カイナのことは、ミカにしか見抜けない

「な……なぜ……」
 松前は驚愕して、冷静に言葉を出せないらしい。
 僕はカイナに引っ張り上げられ、立ち上がれた。
 相変わらず、この空間は蜘蛛の巣に張り巡らされていた。木偶の棒と化した生徒たちが足下に転がって、巨大蜘蛛を従えている松前の怒りの眼差しもあって、恐怖も漂う。
「おまえたちは、繭の中でゆっくりと記憶を溶かす運命にあったというのに……なぜ、脱出できた……!?」
「敵に手の内を晒す趣味はないのでね」
 カイナは淡々と語る。
「松前先生……あなたは僕が魔法使いだと気づき、自分の息子の記憶を僕に注いだ。本物の記憶ではなく、先生にとって都合のいい記憶を」
「……ふん。都合の良い記憶だと?」
「その通り。本物の竹岡翼は、このノートにあるとおり、家族関係に悩む少年だった。ちょうど、ここにいるミカと同じように、多くに苦しむような性格だ」
 紺藍の目が、僕をちらりと見やる。
「記憶を注がれていたときのことも、少し思い出したよ。純粋無垢でふわふわして、お姫様みたいに弱々しくて庇護欲を掻き立てられる。
 貴方の理想の竹岡翼は、なかなかのものだ。理想の解像度が高すぎて吐き気がする」
「黙れ! 薄汚い三峰の魔術使いめ!!」
 松前が激高する。彼が僕らの方に向けた右手から、オレンジ色に輝く球体が揺らめいている。
「もう一度繭の中へ! お前たちさえいれば翼は!!」
 オレンジ色の球体が、松前の手をも覆い尽くすほどに肥大化した。
 あれが何なのかわからないけれど、数メートル離れていても肌が熱を感じるから、きっと炎のようなものなのだろう。いつか、カイナが見せてくれたような、炎と同じ。
 僕はとっさにカイナの前へ躍り出ようとして、カイナに無理矢理この場にとどまらされた。
 ぱちりと、カイナが指を弾く。
 するとどうだろう。松前の手よりも大きな炎は、眩しかった光を少しずつ失い、水のようにこぼれて消えた。
「な、なに……?」
「貴方の作り出した繭の糸を、吸収させてもらった。繭のほとんどは貴方の魔力でできたものだから、僕の体内には貴方の魔力も蓄えてある。
 その魔力を、僕が好き勝手操れるというわけだ」
「ふざけた真似を!」
「この僕をさんざんコケにして、なによりも僕のミカを傷つけたんだ。その報いは受けて頂こう」