<side斗希>
――もう大丈夫。何も怖くないよ。だから心配しないで私のそばにいればいい。
夢の中でずっとその言葉が僕の頭の中を巡っていた。
あの人に殺されると思った瞬間、僕を包み込んでくれたあの優しい温もり。
僕を地下室に閉じ込めたあの人だと思って、パニックになった僕を優しく抱きしめて落ち着かせてくれたあの優しい声。
あの温もりと声が僕を正常に戻してくれたんだと思う。
目を覚ますと、僕はエリアスさんの腕の中にいた。
意識を失う寸前の僕の記憶と同じだ。
「え、りあす、さん……」
「トキ! よかった、目が覚めたか」
ずっと心配してくれていたんだろう。僕が目を覚ましたことをこんなにも喜んでくれて嬉しい。
「あの、ぼく……」
「もう大丈夫だ。何も心配はいらない」
「でも、ぼく……あのひとを、みたんですけど……」
そう告げるだけでも身体が震えてくる。
次にまた目の前に現れたら、僕は自分でもどうなってしまうのかわからない。
「トキ……怖いだろうが、私に教えてくれないか? トキを地下室に閉じ込めた男の顔に痣がなかったか?」
「えっ、あざ……」
そう言われて恐怖に震えながらも記憶が甦る。
確かにあの人には痣があった。顎から首にかけて大きな痣が。
それを告げると、エリアスさんは「やはりな」と声を漏らした。
「あの……」
「いいか。トキ、落ち着いて聞くんだ。あの男は死んだ」
「えっ? し、んだ……ほんとうですか?」
エリアスさんは大きく頷くと、僕をギュッと抱きしめた。
「本当だとも。だから二度とトキの前に現れることはない。絶対にだ」
エリアスさんがいうことを疑うなんてことはできないけれど、でもあの人が、死んだなんて……
「でもぼく、さっき……ほんとにあのひとを」
「わかっている。トキが嘘をついているとは思っていないよ。あれはアルトゥンの花の蜜が見せた幻覚だったんだ」
「げん、かく……」
「そうだ。さっき、その幻覚症状を引き起こす毒を中和させる薬を飲ませた。だからもう二度と幻覚を見ることはないよ」
あの花の蜜って……最初にあったあのときに、僕の髪に塗られたやつだ。
毛先が口に入って甘みを感じた覚えがある。
そうか……あれも毒だったんだ。
あの花が咲いている池の水も毒だったし、そのものにも毒があって……
エリアスさんは僕をあの地下室の檻の中から救い出してくれただけでなく、毒からも助けてくれたんだ。
もう三度も命を助けられている。
「えりあす、さん……ありがとうございます。ぼく、たすけられてばっかりで……」
「そんなことは気にしないでいい。私はトキが元気になってくれればそれでいいんだ」
その笑顔にホッとする。
エリアスさんの温もりも声も笑顔も全て僕を安心させてくれる。
「これからは何も心配することはない。私がずっとそばにいるから」
僕が一番安心する言葉を言ってくれてからというもの、それから一週間もの間、エリアスさんはいつも僕のそばにいてくれた。
「ほんの少しでいい。味見をしてくれないか?」
あるとき、ものすごく辛かったあの料理が目の前に並んだことがあった。
エリアスさんは自分の小指にあのフルーツソースをつけ、僕の口の前に持ってきた。
恐る恐る舌でなめとると、びっくりするくらい甘くて美味しかった。
「あ、おい、しぃ……」
「よかった。これで本当に大丈夫だ」
どうやらあの花の蜜の毒のせいで、僕は甘みを辛く感じていたらしい。
それもあの薬のおかげで治ったということなんだろう。
それから食事に対しても恐怖がなくなり、ご飯もなんでも食べられるようになっていった。
「トキ。庭に出てみようか」
「お庭に? いいんですか?」
「ああ、だいぶ食事も摂れるようになってきたからな」
この世界の外の景色を見るのは、最初のあの森だけ。
ここでは窓の近くに行くのも怖くて、空しか見ていなかった。
正直な気持ちを言うと、少し怖い気もする。
今はまだエリアスさん以外に会うのは怖いから。
「どうだ?」
「エリアスさんが、一緒なら……」
「大丈夫。離れたりしないよ」
その声にホッとして、僕は頷いた。
――もう大丈夫。何も怖くないよ。だから心配しないで私のそばにいればいい。
夢の中でずっとその言葉が僕の頭の中を巡っていた。
あの人に殺されると思った瞬間、僕を包み込んでくれたあの優しい温もり。
僕を地下室に閉じ込めたあの人だと思って、パニックになった僕を優しく抱きしめて落ち着かせてくれたあの優しい声。
あの温もりと声が僕を正常に戻してくれたんだと思う。
目を覚ますと、僕はエリアスさんの腕の中にいた。
意識を失う寸前の僕の記憶と同じだ。
「え、りあす、さん……」
「トキ! よかった、目が覚めたか」
ずっと心配してくれていたんだろう。僕が目を覚ましたことをこんなにも喜んでくれて嬉しい。
「あの、ぼく……」
「もう大丈夫だ。何も心配はいらない」
「でも、ぼく……あのひとを、みたんですけど……」
そう告げるだけでも身体が震えてくる。
次にまた目の前に現れたら、僕は自分でもどうなってしまうのかわからない。
「トキ……怖いだろうが、私に教えてくれないか? トキを地下室に閉じ込めた男の顔に痣がなかったか?」
「えっ、あざ……」
そう言われて恐怖に震えながらも記憶が甦る。
確かにあの人には痣があった。顎から首にかけて大きな痣が。
それを告げると、エリアスさんは「やはりな」と声を漏らした。
「あの……」
「いいか。トキ、落ち着いて聞くんだ。あの男は死んだ」
「えっ? し、んだ……ほんとうですか?」
エリアスさんは大きく頷くと、僕をギュッと抱きしめた。
「本当だとも。だから二度とトキの前に現れることはない。絶対にだ」
エリアスさんがいうことを疑うなんてことはできないけれど、でもあの人が、死んだなんて……
「でもぼく、さっき……ほんとにあのひとを」
「わかっている。トキが嘘をついているとは思っていないよ。あれはアルトゥンの花の蜜が見せた幻覚だったんだ」
「げん、かく……」
「そうだ。さっき、その幻覚症状を引き起こす毒を中和させる薬を飲ませた。だからもう二度と幻覚を見ることはないよ」
あの花の蜜って……最初にあったあのときに、僕の髪に塗られたやつだ。
毛先が口に入って甘みを感じた覚えがある。
そうか……あれも毒だったんだ。
あの花が咲いている池の水も毒だったし、そのものにも毒があって……
エリアスさんは僕をあの地下室の檻の中から救い出してくれただけでなく、毒からも助けてくれたんだ。
もう三度も命を助けられている。
「えりあす、さん……ありがとうございます。ぼく、たすけられてばっかりで……」
「そんなことは気にしないでいい。私はトキが元気になってくれればそれでいいんだ」
その笑顔にホッとする。
エリアスさんの温もりも声も笑顔も全て僕を安心させてくれる。
「これからは何も心配することはない。私がずっとそばにいるから」
僕が一番安心する言葉を言ってくれてからというもの、それから一週間もの間、エリアスさんはいつも僕のそばにいてくれた。
「ほんの少しでいい。味見をしてくれないか?」
あるとき、ものすごく辛かったあの料理が目の前に並んだことがあった。
エリアスさんは自分の小指にあのフルーツソースをつけ、僕の口の前に持ってきた。
恐る恐る舌でなめとると、びっくりするくらい甘くて美味しかった。
「あ、おい、しぃ……」
「よかった。これで本当に大丈夫だ」
どうやらあの花の蜜の毒のせいで、僕は甘みを辛く感じていたらしい。
それもあの薬のおかげで治ったということなんだろう。
それから食事に対しても恐怖がなくなり、ご飯もなんでも食べられるようになっていった。
「トキ。庭に出てみようか」
「お庭に? いいんですか?」
「ああ、だいぶ食事も摂れるようになってきたからな」
この世界の外の景色を見るのは、最初のあの森だけ。
ここでは窓の近くに行くのも怖くて、空しか見ていなかった。
正直な気持ちを言うと、少し怖い気もする。
今はまだエリアスさん以外に会うのは怖いから。
「どうだ?」
「エリアスさんが、一緒なら……」
「大丈夫。離れたりしないよ」
その声にホッとして、僕は頷いた。


