僕はゆっくりと振り向いた。そこには、王子様みたいな完璧なスマイルの三峰先輩が立っている。やあ、とでも言いたげに手を振る姿もいちいち絵になるのが癪に障る。
「……何の用ですか、先輩」
「これを」
言うと、三峰先輩は僕の右手を取って、手のひらの上に冷たい小銭のいくつかを無造作に落とした。こぼれて床に落ちたらどうすんだ。
何のつもりだろう? と首をかしげる僕をよそに、先輩は自販機を指さした。
「青葉君と同じものを買いなさい」
「……は?」
「彼と同じものを買って、彼にしたときと同じように、僕にも差し出すんだ」
「何ですか、パシりですか」
「そんな低俗なものではない。きみに、何かを贈られる対象でありたいだけだ。あれはそういう儀式なのだろう?」
何言ってんだこの人。
体の中の魔力とやらは、何も悪さをしてこない。絶対的な命令とは違うようだけど、先輩がどうしてそんなことを言い出したのかはわからなかった。
僕は疑問を消せないまま、コーヒー牛乳のボタンを押した。落ちてきたコーヒー牛乳を先輩に渡すと、三峰先輩がわずかに頬を緩めた。
王子様スマイルしてる彼が、宝物をもらったかのように、本当に嬉しそうに微笑みを歪めている……ように思える。
嬉しいという表情を学習しないまま大きくなったんじゃないだろうか。それでいて、嬉しいと感じる心は確かにありそうな、危なっかしさも見える。
「よくできました」
「もう良いですか……」
売店に行こうと思って、ふと足が止まる。
「先輩、この後少し時間あります?」
「構わないけれど、何か進展でも?」
僕は頷いた。さっきの授業を思い出すと、また寒気がしてくる。記憶のなかに閉じ込めてしまいたいけど、そんなこともできない。
先輩は僕の顔色を一瞥すると、僕を寮へと連れて行った。昼休みは三十分もあるけど、授業はまだ残っている。
だが、先輩は僕の疑問には答えず、まっすぐ部屋へと向かったのだった。先輩の足取りは心なしか速くて、小走りでついて行かないと置いていかれそうだ。
すれ違う生徒たちの笑い声がやけに耳に貼りつく。僕の目撃した恐ろしいモノは、彼らにとっては日常で、おかしいと思っている僕の方がおかしい。この世界では。
ベッドに浅く腰かけた僕に向かい合うように、先輩は勉強椅子に優雅に座る。
さっきの授業で起こったことを、僕は吐き出すように話した。あんなの、一人で抱え込むには恐ろしすぎる。
話せる相手が三峰先輩しかいないというのも複雑な気分だけど、それでも心の内にとどめていると、確実に心を腐らせる。
「……何の用ですか、先輩」
「これを」
言うと、三峰先輩は僕の右手を取って、手のひらの上に冷たい小銭のいくつかを無造作に落とした。こぼれて床に落ちたらどうすんだ。
何のつもりだろう? と首をかしげる僕をよそに、先輩は自販機を指さした。
「青葉君と同じものを買いなさい」
「……は?」
「彼と同じものを買って、彼にしたときと同じように、僕にも差し出すんだ」
「何ですか、パシりですか」
「そんな低俗なものではない。きみに、何かを贈られる対象でありたいだけだ。あれはそういう儀式なのだろう?」
何言ってんだこの人。
体の中の魔力とやらは、何も悪さをしてこない。絶対的な命令とは違うようだけど、先輩がどうしてそんなことを言い出したのかはわからなかった。
僕は疑問を消せないまま、コーヒー牛乳のボタンを押した。落ちてきたコーヒー牛乳を先輩に渡すと、三峰先輩がわずかに頬を緩めた。
王子様スマイルしてる彼が、宝物をもらったかのように、本当に嬉しそうに微笑みを歪めている……ように思える。
嬉しいという表情を学習しないまま大きくなったんじゃないだろうか。それでいて、嬉しいと感じる心は確かにありそうな、危なっかしさも見える。
「よくできました」
「もう良いですか……」
売店に行こうと思って、ふと足が止まる。
「先輩、この後少し時間あります?」
「構わないけれど、何か進展でも?」
僕は頷いた。さっきの授業を思い出すと、また寒気がしてくる。記憶のなかに閉じ込めてしまいたいけど、そんなこともできない。
先輩は僕の顔色を一瞥すると、僕を寮へと連れて行った。昼休みは三十分もあるけど、授業はまだ残っている。
だが、先輩は僕の疑問には答えず、まっすぐ部屋へと向かったのだった。先輩の足取りは心なしか速くて、小走りでついて行かないと置いていかれそうだ。
すれ違う生徒たちの笑い声がやけに耳に貼りつく。僕の目撃した恐ろしいモノは、彼らにとっては日常で、おかしいと思っている僕の方がおかしい。この世界では。
ベッドに浅く腰かけた僕に向かい合うように、先輩は勉強椅子に優雅に座る。
さっきの授業で起こったことを、僕は吐き出すように話した。あんなの、一人で抱え込むには恐ろしすぎる。
話せる相手が三峰先輩しかいないというのも複雑な気分だけど、それでも心の内にとどめていると、確実に心を腐らせる。
