カイナのことは、ミカにしか見抜けない

 魁無から唇を離す。僕も彼も、ぷはっと冷たくて新鮮な空気を取り込んだ。
 ふと、僕の体から、少しずつ力が抜けていく。
(あれ……おれ、なんで、ここに……)
 背中の痛みの理由もわからない。
 僕が押し倒している男子生徒の名前が、頭の中から消えていく。
 魔力を全部返したからか?
(……魔力?)
 魔力ってなに? ここはゲームの世界なのかな。
 いや、ちがう。
 ここは蜘蛛の糸で作られた、白銀の繭の中だ。
 繭の中にいるということは、僕は標本になるということだろう。
 どうして僕は標本にされたのだろう。
 目の前の生徒は……ああ、そうだ、翼。
 天文部の友達。一緒に遊んだり、勉強を教え合ったり、部活を盛り上げたり。
 でも……違う気もする。
 だれだっけ? 竹岡翼という名前だったはずなのに、僕にはその名前がしっくりこない。
 考えていると、僕の頭の中は迷路の中心にさまよう。
 視界が白くぼんやりして、瞼が重たい。
 体の中からしゅうしゅうと、僕を形作る記憶が抜けていく心地がする。
 苦しくも気持ち悪くもなく、むしろ心地良いくらいだ。
 でも、僕のぼんやりした眼差しを見つめる彼を見ていると、たったひとつだけ、心に座り込む疑問が浮かぶ。

「あなたは、だあれ?」

 僕はふと一瞬だけ意識が消え、申し訳ないと思いつつ、名前を思い出せない彼の上に覆い被さってしまった。
 僕は強烈な眠気に耐えきれず、瞼を落としてしまった。

「相変わらず、きみは考えなしの行動ばかりする」

 冷たくて、凜とした声が、繭の中に響いた。
 背中の傷に、冷たい手が這う。
 ぶわりと、お香の焦げるような匂いがした。
 そしてすぐさま消えて、こんどは涼やかな水の香りが広がった。

「わたしは、三峰魁無」