異世界で監禁された僕は助けてくれた公爵さまからこの上ない寵愛を受けています

しばらくしてロジェリオが薬を手に帰ってきた。

「こちらの薬をすぐに飲ませてください」

透明なガラス瓶に入った薬は少し大きめの錠剤。彼がこれを飲み込めるかどうか心配だ。

「これは砕いて飲ませても構わぬか?」

「その必要はありません。唾液に触れるとすぐに溶けます。そのあと少し水を飲ませればすぐに吸収されるでしょう」

「そうか、わかった。これは他の薬と合わせても問題ないか?」

「違う薬を飲ませて三十分以上経過していれば問題ありません」

その言葉に時計を確認するが、すでに30分は経っている。よかった。

「近いうちにそなたに診察をしてもらうことになるだろうが、今回のことも含めて決して口外はしないように。いいな?」

「心得ております。どうぞご安心ください。とにかくそちらの薬を早く患者様に」

ロジェリオに促されてすぐに彼が眠っている寝室に向かう。
そっと扉を開けると、先ほどの薬が効いているのかまだ深く眠っているようだ。

この子の声が出ない原因が本当に毒が混ざった水を飲んだかはわからないが、試してみる価値はある。

起こして怯えさせたくない。
足音を立てぬように静かに彼のもとにいく。

スゥスゥと穏やかな眠りについていることにホッとする。
このまま安心して寝ていてほしい。

彼の唇を指でそっと撫でる。
何度か撫で続けると小さな口を少し開けてくれた。
その隙間にロジェリオが持ってきたその薬をあてがった。
舌先に当たったところからシュワシュワと薬が溶けていくのがわかる。

あっという間にあの錠剤は全て溶けて彼の口の中に入っていった。
ロジェリオに言われた通り、ベッド脇に置いていた水差しの水を飲ませようとして新しい吸飲みを忘れたことに気がついた。取りに行く間に薬を吐き出してしまうかもしれない。そんな可能性はないと思いつつも、自分にいいように理由をつける。

水差しの水をグラスに注ぎ、自分の口に含んだ。
そして、眠っている彼の口に優しく重ねる。
咽せないようにゆっくりと時間をかけて水を注ぐ。彼の喉がコクっと動いた。
少し名残惜しく思いつつ、ゆっくりと唇を離す。

「早くそなたの声が聞きたい……」

可愛らしい寝顔にそっと呟き、濡れた唇を優しく指で拭いとる。
そして私はベッドから少し離れた場所にある椅子に腰掛けた。

水を飲ませるために二度くちづけた。あの柔らかな唇の感触は消そうと思っても私の記憶から決して消すことはできないだろう。
こんなにも愛おしく思うのは、彼がフィリグランだからなのか?
確かに顔かたちは美しい。だがいくら魅了されるとはいえ、こんなにも狂おしいほどに思えるものなのだろうか?

いや、絶対に違う。
顔が泥に塗れ、髪を金色に染められて、フィリグランの美しさのカケラも見えなかった時から、私は心を奪われていたではないか。なんの躊躇いもなくあの時の彼に口付けて水を飲ませた時、私はなんの魅了もされていなかったはずだ。

やはりこの子は私にとってフィリグラン以上の特別な存在なのかもしれない。


<side斗希>

薬を飲ませてもらってすぐに眠くなってきた。
一気にストンと落ちる感覚は、向こうでも経験があった。
引越ししてからの生活のために、空き時間は昼も夜も働いて家に帰ったら水分をとってすぐに布団に倒れ込んでいた。あの時の落ちる感覚によく似ていた。

あの日もいつものように布団で眠るはずだったのに……

夢の中でまたあの男がやってくる。
僕の胸ぐらを掴んで地面に押し倒された時から恐怖を抱いていたけれど、あの地下室に入れられてからあの男でもいいからここから助け出してほしいと思うようになった。

何も見えない恐怖と不安に怯えて、必死に叫んだ。
声が出せなかったけれど、それでも必死に叫び続けた。

「たすけて! だれか、ここからだしてー!」

必死に叫んでいると、ふっと温かいものに包まれた。
安心する匂い。この匂いには覚えがある。

――大丈夫。ここには何も怖いものはないよ。だから安心して……

その優しい声に僕はホッとして、また深い眠りに落ちていった。


「ん……ここ、どこだっけ……?」

目の前に大きな壁がある。
でも怖いとは感じない。

「これ……なんだろう?」

目の前の壁に手のひらで触れてみると、「ふっ」と優しい声が頭上から聞こえてきた。

「えっ?」

驚いて顔を上げると、そこにはあのエリアスさんがいた。

「目が覚めたようだな」

「な、なんで……?」

驚いて問いかけるけれど、彼は優しい笑顔で僕を見た。

「声が出るようになっていることに気づいたか?」

「えっ? あ、そういえば……」

どれだけ声を出そうとしても出なかったのに。
あの薬を飲んだから? でもそんなこと言ってなかったはず。
じゃあどうして?

僕の頭の中がはてなマークでいっぱいになっていたけれど、彼だけは

「よかった。間に合ったようだな」

と安堵の表情を浮かべていた。