カイナのことは、ミカにしか見抜けない

 先輩にコーヒー牛乳をぶつけて、中身もぶちまけて、気づけば僕は部屋を飛び出していた。
 昼休み明けの授業中。僕のおなかは鳴りっぱなしだった。先輩を拒絶して部屋を出てから食欲もなくて、昼を抜いて午後の授業が始まった途端に食欲が湧いてきた。
 でも授業中に食べるのはダメだ。蓋つきの飲み物なら許可されてるので、ペットボトルの麦茶でやり過ごす。
 スマホには、無数の通知が来ていた。そのすべては三峰先輩からだ。
 彼を思い出すと、また血が上る。
 三峰先輩は変身魔法が使えるけど、よりにもよって夏菜姉ちゃんになるなんて。
 初めて会ったときも、証拠として姉に変身したけど、あのときよりも僕の心はよくわからない怒りに震えている。
 僕にとって、姉は一番安心できるひとだ。
 小さい頃から、姉は僕の世話を焼いてくれた。自分がつらいのも笑って蹴飛ばすようなすごいひとだ。
 テストの成績が悪くなって親に詰められて、精神的につらかったときは、姉が「だーいじょぶだいじょぶ」と根拠もなく言ってくれた。
 志望校に受かったときは、親よりも、もしかしたら僕自身よりも喜んでくれてた。
 逆に姉ちゃんが落ち込んでるときは、僕が「大丈夫」を言った。大学のこともバイトのこともよくわかんないけど、姉がくじけているのはなんとなくわかった。
 姉にしてもらったように、僕も姉の安心できるひとになった。
『ありがと、愁。あんた、ほんとにサイコー。毎日サイコー記録更新してくれちゃって』
『何言ってんの姉ちゃん。でも、おれこそ……いつも……ありがと……』
 食後のテレビを観てリンゴジュースを乾杯して話したのを、昨日のことのように思い出せる。
 姉と僕の関係は、切っても切り離せないくらい強い絆だと、僕は思う。
 それを、三峰魁は土足で入り込んだ。
 本人にその気はなかったんだろう。
 でも、僕には踏みにじられた気がしたんだ。
「今日はここまで」
 松前先生の声が、六限目の終わりを告げた。五限目の休み時間、先輩にメッセージ送るのを忘れてしまった。
 忘れたというより、忘れたフリをした。
(最低なのは、僕の方……)
 休み時間ごとに連絡するなんて言っておいて。
 授業が終わったと同時に、SHRになる。
「今週金曜から、部活が再開されます」
 聞いてなかった。朝にはそんなお知らせなかったじゃないか。
 でも、教室の中は湧き立った。みんな、授業と寮の行き来は相当ストレスだったらしい。
「旧校舎の立ち入りは今まで通り許可しますが、くれぐれも標本にならないようご注意を。では解散」
 松前先生はそれだけ言って終わりにした。
 僕も帰ろうか。いや、天文部部室に行ったら何かあるだろうか。羽室に声をかけようとした直前、松前先生に呼ばれた。