖いと言ったら、一緒に中に入って世話をしてくれる。もちろん、恥ずかしさもあったけれどそれ以上に恐怖が勝って、どうしようもなかった。
でもエリアスさんは嫌がるどころか、
――出会ったときから、全ての世話を私がしている。今さらトイレの世話など恥じらうことじゃない
と、なんでもないことのように言ってくれた。
そのおかげで僕の生活の全てはエリアスさんに頼りっきりだ。
この世界に来る前は全てのことを自分だけで頑張るしかなかったから、誰かに頼ってばかりのこの生活が自分でも信じられない。
でも、ものすごく居心地よく思ってしまっている自分がいる。
それくらいエリアスさんの隣は安心するし、離れたくないと思ってしまう。
そんなある日、一緒にベッドに横になってくれているエリアスさんが浮かない表情を浮かべていることに気づいた。
気になって尋ねると、何もない、何も心配しなくていいといっていたけれど、何かあったのは間違いない。だってずっとそばにいたんだから、顔を見ればわかる。
「エリアスさん、何か困ってますよね。僕、大丈夫ですよ」
僕のせいで何か困っているんだったら教えて欲しい。
その気持ちを込めて、もう一度尋ねると、エリアスさんは観念したように話をしてくれた。
「実は、もうすぐこの国の国王であらせられるコルドゥラ陛下の生誕を祝う宴が催されるのだ。その宴に私も招待を受けている」
「生誕を祝う宴……」
国王さまのお誕生日パーティーってことか。
「そうだ。だが、私はそれを参加しようか悩んでいる」
「えっ……でも、そんなこといいんですか? 国王さまからの招待なんですよね?」
「そうだが、今はトキのそばを離れたくない」
その言葉でエリアスさんが悩んでいる意味が全てわかった。
「僕のせいで……」
「そうじゃない。私が離れたくないのだ」
強く抱きしめられるとエリアスさんの匂いと温もりを強く感じられてホッとする。
隣にいてくれるとこんなにも安心するから、いなくなるのが怖い気持ちはもちろんある。
「でも、エリアスさんは……この国でもすごい人なんでしょう? こんなすごいお屋敷に住んでいるから」
どんな立場の人かは聞いていないけれど、この世界のことを知らない僕にだってわかる。エリアスさんがすごい立場の人だってことは。
「うーん、まぁそれは確かにそうだが……」
「それなら行ってきてください。僕は、大丈夫ですから」
僕のせいでエリアスさんの立場を悪くしたくない。
「だが……」
「大丈夫です! 僕、一人でいられます」
何度かそれを繰り返すと、エリアスさんはわかったと言いつつも、一つの条件を出した。
「トキ。一度主治医の診察を受けてみないか?」
「お医者さんの、診察?」
「そうだ。それで医師が大丈夫だと判断したら、私は出かけよう」
今までずっと薬をもらっていたから、僕をお医者さんが診てくれていたのは知っている。でも直接対面したことはない。
エリアスさん以外の人に会う……
それだけで身体がこわばってしまうけれど、これを頑張れないと僕が大丈夫だと言っても心配をかけてしまうだろう。
「わかりました。僕、診察を受けます」
そう告げると、エリアスさんは僕をギュッと抱きしめてくれた。
<sideエリアス>
トキに悩んでいた話を伝え、正直に行こうか悩んでいると伝えるとトキは自分のことのように心配してくれた。
トキはこの国での私の立ち位置を知らないが、それでも私のことを慮ってくれる。
身体はこんなにも震えているのに。
まだ一人にはさせては危ないだろうに、何度も自分は大丈夫だと言ってくる。
トキの健気さに胸を打たれる。
その思いを無にしたくない。
だが、一人にさせるのもまだ不安だ。
だから私はロジェリオの診察を受けるように提案した。
ロジェリオに怯えず診察が受けられたら、数時間なら一人でいさせても大丈夫かもしれない。
そう思って提案したのだが、トキは身体をこわばらせながら診察を受けると言ってくれた。私を思ってくれるその気持ちに、愛おしい気持ちが抑えられなかった。


