カイナのことは、ミカにしか見抜けない

「とっておきの部屋って……最後に入ったのいつだっけ」
 次の日、僕は休み時間に青葉に聞いてみた。昇降口前の自販機で買ったりんごジュースをすすりながら、青葉はけらけら笑って教えてくれた。
「なーに言ってんの。四月の終わりくらいから五月はじめくらいに行ったじゃん。ちゃんと覚えとけよ~」
 僕が極端に忘れっぽい性格であるということで、青葉の中では完結しているらしい。
 教室では、現実を知っているはずの僕が異物扱いになってて胸が押しつぶされる気持ちになるが、事態の解決のために耐えた。
「居眠りした僕を寝かせてくれてた【その人】、名前は? 青葉は思い出せないの?」
「そうなんだよ。ここまで出かかってるんだけどな~」
 喉につかえているみたいに、青葉は首に触れる。名前を思い出せないのは青葉だけじゃないようで、羽室もほかのみんなも同じだった。
 ――名前も思い出せないのに、記憶だけは確かに根付いてるって変じゃない?
 という、ごもっともな疑問がせりあがってきたが飲み込んだ。
「お前もとっておきの部屋行きたいん?」
「いや……行けば思い出せるかなって」
 僕は彼らの存在しない記憶に、付き合うことにした。下手に否定し続けて教室から孤立してしまうだろうし、そしたら情報収集もままならなくなるだろう。うわさの黒幕がクラスメートの中にいた場合は怪しまれるに違いないし。
 とっておきの部屋というのは、青葉たちにとってどんな位置づけにされているのだろう?
「行っても意味ないぞ。あそこ鍵かかってるし」
「え? なんで?」
 僕は訊ねる。
「センセが急に立ち入り禁止にしたんだよ。旧校舎だからなのかねえ」
 旧校舎は老朽化が激しいから、立ち入りを制限するのはとくに不思議なことじゃない。
 でも、旧校舎自体は入れる。数日前に入った音楽室に鍵はかかっていなかった。
 ということは、ピンポイントで【とっておきの部屋】には入れたくないのだろう。
「青葉、鍵って誰が持ってるの?」
「俺もそこまではしらね。でも、たぶん学年主任の堂上(ドウジョウ)先生じゃね?」
 堂上先生は国語担当で、一年生の学年主任も兼ねている四十代のおじさんだ。ほどよい低音ボイスで教科書を読むものだから、彼の授業は常に眠い。たたき起こされたのは一回や二回じゃない。……これも、僕の本当の記憶だよな?
「授業を始める」
 休み時間の終わる一分前、松前(マツマエ)先生が入ってきた。僕は痕場との会話を切り上げ、慌てて教科書を取り出す。
 そしてふと、気がついた。
(次って、世界史じゃなかったっけ?)
「皆、席につきなさい。この時間は自習です」
「せんせー、津摘(ツヅミ)せんせーはー?」
 女子の間延びした質問だ。時間割を確認してみたが、やっぱり世界史で間違いなかった。
 僕のふとした疑問を、松前先生ははっきりと解消してくれた。悪い方に。
「津摘先生は標本になった」