カイナのことは、ミカにしか見抜けない

 冷たい飲み物、ゼリー、アイス、プリン……とりあえず、弱っていても食べられそうなものをチョイスした。先輩の好みも聞かずに買ったのはよくなかったかもと部屋のドアを開けた瞬間、ちょっと自分の行いを反省した。
 先輩はまだ眠っている。濡れたタオルが温んでいたので取り替える。開かずの間で得た写真とノートは机の上に置いておく。
 静かに寝息を立てている彼を、僕は静かに見下ろしていた。王子様のような完璧な三峰先輩でも、僕にしか見せない最低の魔法使いでもない。
 ただ、体調を崩しているだけの、16歳の少年にしか見えなかった。
 コップに冷たい水を注いで、熱冷ましの薬を薬箱から取り出すと、先輩が目を開けた。不機嫌に眉をひそめている。
「……僕から、離れたな」
「すみません。食べ物と飲み物買ってきたんで……」
「まあ、いい……」
「起きれそうですか? 薬飲みましょう」
 薬を飲ませて、とりあえずゼリーを食べてもらって、ポカリを飲んでもらって先輩は割と落ち着いたようだった。
「きみがここまで運んでくれたのか。……迷惑をかけた」
「いえ……平気です。それより体調大丈夫ですか。急に鼻血出して……お医者さんに行った方が良いんじゃないですか」
「不要だ。魔法の同時並行多用による一時的な魔力摩耗というだけだから、寝ていれば治る」
「じゃあ、数日はお休みしてなきゃ」
「だめだ。重要な手がかりを得たんだ、さらに調査を進めなければ……」
「それはおれがやります」
 僕は無理やり、先輩を押し戻した。
「だから、先輩は熱が下がるまでお休みしててください。学校で噂のこととか、蜘蛛の顔の少年のこととか、ちゃんと調べてきます」
「きみに任せきりでは……きみが、また考えなしのことをする……」
 どれだけ僕は信用がないのだろう。気持ちはわかるけど。
 でも、熱があるのにこの人を無理させるわけにはいかない。そして、ノートと写真の他にも情報はないか調べなければならない。
「……じゃあ、授業の休み時間に連絡します。さすがにスマホくらい持ってますよね」
 僕のスマホには、ちゃんと三峰先輩の連絡先が入ってる。先輩はかすかにうなずいた。
「あまり、使ったことはない、けど……」
「既読スルーで良いです。返信とかはしなくて良いんで、連絡が来たら、おれはちゃんとやってるって安心にもなると思うし」
 なるべく優しく、僕は先輩に諭した。先輩は不安げだったけど、僕が試しに送ったテストメッセージを見て「わかった」と言ってくれた。
「先輩、寝てください。まだ夕方ですけど、具合が悪い時は寝ないと」
「……ん」
 先輩は部屋のバスルームでシャワーを浴びた。多めに買っておいたポカリを飲んでプリンも食べてもらった。
 薬を飲んでもう寝ててとお願いしたが、先輩は「最後にひとつだけ」と言って洗面所の鏡の前にたつ。
「あなたはだあれ?
 わたしはミツミネカイ」
 僕はふと、朝のことを思い出した。
 朝と寝る前、僕はその言葉を聞いた。
 先輩が、静かにベッドにもぐりこむ。
「……先輩、それ、何かのおまじない?」
 先輩は目を閉じる。
「死なないための、問いかけ」
「え……?」
「朝と夜、一日二回。必ず鏡に問いかけて、鏡に答えなければならないんだ。
 問いかけて、答えることができないと、僕は死ぬから」
「それってどういう……」
 三峰先輩からは、静かな寝息が返ってきた。