「!?」
「カイナ、天井の蛍光灯を壊せ!」
カイナは僕の方を振り向かない。右手を天井へ向け、魔法の弾を放つ。
「やめろ!!」
松前の声が聞こえた。松前が初めて前に一歩踏み出したと同時に、カイナの魔法が蛍光灯へと直撃する。
パリン! と薄い蛍光灯が砕ける音が振ってきた。破片がきらきら輝きながら、巨大蜘蛛に降り注ぐ。
「アアァァッ!」
蜘蛛はひるみ、爪を一瞬だけ引っ込めた。頭部の顔がぎゅっと瞼をつぶっている。うめき声を上げて一歩下がる。
その一瞬の隙を、カイナは見逃さない。冷たい指をまっすぐに蜘蛛へ向け、炎を纏った魔法弾を五発もたたき込む。防御体勢をとり忘れた蜘蛛の爪にも腹部にも頭部にも、抉り込むように命中する。
「ア”ア”ァ”ァァァアァ!!」
蜘蛛の甲高い悲鳴が響く。僕は耳を塞いでやり過ごした。カイナが一歩さがり、僕に背中をくっつけてくる。もしものときは、その冷たくて頼もしい体で盾になるつもりなのだろう。それを僕が許すつもりはないけど。
しかし結果は杞憂に終わった。蜘蛛は鋭い爪八本すべてを炎で失い、ボロボロに砕けていた。少年――翼の顔は炎でただれ、苦しそうに歪んでいる。
武器も顔も焼けただれた蜘蛛は、松前の元へと戻ってくる。
「眷属……! くそ……!」
「……あんた、魔力で操り糸を作って蜘蛛を操り人形にしてたんだろ。おれには視えた」
「ばかな……私の魔力が……」
「繭とか蜘蛛とか、いろんなところで魔力を使いすぎてて、あんた自身も魔法を放つ余裕はなくなってる」
僕は松前をじっと見つめる。彼の体の中に流れる、虹色の魔力が視える。それは消えそうなロウソクのようにゆらゆらしてて、ついにはふっと消えた。
「くそ……ただの人間風情が……! できそこないの魔法使いが……!!」
「残念だが」
カイナは魔法壁を張り直す。
「魔法の才能にかかわりのない罵倒さえ、僕の師匠の……いや、弟弟子にも及ばない。
お前は、おわりだ、松前」
その返しの煽り具合、よくわかんない。よくわかんないけど、カイナの不敵な微笑からして結構良い感じなんだろう。
僕はカイナの隣にたつ。
「松前、先生……。ここにいるのは、三峰魁です。あんたの息子じゃない。
目的のためなら人を利用するような、最低の魔法使いです」
松前にとって、竹岡翼は、なんとしても取り戻したい存在だったのだろう。
死んでしまった息子と再び会いたい気持ちが、今回の噂を作り出していったのだ。
その気持ちは、なんとなくだけどわかる。僕だって、夏菜姉ちゃんが死んじゃったら、きっと同じようなことをすると思う。考えたくはないけど。
だけど……それは間違ってる。そのために、僕の日常を壊して、友達を歪曲するのは許さない。
「あんたは、愛する息子と会いたかったんじゃない。自分の罪も魔法も許し、笑ってくれる都合のいい美しい木偶の棒が欲しかっただけだ。
何より……おれのカイナを奪うのなら、そんなことさせない」
カイナを失う方法を認めない。
カイナを犠牲にするという手段であるなら、いくらでも邪魔して、カイナを守る。
「あきらめてください。あんたがカイナを奪おうとするかぎり、おれはあんたを止める。絶対に」
僕の左手が、無意識に疼く。鍵で差した傷跡。もう治った痕が、熱くなる。
「……ミカ」
「カイナ。考えなしでごめん。でも……おれはカイナを守るために、この目も考えなしの性格も使いたい」
カイナが一瞬目を見開く。紺藍の目がきらめいて、僕の目を射貫く。
ふわりと微笑んだカイナの表情は、まぎれもなくカイナのものだ。
「きみの考えなしは、治らないな」
「ごめん」
「かまわない。考えない分、僕が考えてあげよう。きみが傷つかないようにね、ミカ」
僕の胸が弾んだ。無意識に、カイナの手を握る。
「……ふざけるな」
松前のくぐもる声がする。
「ただの能なしと、変身しか能のない魔法使いなど、翼に比べればちっぽけなものだ!!」
「っ、まだ言うか! おれもカイナも……!」
「うるさい!! これ以上のお喋りは許さん!
蜘蛛よ! あの二人を喰らうのだ!」
「カイナ、天井の蛍光灯を壊せ!」
カイナは僕の方を振り向かない。右手を天井へ向け、魔法の弾を放つ。
「やめろ!!」
松前の声が聞こえた。松前が初めて前に一歩踏み出したと同時に、カイナの魔法が蛍光灯へと直撃する。
パリン! と薄い蛍光灯が砕ける音が振ってきた。破片がきらきら輝きながら、巨大蜘蛛に降り注ぐ。
「アアァァッ!」
蜘蛛はひるみ、爪を一瞬だけ引っ込めた。頭部の顔がぎゅっと瞼をつぶっている。うめき声を上げて一歩下がる。
その一瞬の隙を、カイナは見逃さない。冷たい指をまっすぐに蜘蛛へ向け、炎を纏った魔法弾を五発もたたき込む。防御体勢をとり忘れた蜘蛛の爪にも腹部にも頭部にも、抉り込むように命中する。
「ア”ア”ァ”ァァァアァ!!」
蜘蛛の甲高い悲鳴が響く。僕は耳を塞いでやり過ごした。カイナが一歩さがり、僕に背中をくっつけてくる。もしものときは、その冷たくて頼もしい体で盾になるつもりなのだろう。それを僕が許すつもりはないけど。
しかし結果は杞憂に終わった。蜘蛛は鋭い爪八本すべてを炎で失い、ボロボロに砕けていた。少年――翼の顔は炎でただれ、苦しそうに歪んでいる。
武器も顔も焼けただれた蜘蛛は、松前の元へと戻ってくる。
「眷属……! くそ……!」
「……あんた、魔力で操り糸を作って蜘蛛を操り人形にしてたんだろ。おれには視えた」
「ばかな……私の魔力が……」
「繭とか蜘蛛とか、いろんなところで魔力を使いすぎてて、あんた自身も魔法を放つ余裕はなくなってる」
僕は松前をじっと見つめる。彼の体の中に流れる、虹色の魔力が視える。それは消えそうなロウソクのようにゆらゆらしてて、ついにはふっと消えた。
「くそ……ただの人間風情が……! できそこないの魔法使いが……!!」
「残念だが」
カイナは魔法壁を張り直す。
「魔法の才能にかかわりのない罵倒さえ、僕の師匠の……いや、弟弟子にも及ばない。
お前は、おわりだ、松前」
その返しの煽り具合、よくわかんない。よくわかんないけど、カイナの不敵な微笑からして結構良い感じなんだろう。
僕はカイナの隣にたつ。
「松前、先生……。ここにいるのは、三峰魁です。あんたの息子じゃない。
目的のためなら人を利用するような、最低の魔法使いです」
松前にとって、竹岡翼は、なんとしても取り戻したい存在だったのだろう。
死んでしまった息子と再び会いたい気持ちが、今回の噂を作り出していったのだ。
その気持ちは、なんとなくだけどわかる。僕だって、夏菜姉ちゃんが死んじゃったら、きっと同じようなことをすると思う。考えたくはないけど。
だけど……それは間違ってる。そのために、僕の日常を壊して、友達を歪曲するのは許さない。
「あんたは、愛する息子と会いたかったんじゃない。自分の罪も魔法も許し、笑ってくれる都合のいい美しい木偶の棒が欲しかっただけだ。
何より……おれのカイナを奪うのなら、そんなことさせない」
カイナを失う方法を認めない。
カイナを犠牲にするという手段であるなら、いくらでも邪魔して、カイナを守る。
「あきらめてください。あんたがカイナを奪おうとするかぎり、おれはあんたを止める。絶対に」
僕の左手が、無意識に疼く。鍵で差した傷跡。もう治った痕が、熱くなる。
「……ミカ」
「カイナ。考えなしでごめん。でも……おれはカイナを守るために、この目も考えなしの性格も使いたい」
カイナが一瞬目を見開く。紺藍の目がきらめいて、僕の目を射貫く。
ふわりと微笑んだカイナの表情は、まぎれもなくカイナのものだ。
「きみの考えなしは、治らないな」
「ごめん」
「かまわない。考えない分、僕が考えてあげよう。きみが傷つかないようにね、ミカ」
僕の胸が弾んだ。無意識に、カイナの手を握る。
「……ふざけるな」
松前のくぐもる声がする。
「ただの能なしと、変身しか能のない魔法使いなど、翼に比べればちっぽけなものだ!!」
「っ、まだ言うか! おれもカイナも……!」
「うるさい!! これ以上のお喋りは許さん!
蜘蛛よ! あの二人を喰らうのだ!」
