カイナのことは、ミカにしか見抜けない

 三峰先輩を背負って、部屋に戻った。鼻血を出して意識も失った先輩は、岩のように重たかった。
 開かずの間で手に入れた写真とノートも一緒だ。これらを調べる必要はある。
 でも、今は先輩の手当て……看病? どちらでもいいけど、とにかく先輩が先だ。
 部屋に戻るころには、先輩の鼻血は止まっていた。濡らしたタオルで血まみれの顔を拭う。
 ちょっとためらったけど、シャツのボタンとズボンのベルトを少し緩め、僕のベッドに寝かせた。二段ベッドの上に運ぶのは、さすがにきつい。
 額に触れてみたら、焼けるように熱い。タオルを冷たい水で絞って、先輩の額にぺたりと置く。
 先輩の顔は少し苦しそうで、荒れた呼吸も熱を帯びている。風邪を引いたときのような症状だ。
「せんぱい……」
 冷蔵庫を開いてみたが、ものの見事にからっぽだ。病人用の食事を用意しないといけない。
「先輩、ちょっと売店に行ってきます」
 そう言って立ち上がると、僕の手を熱い何かがつかみ取った。くるりと振り向くと、冷えたタオルのズレた三峰先輩が、僕の手を弱々しく掴んでいた。
「い、くな……」
「先輩?」
「いかないで、ここに、いて……」
 お香の焦げた匂いが漂う。顔の輪郭がぼんやりして、先輩だったり羽室だったり夏菜姉ちゃんだったり、いろんな人の顔に切り替わる。でも、中身が三峰先輩だと僕にはわかる。
 こういうとき、どうすればいい? それを、僕は夏菜姉ちゃんに教わっていた。
「大丈夫。少し寝てて、先輩」
「どこにも、いかない……?」
「先輩が寝るまで、ここにいます」
 安心したのか、先輩は瞼を下ろした。静かな寝息がやがて聞こえてくる。
 僕を捕まえていた、弱々しい手が、するりと落ちる。
 その手をベッドに戻し、僕は静かに売店へと駆けた。