カイナのことは、ミカにしか見抜けない


 昼休みが終われば、翼は教室の輪の中へと戻る。
 午後の授業を真面目に受けて、休み時間はクラスメートたちとわいわいおしゃべりする。
 放課後になれば生徒たちに惜しまれて、僕に近づいてくる。
「浪川君、部活に行こう」
「……ん」
 天文部部室にはだれもいない。スマホが鳴ったので確認してみると、羽室からだった。
『わりー、居残りになっちゃったから先に行ってて』
 と、気軽なメッセージが映った。
 翼は僕の後ろをちょこちょこついてくる。ひよこみたい。長い足でぶっきらぼうに、大股でしっかりと歩く三峰魁じゃない。
 ゆっくりと歩幅を合わせようとすると、翼は立ち止まる。何のつもりだろうと思ったんだけど、どうも隣りに立って歩くのを避けたがっているようだった。
「先輩は?」
「追試で欠席なんだって。活動日誌をきちんと書いて、先輩に伝えておかないとね」
 穏やかで物静かな声だ。眠たくなるような声を聞いていると、僕は眠くなる前に恐ろしさを覚える。
 薄暗い部室にいるのは、僕と翼だけだ。翼は過去の活動日誌を眺めては表情をコロコロ変える。
 何をするでも無いから、僕は翼にだけ聞こえるくらいの声で、こぼしてみた。
「……魁」
「ん?」
 翼がこちらに顔を向ける。首をかしげる様も、竹岡翼みたいだ。
「三峰先輩じゃない……んですか……?」
「ミツミネ? だれ?」
「おれをからかってるワケじゃないですよね? 竹岡翼のフリをして、蝶と蜘蛛の噂を調べるために、おれまで騙すつもりで変身してるんですよね?」
 長テーブルの向かいに座る翼に、僕は詰め寄る。
「それとも、竹岡翼に長く変身したせいで、自分が三峰魁であることも忘れたんですか? あんたは……あんたはそんなひとじゃなかった……!」
 翼の肩に触れようとした瞬間、ガチャッと扉が開いた。
「お待たせー。遅くなっちゃってごめんねー」
 大原先輩が、笑顔で手を振ってきた。