異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

<sideエリアス>

彼の声が出ない理由がアルトゥンの毒かはわからないが、なんとか効いてくれたらいい。そう願いつつ、彼の眠りを妨げないように彼が眠るベッドの傍らで目が覚めるのを静かに待っていた。

それからしばらく経った頃、彼が少し動き始めた。
気になって近寄れば、魘されているように感じられた。

どうしようか。
だが私が近づけばさらに怯えさせてしまうかもしれない。

これ以上不安にさせたくなくて躊躇っていると、

「たすけて! だれか、ここからだしてー!」

と彼の叫び声が聞こえた。

声を出せるようになったとホッとする一方で、まだあの地下室に閉じ込められていた恐怖に襲われていることに可哀想でたまらなくなる。

何度も繰り返し叫ぶ姿に居ても立ってもいられず、私は彼が眠るベッドに近づいた。
勇気を出してまずは手を握ってみる。すると、表情がほんの少しだが和らいだ気がした。

眠っている間なら、近づいても大丈夫かもしれない。
そう思って私は上着を脱ぎ、彼を起こさないようにそっと彼の隣に身体を滑り込ませた。

痛みを緩和する薬を飲ませたとはいえ、繊細なフィリグランの身体がすぐに治るわけではない。すぐに壊れてしまいそうなほど華奢な身体を腕の中に抱きしめる。叫び声も消え穏やかな表情に変わった。

それどころか、私の胸元に顔を擦り寄せ安心したような表情を見せてくれる。

ああ……私には、心を許してくれている。
そう思えるだけで私は幸せに感じた。

小さな身体を抱きしめ、そっと髪を撫でる。
柔らかな肌の感触とは対照的に髪はゴワゴワとしている。
その感触に、まだアルトゥンの花の蜜を湯で洗い流しただけだったことを思い出す。

髪をかき分けてみれば、頭皮が赤くなっているのがわかる。
普通の人間ならこのようになることはないが、やはりフィリグランは我々とは違う。

目を覚ましたら風呂に入れてやりたい。
ただ、一人で入ることは難しいだろうから怯えずにいてくれたらの話だが……

眠っている時だけでなく、起きている時も私のことだけでも安心してくれるようになってくれればいい。そう願いながら、彼が眠るのを見守り続けた。

それからしばらくして彼が目を覚ました。

「ん……ここ、どこだっけ……?」

可愛らしい少し寝ぼけたような声が可愛すぎて、思わず笑ってしまいそうになる。
それでも寝起き早々驚かせたくなくて我慢していたのだが、赤子のような小さな力で私の胸を撫でているのをみてどうにも我慢ができなくなった。

思わず笑い声を漏らすと、ハッとしたように私を見上げる。
まだほんのりと目が赤いのは、魘されていたからだろう。

怖がらせないように優しく声をかける。
彼はまだこの状況が理解できないようで「なんで?」と問いかけてくる。

「声が出るようになっていることに気づいたか?」

彼に尋ね返すと、ようやくそのことに気付いたようだ。

この可愛らしい声を二度と聞くことができなくなっていたかもしれない。

「よかった。間に合ったようだな」

本当に良かったと、心から安堵した。

「間に合ったって、どういうことですか?」

「そなたは池の水を口にしたのではないか?」

「は、はい。でもそれをどうして……?」

「あの花が咲いている水を飲むと、声帯に炎症を起こし声が出せなくなると言われている。そして飲んでから一週間以内に解毒薬を飲まなければ一生、声を出せなくなるんだ。もしかしたら池の水を飲んだのかもしれないと思って薬を飲ませた。本当に間に合って良かった……」

私の説明を彼は青ざめた顔で聞いていた。
また怖がらせてしまったかと不安になったが、彼は私を見つめながらお礼を言ってくれた。

「あなたは僕を助けてくれたんですね。何も話せない上に、あなたを怖がってしまったのに……」

「気にすることはない。それほど辛い思いをしたのだ。助けられて本当に良かった」

そう告げると、彼は漆黒の瞳を潤ませて涙を流した。
まるで宝石のような雫が頬を伝っていく。

それを優しく指で拭ってやるが、彼は私の行動に怯えることはなかった。

「そなたの名前を聞いても良いか?」

「は、はい。僕……斗希です」

「トキ……」

トキとはフィオラード王国の古語で、神の使者という意味を持つ。
やはりトキは神の使いとしてやってきたのだ。

「素晴らしい名前だな」

「えっ、ありがとう、ございます……」

私が名を褒めると、頬を色づかせて嬉しそうに笑った。
初めてみるトキの笑顔に、私は胸の高鳴りが抑えられなかった。