カイナのことは、ミカにしか見抜けない

 昼明けの授業は自習。古市先生に変身した三峰先輩の指示通りになった。本物の古市先生は、社会科準備室にこもって資料作りに没頭しているようだ。
 僕らは自習、先生は授業がないという認識が張り巡らされているらしい。変身しながら学校全体に魔法をかけるというのは、むずかしいのか、それとも先輩にとっては簡単なのか。
 クラスメートたちはわいわい騒ぐ。勉強する生徒もいればご近所同士で雑談したり、それぞれの時間を楽しんでいる。
「自習なんだってな、ラッキー」
 青葉はにまっと笑って僕の方へ体を向ける。
「青葉……自習時間なんだから勉強しないとだよ」
 僕は優等生ぶって見せるが、自分に課せられた命令を忘れてはいない。青葉を始めクラスメートから聞き込みをしなければならない。
 いきなり本題に入っては怪しまれるだろうし、焦らず会話を続けていこう。授業の時間はたっぷりあるんだ。
「浪川は今さら勉強しなくても良い点取れるじゃん」
「日頃のコツコツした勉強が、良い点の秘訣なの。こういう時は絶好の時間なんだって」
「ふーん? でも日本史って退屈だよな。覚えることは多いし、昔の出来事ってわかりにくいし」
「まあ、気持ちはわかるけどね。でも古市先生の授業って楽しいじゃん」
「たしかに」
 青葉はノートを僕の机に置いた。向かい合って勉強する気だなこいつ。
「優等生の浪川君、赤点ギリの俺にどうぞお慈悲を」
「日本史なんて、教科書読んで流れ理解するだけでしょ」
「っかー、これだから優等生は。それができりゃ苦労しないんですけど~?」
 青葉との会話は、すらすらつなげられる。本題を切り出したくてうずうずするけど、タイミングが来るまで待たなければ。
「はあーうらやましいよ。出身中学が違うとここまで差ぁつくのかな」
「机に突っ伏しないで。ほら、どこがわかんないの?」
「わかんないとこがわかんない」
「あのなあ……」
 青葉の怠惰っぷりが逆にすがすがしい。机に頭をくっつけて、うだうだしているかと思ったら、急にぱっと顔を上げた。
「勉強で思い出したんだけどさ」
「いきなりどうした」
「”前”のテストん時さ、俺めっちゃ良い点取れたんだよな」
「へえ……やったじゃん」
 僕はノートをつつくペンを止める。
「テスト勉強しようって、”あいつ”が誘ってくれてさ」
「あいつって?」
「あいつ……やべ、名前思い出せない。まああいつだよあいつ! あの辺に座ってた」
 青葉の示す指先は、丁度まんなかくらいの席。そこにはちゃんと生徒が座っているし、もちろん【あいつ】ではない。
「いやそれより、とっておきの部屋で、あいつに勉強みてもらってさ。ニガテな国語も八十点取れたんだよ」
「……」
 僕は青葉の話を、注意深く聞いていた。
 前のテストって、いつのことだろうと考えながら。
 今は六月だから、直近のテストは五月の中間考査だ。そのとき僕は、部活も休みに入って、図書室の自習部屋を使って司書の先生に怒られるまで引きこもっていた。
「……へえ、とっておきの部屋か。秘密基地みたいでいいね」
 と、僕が適当に相づちを打つと、青葉がきょとんとした。
「何言ってんだよ。お前も一緒だったじゃん」