あのスープを中心に幾つかの料理を口にしたが、驚くほど少しの量でお腹がいっぱいと言い出した。元々食が細いのかもしれないが、それにしても子ども以下だ。
トキの身体がこれほど華奢なのもわかる気がする。
「少し、眠くなってきました」
「そうか。じゃあベッドに連れて行こう」
寝室に戻り、トキをベッドに寝かせる。
「エリアスさん……」
「大丈夫、私も横になろう。ああ、口を開けてごらん」
私の言葉にトキは素直に口を開ける。
赤い舌を見ると興奮してしまいそうになるが、今見るところはそこじゃない。
「まだ腫れているようだな。痛みは?」
「んー、多分大丈夫です。口の中って治りも早いんですよね」
「だが無理はしてはいけないぞ」
あのフルーツソースが辛いと感じるとは思わなかった。
もしかしたらアレルギー反応だったのか。
飲み込ませずに吐き出させて良かった。
「あの、眠るまでの間……何かお話してもらってもいいですか?」
「そうだな。何が聞きたい?」
「あの、僕のこの……黒い髪の毛が、何か意味があるんですか?」
「えっ?」
思いがけないトキからの質問に私は驚きの声しか出なかった。
「僕、思い出したことがあって……森の中で、あの人と会ったとき、言われたんです」
「な、何を?」
奴はトキに何を言ったんだ?
「黒髪を見てると、虫唾が走るって……」
やはり、あのアルトゥンの花の蜜をつけたのは奴か。
トキの見た目をフィリグランだとわからなくするためにやったんだろう。
くそっ、本当に腹立たしい。
生きてさえいれば、死ぬ以上の苦しみを与えてやりたかったのに。
だがまだトキにはフィリグランのことを話すのは時期尚早だろう。
私がトキを世話し、優しくするのはフィリグランだからと思われるのは困る。
それでもトキに嘘をつくわけにはいかない。
「それは、その……トキが、この世界の人間でないと奴が気づいたからだよ」
「えっ? そう、なんですか? どうして?」
「この世界に、トキのように黒い目と黒い髪を持つものはいない。だから、初めて見る人間に驚いたのだろう」
話したことは嘘ではない。
だからこそ、信じてくれるだろう。
「この髪が、僕だけ……そうだったんですね」
トキは理由を知って辛そうな表情を見せる。
その顔を見ると心が痛い。
「大丈夫か?」
「はい。あの、エリアスさんは……僕がこんな見た目でも、平気ですか?」
不安そうに見上げる目にはほんのりと涙が潤んでいる。
「当たり前だろう。その髪色と目の色はトキによく似合っている」
「エリアス、さん……」
トキのほうから私に抱きついてくる。
私はその小さな身体を優しく抱きしめ続けた。
しばらく経って、トキの顔を覗き込む。目に涙を溜めたまま眠っているのが見えた。
私はそっと涙を拭い、静かにトキから離れた。
目を覚ましたらまた怖がるかもしれない。
もう一度上着を脱いでトキの腕の中に入れる。
安心した表情を見せるトキに安堵して、静かに寝室を出た。
テーブルの上の食事はいつの間にか片付けられていた。
クラウスがトキに聞こえないように、静かに片付けを済ませたのだろう。
部屋の扉を開けるとすぐにクラウスがやってきた。
「旦那様。トキ様はいかがでございますか? お食事はお口に合いませんでしたでしょうか?」
「それも含めて話がしたい。すぐにロジェリオを呼んでくれ」
「実は、ロジェリオ様には応接室でお待ちいただいております」
どうやらクラウスはあまりにも手がつけられていない食事を見て心配になり、我が家のシェフのロドリゴと一緒にロジェリオに相談していたらしい。
「そうか。ではすぐに話をしよう。あまり長い時間は部屋を空けられない」
そうして私は急いでクラウスと共に応接室に向かった。
<side斗希>
僕の目と髪の色が黒かったから……
確かにあの人も、エリアスさんも金髪だ。
見たことがなかったからもしかしたら災いを与える人間だと思われたのかもしれない。そう考えれば、あんなに憎しみを向けられるのもわかる気がする。
それがわかったとき、不安だったのはエリアスさんは僕を見て嫌な気持ちにならないかということ。
今の僕はエリアスさんがいなければ生きていけないから。
不安な気持ちが抑えられずに尋ねると、エリアスさんは似合っていると言ってくれた。エリアスさんは嘘をつかないからきっと本心だろう。
それがわかっただけで嬉しかった。
それからどれくらい経っただろう?
気がつくと、隣にはエリアスさんの姿がなかった。
代わりに僕の腕の中にエリアスさんの上着がある。
もしかしてトイレにでも行っているのかな?
すぐに戻ってきてくれるかな?
一人にはしないって言ってくれたからすぐに戻ってきてくれると思うけど、どんどん怖くなっていく。
「エリアスさん……早く、戻ってきて……」
不安で押しつぶされそうになって、声が出てしまう。
すると、ゆっくりと寝室の扉が開くのが見える。
「えり、あすさん……?」
そう声をかけたけれど、返事はない。
すると、静かに扉の内側に入ってきた手がエリアスさんじゃないことに気がついた。
トキの身体がこれほど華奢なのもわかる気がする。
「少し、眠くなってきました」
「そうか。じゃあベッドに連れて行こう」
寝室に戻り、トキをベッドに寝かせる。
「エリアスさん……」
「大丈夫、私も横になろう。ああ、口を開けてごらん」
私の言葉にトキは素直に口を開ける。
赤い舌を見ると興奮してしまいそうになるが、今見るところはそこじゃない。
「まだ腫れているようだな。痛みは?」
「んー、多分大丈夫です。口の中って治りも早いんですよね」
「だが無理はしてはいけないぞ」
あのフルーツソースが辛いと感じるとは思わなかった。
もしかしたらアレルギー反応だったのか。
飲み込ませずに吐き出させて良かった。
「あの、眠るまでの間……何かお話してもらってもいいですか?」
「そうだな。何が聞きたい?」
「あの、僕のこの……黒い髪の毛が、何か意味があるんですか?」
「えっ?」
思いがけないトキからの質問に私は驚きの声しか出なかった。
「僕、思い出したことがあって……森の中で、あの人と会ったとき、言われたんです」
「な、何を?」
奴はトキに何を言ったんだ?
「黒髪を見てると、虫唾が走るって……」
やはり、あのアルトゥンの花の蜜をつけたのは奴か。
トキの見た目をフィリグランだとわからなくするためにやったんだろう。
くそっ、本当に腹立たしい。
生きてさえいれば、死ぬ以上の苦しみを与えてやりたかったのに。
だがまだトキにはフィリグランのことを話すのは時期尚早だろう。
私がトキを世話し、優しくするのはフィリグランだからと思われるのは困る。
それでもトキに嘘をつくわけにはいかない。
「それは、その……トキが、この世界の人間でないと奴が気づいたからだよ」
「えっ? そう、なんですか? どうして?」
「この世界に、トキのように黒い目と黒い髪を持つものはいない。だから、初めて見る人間に驚いたのだろう」
話したことは嘘ではない。
だからこそ、信じてくれるだろう。
「この髪が、僕だけ……そうだったんですね」
トキは理由を知って辛そうな表情を見せる。
その顔を見ると心が痛い。
「大丈夫か?」
「はい。あの、エリアスさんは……僕がこんな見た目でも、平気ですか?」
不安そうに見上げる目にはほんのりと涙が潤んでいる。
「当たり前だろう。その髪色と目の色はトキによく似合っている」
「エリアス、さん……」
トキのほうから私に抱きついてくる。
私はその小さな身体を優しく抱きしめ続けた。
しばらく経って、トキの顔を覗き込む。目に涙を溜めたまま眠っているのが見えた。
私はそっと涙を拭い、静かにトキから離れた。
目を覚ましたらまた怖がるかもしれない。
もう一度上着を脱いでトキの腕の中に入れる。
安心した表情を見せるトキに安堵して、静かに寝室を出た。
テーブルの上の食事はいつの間にか片付けられていた。
クラウスがトキに聞こえないように、静かに片付けを済ませたのだろう。
部屋の扉を開けるとすぐにクラウスがやってきた。
「旦那様。トキ様はいかがでございますか? お食事はお口に合いませんでしたでしょうか?」
「それも含めて話がしたい。すぐにロジェリオを呼んでくれ」
「実は、ロジェリオ様には応接室でお待ちいただいております」
どうやらクラウスはあまりにも手がつけられていない食事を見て心配になり、我が家のシェフのロドリゴと一緒にロジェリオに相談していたらしい。
「そうか。ではすぐに話をしよう。あまり長い時間は部屋を空けられない」
そうして私は急いでクラウスと共に応接室に向かった。
<side斗希>
僕の目と髪の色が黒かったから……
確かにあの人も、エリアスさんも金髪だ。
見たことがなかったからもしかしたら災いを与える人間だと思われたのかもしれない。そう考えれば、あんなに憎しみを向けられるのもわかる気がする。
それがわかったとき、不安だったのはエリアスさんは僕を見て嫌な気持ちにならないかということ。
今の僕はエリアスさんがいなければ生きていけないから。
不安な気持ちが抑えられずに尋ねると、エリアスさんは似合っていると言ってくれた。エリアスさんは嘘をつかないからきっと本心だろう。
それがわかっただけで嬉しかった。
それからどれくらい経っただろう?
気がつくと、隣にはエリアスさんの姿がなかった。
代わりに僕の腕の中にエリアスさんの上着がある。
もしかしてトイレにでも行っているのかな?
すぐに戻ってきてくれるかな?
一人にはしないって言ってくれたからすぐに戻ってきてくれると思うけど、どんどん怖くなっていく。
「エリアスさん……早く、戻ってきて……」
不安で押しつぶされそうになって、声が出てしまう。
すると、ゆっくりと寝室の扉が開くのが見える。
「えり、あすさん……?」
そう声をかけたけれど、返事はない。
すると、静かに扉の内側に入ってきた手がエリアスさんじゃないことに気がついた。


