放課後のチャイムが鳴った。数分もすると、部屋の前の廊下が、帰宅した生徒たちの声と足音でにぎやかになる。
午後の授業の時間をたっぷり使ったからか、先輩の調子はもとに戻った。迷子の子どもみたいな幼い顔は、みじんも現れない。
名残惜しそうに僕から離れるとすぐに部屋の扉を開く。僕は慌ててついていく。
放課後の解放感を楽しむ生徒たちの笑い声が、今は薄ら寒く聞こえた。
先輩は僕にだけ聞こえるように、歩きながら告げる。
「旧校舎の鍵を取りに行く。きみは職員室前で待っているように」
会話ではなく、一方的な命令だ。僕の体はぎくしゃく動く。先輩の言う通り、職員室の前で止まった。
三峰先輩はというと、三歩も歩くと学年主任の堂上先生に変身した。すらっとした先輩の背中が、大きくたくましくなる。本物の先生は、今はいない。体育館の掃除をしているのだとか。
「お疲れさまです」
僕はわざと開いた職員室の戸から、堂上先生に変身した三峰先輩を見守っていた。太ましい声も、キビキビしたしぐさも、堂上先生そのものだ。流れる動作で堂上先生の机に向かい、鍵つきの引き出しを開く。
「堂上先生? 旧校舎いくんですか?」
僕も先輩もどきっとした。向かいの席の先生から話しかけられてしまった。別に悪いことはしてない――いやしてるけど、怪しまれているような感じがして心臓がどくどくする。
「見回りですよ。あそこは古い建物ですから、生徒たちがケガをする可能性もあるんで」
「そうですか……いえ、少し熱心になったなあって」
「俺だって生徒思いになることはありますよ」
と、先輩は先生らしく笑ってごまかした。授業はおもしろい、しかし生徒とは必ず一線を敷く。必要以上の仕事はしないタイプの先生だから、明日の授業の準備よりも優先するなんて、他の先生からしたら不思議に感じるのかもしれない。
「あれ? 浪川君と一緒ですか?」
またドキッとするようなことを聞かれる。
「旧校舎の立ち入り制限エリアで生徒が遊んでいると、浪川から報告があったんでね。案内を頼んだんですよ」
(この人、とっさの嘘が上手いな……)
「二人とも、標本にならないように気をつけてね〜」
先生も先生で、物騒なことをいう。
午後の授業の時間をたっぷり使ったからか、先輩の調子はもとに戻った。迷子の子どもみたいな幼い顔は、みじんも現れない。
名残惜しそうに僕から離れるとすぐに部屋の扉を開く。僕は慌ててついていく。
放課後の解放感を楽しむ生徒たちの笑い声が、今は薄ら寒く聞こえた。
先輩は僕にだけ聞こえるように、歩きながら告げる。
「旧校舎の鍵を取りに行く。きみは職員室前で待っているように」
会話ではなく、一方的な命令だ。僕の体はぎくしゃく動く。先輩の言う通り、職員室の前で止まった。
三峰先輩はというと、三歩も歩くと学年主任の堂上先生に変身した。すらっとした先輩の背中が、大きくたくましくなる。本物の先生は、今はいない。体育館の掃除をしているのだとか。
「お疲れさまです」
僕はわざと開いた職員室の戸から、堂上先生に変身した三峰先輩を見守っていた。太ましい声も、キビキビしたしぐさも、堂上先生そのものだ。流れる動作で堂上先生の机に向かい、鍵つきの引き出しを開く。
「堂上先生? 旧校舎いくんですか?」
僕も先輩もどきっとした。向かいの席の先生から話しかけられてしまった。別に悪いことはしてない――いやしてるけど、怪しまれているような感じがして心臓がどくどくする。
「見回りですよ。あそこは古い建物ですから、生徒たちがケガをする可能性もあるんで」
「そうですか……いえ、少し熱心になったなあって」
「俺だって生徒思いになることはありますよ」
と、先輩は先生らしく笑ってごまかした。授業はおもしろい、しかし生徒とは必ず一線を敷く。必要以上の仕事はしないタイプの先生だから、明日の授業の準備よりも優先するなんて、他の先生からしたら不思議に感じるのかもしれない。
「あれ? 浪川君と一緒ですか?」
またドキッとするようなことを聞かれる。
「旧校舎の立ち入り制限エリアで生徒が遊んでいると、浪川から報告があったんでね。案内を頼んだんですよ」
(この人、とっさの嘘が上手いな……)
「二人とも、標本にならないように気をつけてね〜」
先生も先生で、物騒なことをいう。
