<sideエリアス>
私のベッドにトキが眠っている。
これだけで浮かれてしまうのだから、どうしようもない。
目を覚ましたトキはここが私の部屋だと知って、少し申し訳なさそうな表情を見せた。だが何も心配することはない。
私のほうがトキと同じ部屋にいられて幸せなのだから。
そう告げようと思ったが、その前に可愛らしい音が私の耳に入ってきた。
最初は何の音かわからなかったが、トキが顔を赤くしてお腹の音だと教えてくれて驚いた。こんなにも可愛らしい腹の虫がいるとは。
だが、トキが腹を空かせたのは私には吉報だ。
食欲が出てくるというのは、身体が元気になってきている現れでもある。
トキの身体を心配していたクラウスもこれできっと安心するだろう。
すぐに食事の支度をさせようと思い立ったが、離れようとする私の服の袖をトキがそっと掴んだ。
その表情を見ればきっと無意識に掴んでしまったのだろう。
トキは離れるのが寂しいと言ってくれた。
そうだった。
トキは一人になるのがまだ怖いのだ。
私は一人にしないと約束したばかりだったのに、その舌の根も乾かぬうちにトキを一人にするなど、なんという失態。
素直にトキに詫びを入れ、トキと一緒に寝室を出ることにした。
柔らかなブランケットでトキを包み、抱きかかえる。
私がそばにいれば大丈夫だと思ったが、ベルを鳴らして呼んだクラウスが扉を叩くだけで小さな身体を震わせる。
これほど恐怖を感じているのだ。
これからはトキの気持ちを最優先で行動しなければな。
トキにはクラウスと顔を合わせないように私の胸元に寄せておくように告げ、クラウスの声が聞こえないようにトキの耳を塞いだ。
静かに扉を開け、大きな声を出さぬように目で指示をした。
クラウスはすぐに私がトキを抱きかかえていることに気づき、声を出すことはなかった。
「すぐにトキの食事を用意してくれ。五分で準備をするんだ。それまで私たちは寝室にいる」
それだけを告げるとすぐに扉を閉めた。
トキの顔を覗き込むと恐怖の色は見えない。
すぐに寝室に戻り、準備が整うのを待った。
しばらくして寝室の扉を開けると、テーブルにはトキのための食事が並んでいた。
その匂いに反応したのか、トキの可愛い腹の虫がまた聞こえた。
「あ、ごめんなさい」
「謝らなくていい。とりあえずトキが何を食べられるのかわからないから、いろいろな種類を用意させた。量が多すぎることも承知している。だから苦手なものや食べられないものは無理に口にしなくていい。今は何を食べられるか確認することが大事なんだ」
慎み深いトキのことだ。
しっかりと伝えておかないと無理をしてでも食べようとするだろう。
その証拠に私が告げると、ホッとした表情を見せていた。
トキを抱きかかえたまま、椅子に座る。
「まだ一人で食べるのは身体が辛いだろう。食べてみたいものを言ってくれ。私が食べさせよう」
トキは自分の身体がまだうまく動かないのを知っている。
だから素直にいうことを聞いてくれた。
「あの、そこのスープ? みたいなものが飲みたいです」
これは私も好んで食べる、煮込んだ野菜がたっぷりと入ったポタージュスープ。
トキの口に合えばいいが。
最初はスプーンに半口ほどのせてトキに飲ませる。
小さな口にはこのスプーンも大きそうだ。
それをなんとか口にしたところで「美味しい」と声が漏れる。
それに安堵しつつ、私は小さなスプーンに持ち替えた。
「こちらのほうが食べやすいだろう」
そうしてもう一度スープを掬って食べさせると、トキは嬉しそうに食べていた。
「これはどうだ?」
羽兎のローストは身が柔らかく、子どもにも食べやすい。
それを小さく切り分けて子どもが好むフルーツソースをつけて口に運ぶ。
パクリと口に入れると、途端にトキの顔が赤くなる。
「からぃ、からぃっ」
飲み込むこともできず口を開けたまま慌てるトキの口に指を入れ、急いで肉を取り出した。そして、水を飲ませてうがいをさせる。
「トキ、ここに吐き出すんだ」
空の深皿を目の前に差し出したが、トキは首を横にふる。
料理を盛る皿に吐き出すのが嫌なのかもしれないと気づき、急いで寝室奥の洗面所に連れて行った。
うがいした水を吐き出させて口の中を見る。
ただれてはいないが、真っ赤になっているのがわかる。
あのソースがトキには合わなかったのかもしれない。
「悪い、辛かったな」
「ごめ、なさい……」
申し訳なさそうに謝罪をするが、トキが謝る必要はどこにもない。
「トキは違う世界から来たのだ。食事が合わないのも当然だろう。食べられるものを探していけばいい」
涙を潤ませて頷くトキをしっかりと抱きしめて、テーブルに戻る。
だが、トキは先ほどの体験で少し身体が強張っているようだ。
それでも真っ直ぐに私をみて、口を開いた。
「あのお肉だけ食べてみたいです」
「わかった。何かあればすぐに吐き出すのだぞ」
そう言って同じ肉をフォークで掬った。
今度はソースをつけないようにして小さな欠片をトキの口に運ぶ。
「どうだ?」
「ん。美味しいです」
どうやらやはり辛いのはあのソースか。トキの味付けについてロジェリオに相談したほうが良さそうだな。
私のベッドにトキが眠っている。
これだけで浮かれてしまうのだから、どうしようもない。
目を覚ましたトキはここが私の部屋だと知って、少し申し訳なさそうな表情を見せた。だが何も心配することはない。
私のほうがトキと同じ部屋にいられて幸せなのだから。
そう告げようと思ったが、その前に可愛らしい音が私の耳に入ってきた。
最初は何の音かわからなかったが、トキが顔を赤くしてお腹の音だと教えてくれて驚いた。こんなにも可愛らしい腹の虫がいるとは。
だが、トキが腹を空かせたのは私には吉報だ。
食欲が出てくるというのは、身体が元気になってきている現れでもある。
トキの身体を心配していたクラウスもこれできっと安心するだろう。
すぐに食事の支度をさせようと思い立ったが、離れようとする私の服の袖をトキがそっと掴んだ。
その表情を見ればきっと無意識に掴んでしまったのだろう。
トキは離れるのが寂しいと言ってくれた。
そうだった。
トキは一人になるのがまだ怖いのだ。
私は一人にしないと約束したばかりだったのに、その舌の根も乾かぬうちにトキを一人にするなど、なんという失態。
素直にトキに詫びを入れ、トキと一緒に寝室を出ることにした。
柔らかなブランケットでトキを包み、抱きかかえる。
私がそばにいれば大丈夫だと思ったが、ベルを鳴らして呼んだクラウスが扉を叩くだけで小さな身体を震わせる。
これほど恐怖を感じているのだ。
これからはトキの気持ちを最優先で行動しなければな。
トキにはクラウスと顔を合わせないように私の胸元に寄せておくように告げ、クラウスの声が聞こえないようにトキの耳を塞いだ。
静かに扉を開け、大きな声を出さぬように目で指示をした。
クラウスはすぐに私がトキを抱きかかえていることに気づき、声を出すことはなかった。
「すぐにトキの食事を用意してくれ。五分で準備をするんだ。それまで私たちは寝室にいる」
それだけを告げるとすぐに扉を閉めた。
トキの顔を覗き込むと恐怖の色は見えない。
すぐに寝室に戻り、準備が整うのを待った。
しばらくして寝室の扉を開けると、テーブルにはトキのための食事が並んでいた。
その匂いに反応したのか、トキの可愛い腹の虫がまた聞こえた。
「あ、ごめんなさい」
「謝らなくていい。とりあえずトキが何を食べられるのかわからないから、いろいろな種類を用意させた。量が多すぎることも承知している。だから苦手なものや食べられないものは無理に口にしなくていい。今は何を食べられるか確認することが大事なんだ」
慎み深いトキのことだ。
しっかりと伝えておかないと無理をしてでも食べようとするだろう。
その証拠に私が告げると、ホッとした表情を見せていた。
トキを抱きかかえたまま、椅子に座る。
「まだ一人で食べるのは身体が辛いだろう。食べてみたいものを言ってくれ。私が食べさせよう」
トキは自分の身体がまだうまく動かないのを知っている。
だから素直にいうことを聞いてくれた。
「あの、そこのスープ? みたいなものが飲みたいです」
これは私も好んで食べる、煮込んだ野菜がたっぷりと入ったポタージュスープ。
トキの口に合えばいいが。
最初はスプーンに半口ほどのせてトキに飲ませる。
小さな口にはこのスプーンも大きそうだ。
それをなんとか口にしたところで「美味しい」と声が漏れる。
それに安堵しつつ、私は小さなスプーンに持ち替えた。
「こちらのほうが食べやすいだろう」
そうしてもう一度スープを掬って食べさせると、トキは嬉しそうに食べていた。
「これはどうだ?」
羽兎のローストは身が柔らかく、子どもにも食べやすい。
それを小さく切り分けて子どもが好むフルーツソースをつけて口に運ぶ。
パクリと口に入れると、途端にトキの顔が赤くなる。
「からぃ、からぃっ」
飲み込むこともできず口を開けたまま慌てるトキの口に指を入れ、急いで肉を取り出した。そして、水を飲ませてうがいをさせる。
「トキ、ここに吐き出すんだ」
空の深皿を目の前に差し出したが、トキは首を横にふる。
料理を盛る皿に吐き出すのが嫌なのかもしれないと気づき、急いで寝室奥の洗面所に連れて行った。
うがいした水を吐き出させて口の中を見る。
ただれてはいないが、真っ赤になっているのがわかる。
あのソースがトキには合わなかったのかもしれない。
「悪い、辛かったな」
「ごめ、なさい……」
申し訳なさそうに謝罪をするが、トキが謝る必要はどこにもない。
「トキは違う世界から来たのだ。食事が合わないのも当然だろう。食べられるものを探していけばいい」
涙を潤ませて頷くトキをしっかりと抱きしめて、テーブルに戻る。
だが、トキは先ほどの体験で少し身体が強張っているようだ。
それでも真っ直ぐに私をみて、口を開いた。
「あのお肉だけ食べてみたいです」
「わかった。何かあればすぐに吐き出すのだぞ」
そう言って同じ肉をフォークで掬った。
今度はソースをつけないようにして小さな欠片をトキの口に運ぶ。
「どうだ?」
「ん。美味しいです」
どうやらやはり辛いのはあのソースか。トキの味付けについてロジェリオに相談したほうが良さそうだな。


