異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

<side斗希>

いつぶりだろう。
お風呂にゆっくりと浸かれるなんて。

ここしばらく学校に行く以外の空いた時間は全てアルバイトにつぎ込んでいたから、家には寝に帰るだけ。それでも臭いとは言われたくなくて、一日おきにシャワーで汗を流すくらいはしていた。
アパートにはもともと浴槽がなく、近くの銭湯でお金を払うものもったいなくてシャワーで我慢していた。だけど、まさかこの世界にびっくりするほど広いお風呂があるなんて夢にも思わなかった。

髪も身体も綺麗になって、少し身体が軽くなった気さえする。

エリアスさんに支えてもらいながら湯船に入ると、じわじわと身体を温めてくれる。

ああ、本当に最高だ。

あまりにも気持ちが良すぎて瞼が下がってきてしまう。
眠ってしまいそうだと伝えると、任せてくれたらいいとエリアスさんの優しい言葉が降ってくる。その言葉にホッとして、僕は一気に意識を手放した。

エリアスさんの前で裸になるのが恥ずかしいとか思っていたのに、もう全てを委ねてしまっている。
これまで両親にだってここまで甘えたこともなかったのに。
どうしてエリアスさんには素直に甘えられるんだろう。

やっぱり死にそうなところを助けてもらったからかな。
エリアスさんが救い出してくれなかったら、こんな幸せな経験もできなかったんだから。

夢の中でまた安心する匂いがする。
これはエリアスさんが僕のそばについてくれている証。

その匂いに包まれて僕は安心して眠っていた。

「んっ……」

気がつくと、僕はベッドにいた。
隣にはエリアスさんがいる。

「トキ、目が覚めたか?」

「はい。ここ……」

ベッドから見えるものがさっきと違う気がして尋ねてみる。

「ここは私の部屋だ。今日からはここがトキの部屋でもある」

本当に移動したんだ。
僕が一緒にいたいって言ったから……

「本当に、いいんですか?」

「何も気にすることはない。トキはずっとこの部屋にいればいい」

「あの、でも……」

僕がずっと部屋を占領していたらエリアスさんが窮屈になってしまうんじゃないかと心配になった。
それを伝えようとしたのに、

「きゅるる……っ」

空気の読めない僕のお腹が鳴ってしまった。

「トキ、今のは……」

「……すみません。僕の、お腹が……」

恥ずかしい。今の僕には裸を見られるより恥ずかしいかもしれない。

「気にすることはない。食欲が出たのならいいことだ。すぐに食事を用意させよう」

エリアスさんは全く僕を揶揄うこともなく、むしろお腹が空いたのを喜んでくれているみたいだ。この人はどうしてこんなにも僕に優しくしてくれるんだろう……

「ここで少し待っていてくれ」

エリアスさんがベッドから下りて行こうとする。
一気に寂しさが押し寄せてきて、咄嗟にエリアスさんの服の袖を掴んでしまった。

「トキ……」

「あ、ごめんなさい。僕、寂しくて……」

僕のために食事を用意してくれるのに、行かないで欲しいなんてわがままを言うなんて……
さすがに呆れられたかもしれない。
自分でもわがままだと呆れて俯いていると、ふわっと優しく抱きしめられた。

「トキが謝る必要はない。ずっと一緒で離れないと言ったのは私だ。それを破ろうとしたのだから私が悪い。少しでも不安にさせて申し訳ない」

エリアスさんの優しい声に涙が出そうになる。

「トキ、一緒に行こう」

「えっ? でも、僕……」

エリアスさん以外の人に会うのも怖い。
自分でもどうしていいのかわからない。

「大丈夫。私がついている。トキは心配しないでいい」

エリアスさんはそういうと柔らかなブランケットで僕を包み込み、優しく抱きかかえた。

そのまま軽々と立ち上がり、寝室を出る。
そしてベルを鳴らすと、すぐに扉を叩く音が聞こえた。

その音にびくりと身体が震える。

「トキ、私の胸元に顔を寄せて匂いを嗅いでいろ」

言われた通りに、エリアスさんの胸元に顔を擦り寄せる。
匂いだけでなく、ほっぺたから彼の温もりが伝わってきてホッとする。

エリアスさんの手が僕の耳を覆うように被さると周りの音が聞こえにくくなった。

扉を開く音もかすかに聞こえるくらいだ。
これなら大丈夫そう。

ボソボソと遠くで声が聞こえる。
それが終わるまでの間、僕はずっとエリアスさんの匂いを嗅いでいた。

「トキ。もう大丈夫だ。すぐに食事が運ばれる。ベッドで待っていよう」

そう言われて一度ベッドに戻る。
それからしばらくして、また抱きかかえられて寝室を出ると、テーブルの上には驚くほどたくさんの料理が並んでいた。
とてつもなく美味しそうな匂いに、僕のお腹はまた「きゅるる」と鳴らした。