カイナのことは、ミカにしか見抜けない

「……は?」
「三峰魁は、魔法使いの世界ではそこそこ有名だ。変身魔法によって、あらゆる人間になりすますことができる。そして、変身魔法の過剰行使によって自我が極端に貧弱であることも知っている。自我が弱い者は、他人の記憶を大量に注入すればいずれ自分自身を失う」
 三峰先輩の体には、竹岡翼の記憶が埋め尽くしている。本来の三峰魁の記憶を塗りつぶすほどに。
「いつから気づいたんですか。三峰先輩が同業だって」
「数日前の小テストの際にね」
 松前先生は続ける。時期的には、担任の津摘先生が標本になったころのことだ。
「学校へ私が潜入したころから、定期的に行っているテストがある。答案用紙にちょっとした細工をしかけてね」
 僕には、心当たりがあった。竹岡翼――蜘蛛の顔の少年が、用紙のシミになって現れたときのアレだ。
「あの細工に対し、明らかに拒否反応を起こした者は、魔法の耐性のついたもの……つまり同業であるとあぶり出せる」
「先輩は、あれを随分こき下ろしてましたけど」
「であるなら、三峰魁は事象の本質までは見抜けなかっただけのことだ」
「拒否反応を起こしたのは先輩だけじゃない。おれも同じようにビビりましたけど?」
「きみ自身も何度かためした。応接室へ呼んだ時、津摘先生が標本になったと話した時、私自身が介入せずとも、竹岡翼と思しきものの記憶が生徒たちの間で流れた時の君の反応からも、君の立ち位置は理解できた。ただ魔法を見抜くだけの、異質な一般人だ。だからきみは候補から外し、残ったもう一人の三峰魁が同業だとわかったのだ」
「……そうまでして、竹岡翼をこの学校に居着かせたいのは、どうしてですか」
「私の息子だからだ」
 僕は面食らった。でも納得もした。
 今までの松前の言動を振り返ると、先生がひとりの生徒のためにここまで尽くすのはやり過ぎだと思っていたのだ。でも、それが親子であるなら、その行き過ぎも説得力がある。
「名字が違う」
「元身内の旧姓だよ。あの女に貴重な人材を奪われ、取り戻すのには苦労した」
「本物の竹岡翼は死んだんですか」
「生きているとも。身体が朽ちても、人々の記憶の中に受け継がれていれば永遠に死ぬことはない」
「……意味わかんない」
 僕の手足に絡む糸の力が強くなる。血の流れさえ止めるくらいの力で、末端が青くなり始めた。
「三峰先輩をどうやって捕まえたんだ」
「簡単なことだ。魔法使いだけに聞こえる囁き声で部屋から釣りだした。君が深く眠っている間にね。
 三峰魁はどうやら、君を大切にしているようだ。君の安全を脅かすと暗に告げたら、簡単に私の手に落ちてくれたよ」
 ミカ、カイナ、と、お互いだけの名を与え合ったあの夜。その翌日。
 僕を人質に取られた三峰先輩は、どんな気持ちだっただろう。