*
期末テストの、最後の教科が終わった。
テスト期間中は授業も早く終わるし、テストという地獄を乗り越えた生徒たちは、みんな脱力してるか歓喜に打ち震えているかしている。
「終わったあああ」
「お疲れ、青葉」
SHRを終えたばかりの僕は、青葉にねぎらいの言葉をかけ、ノートとプリントを鞄の中にしまう。
「浪川のおかげで、日本史はなんとかなりそうだわ。ありがとうな」
「いいえいいえ。自習室で一緒に勉強した甲斐があったね」
「これで、気持ちよく夏休みを過ごせるってもんだな」
期末テストが終わったら、そのあと何日か授業はあるけど、それも終われば楽しみにしていた夏休みに入る。
「浪川~、夏休み何する?」
「うーん……まだ何にも。でも、一日くらいは付き合ってよ、青葉」
「もちろん!」
青葉はにこっと笑ってくれる。また電車に乗って海を眺めて、映画に行ったりゲーセン行ったりしたいし、こんどは違うところに行ってもいい。
「じゃあさ、帰りにどっか寄って、作戦会議やんね?」
「あ、ごめん……今日は用事があるんだ。明日でいい?」
「いいぞ。珍しいな。部活はないし、塾でもなさそうだし」
「まあ、ちょっとね」
僕は鞄を手に、さっそうと教室を出た。
校門から一歩踏み出た僕の足は、踊るように軽やかだった。じりじりした日差しも、はだにまとわりつく熱気も、今は気にならない。それよりも、胸の逸りが僕を浮き動かしている。 帰りの電車のホーム、一号車ドアの近く。いつもより遠くの場所へ立つ。
自販機でポカリを買い、あっという間に飲み干してしまった。そして、お気に入りのりんごジュースを二つ買う。
ガタンと、ジュースが落ちてきたと同時に、ポケットのスマホが鳴った。
ジュースをさっと拾い上げ、すぐにスマホを取り出す。
着信の相手の名前を目にして、僕は思わず唇を緩めた。
「もしもし」
電話の向こうの彼が、話す。
僕はきょろきょろとあたりを見回す。
電車の来たけたたましい音で、彼の声がかき消されてしまった。少し焦燥に駆られながら、それでも周囲を探した。待ち合わせはココであってるよな?
ぷしゅっと、ドアが開いた。僕は一号車のドアから降りてきた人物を確認し、スマホを切る。今、情けない顔をしてるかもしれないけど、大目に見てもらおう。
「待たせてしまったね」
白銀のふわふわな髪が、太陽の光を浴びてきらきらして、紺藍の目がまっすぐ僕を見てくれる。
澄み渡る水のような匂い。さわやかな風が吹き込む。
最低な魔法使い、三峰魁無。
僕は僕のカイナと、再会を果たした。
僕は一歩進み、りんごジュースを差し出した。
「今きたとこ」
「よかった」
次の電車に乗るため、僕らはベンチに座る。
学校がもとに戻ってからも、僕はカイナと一日に何回か連絡を取っていた。
カイナはお師匠さんのもとに戻って、また新たな仕事に行くらしい。今は準備を進めている段階から、自由に外出しやすいんだって。本格的仕事に向かったら、終わるまで帰れないということだったから、魔法使いはきっと大変な仕事なのだろう。よくわかんないけど。
「カイナ、いきたいとこある?」
「うーん……」
カイナはりんごジュースを飲み、唸る。小さなペットボトルの中身が飲み干されるころに、カイナの答えが決まった。
「……ゲームセンター」
「ゲーセン?」
「僕にもねこのキーホルダーを取ってくれ」
「おれが取ったんじゃないんだけどな……」
僕は苦笑して、空のボトルをゴミ箱に入れる。
「うん、行こう」
電車が止まり、ドアを開く。
カイナが僕の手を取り、僕はカイナの手を握り返してやるんだ。
ふたり仲良くくっついて座って、ひそひそと、くすくすとゲーセンで遊ぶ未来を語り合っている。
今日は友達と遊ぶから、遅くなるって姉には言ってある。だから、合法的にカイナと過ごせるというわけだ。
カイナとゲーセンで遊ぶ楽しみ、その楽しみを語り合う今。
「何駅かかるんだ?」
「四駅。十分くらいだからすぐだよ」
「十分か。ふふ……おしゃべりするには足りないな」
そうだよ。会えていなかった一か月間のこと。お師匠さんと話したこと、夏菜姉ちゃんと久々に会ったこと、両親となんとなく会話したこと、青葉との夏休みのこと。
そして、夏休みにカイナと一緒にいる計画を立てたいこと。
こんなに多くのことを、たった十分ではとうてい話しきれないだろ?
「これから夜までは、僕とカイナだけの自由な時間だ」
「ふふ……何から話そうか、ミカ?」
迷っちゃうけど。
まずは、カイナの話から聞かせてよ。
了
期末テストの、最後の教科が終わった。
テスト期間中は授業も早く終わるし、テストという地獄を乗り越えた生徒たちは、みんな脱力してるか歓喜に打ち震えているかしている。
「終わったあああ」
「お疲れ、青葉」
SHRを終えたばかりの僕は、青葉にねぎらいの言葉をかけ、ノートとプリントを鞄の中にしまう。
「浪川のおかげで、日本史はなんとかなりそうだわ。ありがとうな」
「いいえいいえ。自習室で一緒に勉強した甲斐があったね」
「これで、気持ちよく夏休みを過ごせるってもんだな」
期末テストが終わったら、そのあと何日か授業はあるけど、それも終われば楽しみにしていた夏休みに入る。
「浪川~、夏休み何する?」
「うーん……まだ何にも。でも、一日くらいは付き合ってよ、青葉」
「もちろん!」
青葉はにこっと笑ってくれる。また電車に乗って海を眺めて、映画に行ったりゲーセン行ったりしたいし、こんどは違うところに行ってもいい。
「じゃあさ、帰りにどっか寄って、作戦会議やんね?」
「あ、ごめん……今日は用事があるんだ。明日でいい?」
「いいぞ。珍しいな。部活はないし、塾でもなさそうだし」
「まあ、ちょっとね」
僕は鞄を手に、さっそうと教室を出た。
校門から一歩踏み出た僕の足は、踊るように軽やかだった。じりじりした日差しも、はだにまとわりつく熱気も、今は気にならない。それよりも、胸の逸りが僕を浮き動かしている。 帰りの電車のホーム、一号車ドアの近く。いつもより遠くの場所へ立つ。
自販機でポカリを買い、あっという間に飲み干してしまった。そして、お気に入りのりんごジュースを二つ買う。
ガタンと、ジュースが落ちてきたと同時に、ポケットのスマホが鳴った。
ジュースをさっと拾い上げ、すぐにスマホを取り出す。
着信の相手の名前を目にして、僕は思わず唇を緩めた。
「もしもし」
電話の向こうの彼が、話す。
僕はきょろきょろとあたりを見回す。
電車の来たけたたましい音で、彼の声がかき消されてしまった。少し焦燥に駆られながら、それでも周囲を探した。待ち合わせはココであってるよな?
ぷしゅっと、ドアが開いた。僕は一号車のドアから降りてきた人物を確認し、スマホを切る。今、情けない顔をしてるかもしれないけど、大目に見てもらおう。
「待たせてしまったね」
白銀のふわふわな髪が、太陽の光を浴びてきらきらして、紺藍の目がまっすぐ僕を見てくれる。
澄み渡る水のような匂い。さわやかな風が吹き込む。
最低な魔法使い、三峰魁無。
僕は僕のカイナと、再会を果たした。
僕は一歩進み、りんごジュースを差し出した。
「今きたとこ」
「よかった」
次の電車に乗るため、僕らはベンチに座る。
学校がもとに戻ってからも、僕はカイナと一日に何回か連絡を取っていた。
カイナはお師匠さんのもとに戻って、また新たな仕事に行くらしい。今は準備を進めている段階から、自由に外出しやすいんだって。本格的仕事に向かったら、終わるまで帰れないということだったから、魔法使いはきっと大変な仕事なのだろう。よくわかんないけど。
「カイナ、いきたいとこある?」
「うーん……」
カイナはりんごジュースを飲み、唸る。小さなペットボトルの中身が飲み干されるころに、カイナの答えが決まった。
「……ゲームセンター」
「ゲーセン?」
「僕にもねこのキーホルダーを取ってくれ」
「おれが取ったんじゃないんだけどな……」
僕は苦笑して、空のボトルをゴミ箱に入れる。
「うん、行こう」
電車が止まり、ドアを開く。
カイナが僕の手を取り、僕はカイナの手を握り返してやるんだ。
ふたり仲良くくっついて座って、ひそひそと、くすくすとゲーセンで遊ぶ未来を語り合っている。
今日は友達と遊ぶから、遅くなるって姉には言ってある。だから、合法的にカイナと過ごせるというわけだ。
カイナとゲーセンで遊ぶ楽しみ、その楽しみを語り合う今。
「何駅かかるんだ?」
「四駅。十分くらいだからすぐだよ」
「十分か。ふふ……おしゃべりするには足りないな」
そうだよ。会えていなかった一か月間のこと。お師匠さんと話したこと、夏菜姉ちゃんと久々に会ったこと、両親となんとなく会話したこと、青葉との夏休みのこと。
そして、夏休みにカイナと一緒にいる計画を立てたいこと。
こんなに多くのことを、たった十分ではとうてい話しきれないだろ?
「これから夜までは、僕とカイナだけの自由な時間だ」
「ふふ……何から話そうか、ミカ?」
迷っちゃうけど。
まずは、カイナの話から聞かせてよ。
了
