異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

<sideエリアス>

アルトゥンの花の蜜がもたらした幻覚は、トキの心を抉り失神させるに至ったが、あの薬のおかげで見事に毒を中和することができた。それでもトキの記憶から全て消し去ったわけではない。

治ったように見えても、深い眠りに落ちると魘される日々。
私は一晩中トキを胸に抱き、背中を撫で、耳元で大丈夫と声をかけ続ける。

それを五日ほど続けて、ようやく魘されることはほぼなくなったがまだまだ大きな物音などには身体を震わせる。
それでも私がそばにいれば怖くないと思ってくれるようになった。

私はクラウスにトキを失神させるに至ったあのフルーツソースを食卓に出すように命じた。テーブルに並び、トキは一瞬怯えた表情を見せた。
だが、すでにトキの身体からは毒は消えている。
もう大丈夫だと理解させるためにも同じもので分からせたほうがいい。

ロジェリオにもそう言われて、私は自分の指にソースをつけトキに舐めさせた。
トキの小さな舌が私の指を舐める。
その小さな刺激は、大きすぎる刺激となって全身に伝わるがそれを表情には出さないように必死に冷静を保った。だがトキの口から、美味しいという言葉が漏れた時には心から喜びが溢れ出た。

毎夜、トキが深い眠りに落ちて十分だけ、私は寝室を出る。
この時だけは絶対に目を覚まさないことがわかっている。
だから私はその間にクラウスとロジェリオにトキの様子を伝える時間にしている。

トキがフィリグランだと知って以降、ロジェリオは我が家に常駐している。
トキに何か異変が起こった時に、すぐに対応してもらうためだ。

「トキ様のご様子はいかがでございますか?」

「今日、あのフルーツソースを舐めさせた。美味しいと言っていたぞ」

その報告にロジェリオは安堵の表情を見せ、クラウスは涙を流して喜んでいた。

「本当によろしゅうございました。それではこれからは少し部屋からお出になられて、陽の光を浴びる時間をお作りいただきたいと存じます」

「トキを外に連れていくというのか?」

「はい。まずはこのお屋敷のお庭から。体力を使いますのでトキ様のご体調に合わせて少しずつになりますが、太陽の光には体内時計を整える効果がございます。トキ様が健やかにお過ごしになるためにも必要なことかと」

確かに、今の時は日がな一日ベッドで過ごしている。
暗闇を怖がるからずっと灯りを灯したままだから、体内時計が狂ってしまっているのだろう。

「わかった。トキに話をしてみよう。明日、昼食後に外に行けるようならベルを鳴らす。私たちが部屋を出て、部屋に戻るまでの間誰も私たちに近づくことがないようにしてくれ。使用人たちにも周知しておくんだ」

「承知いたしました」

そうして手筈を整え、私はトキに庭に出てみようと持ちかけた。
最初は不安そうな表情を見せたが、私が一緒なら……と言ってくれた。
トキの信頼をここまで勝ち取ることができた。
それが嬉しかった。

「それじゃあ行こうか」

夜着を着たトキを柔らかなブランケットで包み込む。
トキは胸から下をブランケットに包まれ頭と顔、肩と腕だけが出ている状態だ。
そのトキをそっと抱きかかえる。

「トキ、私の首に腕を回してくれ」

「は、はい」

トキの細い腕が首に回ると、普段より密着感が強くなる。
愛おしい気持ちがさらに深まりながら、静かに部屋を出た。

「広いお家ですね」

トキにとっては初めての場所だ。興味があるのか、あちらこちらに視線を向ける。

「あの、エリアスさん以外の人は……?」

「心配しないでいい。トキに会わないように伝えてある」

「えっ、僕のために……?」

「今日は最初だからトキが気を遣う事なく過ごしてほしい」

そういうとトキの身体から少し力が抜けた。
きっと、初めて部屋を出て気を張っていたのだろう。

「ここを出ると、庭につく」

トキを抱いたまま扉を開けると、太陽の眩しい光が私たちに降り注いできた。

「ん、眩しい」

「大丈夫か?」

「はい。すごく気持ちがいいです」

トキが無理をしているのではないかと心配したが、トキの表情は晴れやかだ。
外に連れ出してよかった。

トキを抱いたまま庭を歩く。
私も普段は庭に出ることはほぼないが、こうしてみると綺麗に整えられているのがわかる。

「少し休むか?」

その問いかけにトキが頷く。
私は大木の下にトキを抱いたまま腰を下ろした。
大木の下を風が通り抜けていく。

「ああ、気持ちがいいですね」

「トキ、眠くなったら寝ていいぞ」

そう声をかけると安心したのか、トキは腕の中で眠り始めた。
カクンと首が揺れて支えようとしたところ、トキの顔が私を見上げるような体勢になった。
長いまつ毛、小さくも鼻筋の通った可愛らしい鼻。
そして、果実のように赤く瑞々しい唇が、私を誘う。
気づけば、私は吸い寄せられるように、トキの唇に自分の唇を重ねていた。