カイナのことは、ミカにしか見抜けない

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 ショートホームルームの時間から、すでに「コト」は始まっていた。
「えー、皆さんにお知らせです。このクラスの青葉君が標本になりました」
 教科書を机に押し込んで、流し聞きに徹していた僕の意識が、強制的に先生の方へと向いた。青葉が……なんだって?
「先週の土曜、部活で備品を取りに行った途中で白い蝶を目撃し、ちょうど昨日の夕方に標本となったそうです」
 くたくたの白衣を正しもせず、先生は淡々と話す。白い蝶に標本……。さっき、昇降口で聞いたばかりのうわさと一致する。
「えー、マジ?」
「うちの学年から出たか~」
 まるで、授業中に当てられたくらいの気軽さだ。誰もこの奇妙さを疑っていない。
 標本になるなんて、そんなのただの噂でしかなかったじゃないか。だというのに、よりにもよって先生が噂を当たり前のように言うなんて何かがおかしい。
「せ、先生……」
「どうしました、浪川君」
 僕は、静まりかえる教室で勇気を出して手を挙げた。
「青葉が標本になったって……本当なんですか? 事故とか、怪我とかじゃなくて……」
「信じられないでしょうが、事実です。彼の、顔を失った標本を教員数名で確認しました」
「でも……そんな……」
「クラスメートが標本となることに、ショックを受けるのは当然です。しかし、起こったことは覆しようがありません。皆さんも、くれぐれもご注意を。では、授業の準備に入ってください」
 先生は他の連絡を回して、教室を一旦出ていった。
 青葉とは入学してすぐ、初めてできた友達だった。グループ学習とか、昼休みにちょっとした話をするとか、遊びに行くとか、確かな交流はあった。
 斜め前の席――青葉の席がぽっかり空いて、僕の視界が恐ろしく開けている。
 あのあとも授業は淡々と続き、昼休みも終わり、帰りのホームルームも終わり、掃除も終わる。噂通りのことが実際に起きているのなら、それは噂じゃない。事件だ。
 だというのに、生徒は誰も怖がっていないし、先生たちも警察に相談するということをしない。
 おかしい。何かがおかしい。
 そう直感した時、僕のうなじがざわざわした。