「ふむ……テストの解答用紙に、蜘蛛の顔の少年か」
「……やっぱり、変ですよね。おれがおかしいんでしょうか。あの顔、おれだけじゃなくてクラスの全員が見てた。なのに当たり前のように受け入れてる……おかしいと思うおれがおかしいのかな……」
「いや、きみは正常だ」
うつむいていた僕は、ぱっと思案顔の先輩へと視線を上げる。
意外だ。てっきり、「災難だったな」くらいのひと言で片づけられるかと思ってたのに。
「というのも、僕の教室も自習だった。先生から小テストを渡されてね。きみの話したこととまったく同じ現象が発生したんだ」
「……え?」
先輩の顔はいたってまじめだ。
「急に自習になったというので、臨時的に小テストを配布された。回答しようとすると、知らない人間の顔が浮かび上がって、話しかけてきた。『あなたはだあれ?』と」
「その顔って……」
僕が言い終える前に、先輩はするりと変身した。制服はそのままだけど、顔は僕の目撃した【蜘蛛の顔の少年】そのものだ。飛び上がりそうになるのを必死でこらえた。
先輩はすぐに元に戻る。先輩が魔法を使うと、お香が焦げつくような匂いが広がる。その匂いが、前よりも独特で、強い。
「きみの反応を見るに、僕ときみの見た顔は蜘蛛の少年のようだな」
「でも、どうしてこんなことが……これは先輩が仕組んだことじゃないですよね」
「むろんだ。僕は関与していない」
先輩は、かぶせ気味に否定した。足を組みなおして、腕を組む。
「あれは幻術魔法の一種なのだろうが、やり方が稚拙に過ぎる。まるで自分の力を誇示しているようにもうかがえる。大きな理由もなく魔法を多くの人間に見せびらかすのは恥ずべき行為だ。白銀の蝶と蜘蛛の噂にかかわる者の企みだろうが、美しくない。あんなものと一緒くたにされるのは我慢がならない。魔法使いの名誉を地獄に返上して欲しい」
先輩は早口でまくし立てた。そして青紫の目で、僕を強く睨む。
三峰先輩の誇りを傷つけてしまったのだろうか。魔法使いの価値観はわからない。
「なんか、その……すみません」
「別に」
という割に、どうしてこの人は僕をベッドに押し戻すのだろう。いつの間にか勉強椅子から僕の方へと迫って、初めて僕が部屋に入った時と同じことが起こっている。
「……あの、先輩?」
「なあに?」
彼は微笑みかけているが、それは王子様みたいな完璧な微笑じゃない。
僕にしか見せない、意地悪で、妖しい微笑みだ。
そして、こういう顔をするときは、ろくなことを考えていないのだ。
「……やっぱり、変ですよね。おれがおかしいんでしょうか。あの顔、おれだけじゃなくてクラスの全員が見てた。なのに当たり前のように受け入れてる……おかしいと思うおれがおかしいのかな……」
「いや、きみは正常だ」
うつむいていた僕は、ぱっと思案顔の先輩へと視線を上げる。
意外だ。てっきり、「災難だったな」くらいのひと言で片づけられるかと思ってたのに。
「というのも、僕の教室も自習だった。先生から小テストを渡されてね。きみの話したこととまったく同じ現象が発生したんだ」
「……え?」
先輩の顔はいたってまじめだ。
「急に自習になったというので、臨時的に小テストを配布された。回答しようとすると、知らない人間の顔が浮かび上がって、話しかけてきた。『あなたはだあれ?』と」
「その顔って……」
僕が言い終える前に、先輩はするりと変身した。制服はそのままだけど、顔は僕の目撃した【蜘蛛の顔の少年】そのものだ。飛び上がりそうになるのを必死でこらえた。
先輩はすぐに元に戻る。先輩が魔法を使うと、お香が焦げつくような匂いが広がる。その匂いが、前よりも独特で、強い。
「きみの反応を見るに、僕ときみの見た顔は蜘蛛の少年のようだな」
「でも、どうしてこんなことが……これは先輩が仕組んだことじゃないですよね」
「むろんだ。僕は関与していない」
先輩は、かぶせ気味に否定した。足を組みなおして、腕を組む。
「あれは幻術魔法の一種なのだろうが、やり方が稚拙に過ぎる。まるで自分の力を誇示しているようにもうかがえる。大きな理由もなく魔法を多くの人間に見せびらかすのは恥ずべき行為だ。白銀の蝶と蜘蛛の噂にかかわる者の企みだろうが、美しくない。あんなものと一緒くたにされるのは我慢がならない。魔法使いの名誉を地獄に返上して欲しい」
先輩は早口でまくし立てた。そして青紫の目で、僕を強く睨む。
三峰先輩の誇りを傷つけてしまったのだろうか。魔法使いの価値観はわからない。
「なんか、その……すみません」
「別に」
という割に、どうしてこの人は僕をベッドに押し戻すのだろう。いつの間にか勉強椅子から僕の方へと迫って、初めて僕が部屋に入った時と同じことが起こっている。
「……あの、先輩?」
「なあに?」
彼は微笑みかけているが、それは王子様みたいな完璧な微笑じゃない。
僕にしか見せない、意地悪で、妖しい微笑みだ。
そして、こういう顔をするときは、ろくなことを考えていないのだ。
