カイナのことは、ミカにしか見抜けない

 R-171。僕の寮の部屋番号らしい。自分のカバンをひっくり返して穴が空くほど探しても、家の鍵は出てこない。手のひらに乗せた寮の鍵には、黒猫のキーホルダーがついている。青葉とゲーセンに行った時に買ってもらったものだ。家の鍵につけてたはずなのに。
「ここがきみの部屋だよ」
 三峰魁は、目の前のチョコレート色の扉を難なく開いた。ためらいながら足を踏み入れると、中は意外と広かった。向かって右側の二段ベッドのそばに、段ボール箱二つに乗り上げているのは、明らかに僕のものとは思えないカバンだった。
「荷物をおいて、そのへんにかけるといい」
 三峰先輩は当たり前のように、僕を招き入れる。どうしたらいいのかわからない僕は、暗い気持ちを引きずって一段目のベッドに浅く座る。三峰先輩が、僕を見届けると部屋の鍵をすぐさま閉めた。
「ちょっと……!」
「怖がることはない。僕ときみは相部屋だ」
「な……っ、んで……!」
「一年生は、学校に慣れるために時間が必要だろう? 学校を一年過ごしており、かつ受験もなく余裕がある二年が相談役として面倒を見る。相部屋なのはその一環」
「……それも、あんたが作った魔法の幕ってヤツですか」
「ついさっき、ね」
 三峰先輩は、収納棚の上に置かれた電気ポットに水を注ぐ。その動作ひとつひとつはゆったりと優雅で、思わず見とれてしまうほどだ。ただ、出してもらった緑茶は渋すぎて飲み切るのに苦労した。
「濃度はこれが最適のはずなんだけれど」
「味が最悪すぎ……」
 合理と効率を求めすぎて、大切なものを見落とすタイプの典型だ。
「改めて自己紹介しよう。僕は三峰魁(ミツミネカイ)。きみの一学年上だが、年齢はきみと同じだ。職業は魔法使いの弟子」
 魔法使いって職業というくくりでいいのだろうか。おまけに弟子。
「ここにきたのは、銀の蝶のうわさを追って……?」
「その通り。きみはうわさの全貌を知っている?」
 僕は首を横に振る。
 すると三峰先輩は、淡々と話し出した。
 ――旧校舎三階に来たら、白銀の蝶に気をつけなさい。蝶のまき散らしている七色の鱗粉に触れると、少しずつ大切な記憶を奪われていくよ。記憶の最後の一つが奪われたとき、あなたの顔は脱皮したかのように剥がれ落ち、顔を失ったら最後、空っぽの体を蜘蛛の巣に絡めとられ、標本として閉じ込められる。いつか餌としてゆっくりと食いちぎられる時まで。