カイナのことは、ミカにしか見抜けない

らわくわくしたけど、ちっとも楽しくなかった。
 お父さんは僕に、いろんなことを教えた。
 学校で習ったこともないことだった。
 生き物を従わせる魔法って言ってた』
 僕の目が、その一文に止まる。
 魔法? 日記の持ち主も魔法を認識しているのか。
『今日もお父さんと一緒に、学校へ行った。お休みの日の学校って、先生も生徒もあんまりいなくて、変な感じ。
 今日は電柱に止まった雀を従わせた。でも、途中でうまくいかなくて逃げられてしまった。
 お父さん*********』
 文字の上に、がりがりと鉛筆で塗りつぶされて読み取れない。次のページをめくるが、ここから先は真っ黒に塗られて判読不可能だ。
 もしかしたら、次のノートもそうなのかもしれない。二冊目のページに入ろうとしたけど、その上に乗せた写真に自然と手が動いた。
 写真立てのネジを外す。写真を抜き取って、裏側を確認してみた。

『お父さんと。
 竹岡翼』

「――たけおか、つばさ?」
 僕は、ふとその名前を口にした。その瞬間、喉に温い液体が流れ込んできたかのような、気持ち悪さを覚えた。吐き気はないが、竹岡翼という名前を声に出すと、体の中で妙な拒否反応が出る。冷や汗が出たり、意味もなく指先が震えたり。
 何より、ノートも写真の調査をする気力が無くなる。二冊目のノートに伸ばした手が、鉛のように重かった。
 僕は体中にまとわりつく異様な空気を洗い流したくて仕方がない。部屋のシャワーで、皮膚が赤くなるほどに体を洗った。
 髪を乾かすのもおっくうで、先輩の方のベッドへ転がる。
(竹岡翼……それが、蜘蛛の顔の少年の名前……?)
 その考えをより深く巡らせる気力もなく、ベッドに横になった瞬間僕は泥のように眠った。