カイナのことは、ミカにしか見抜けない

「……あ!」
 僕はたまらず叫んだ。蜘蛛の巣の上につかまっている男子生徒の顔を確かに見た。
「青葉!!」
 今朝、先生から標本にされたと聞かされていた青葉が、ここにいた。青葉は目を閉じ、ぐったりとしていて動かない。
 そして少年の顔を持つ蜘蛛が、鋭い脚を動かした。蜘蛛の目指す獲物は、青葉のほうに向けられている。
 助けなきゃ! 青葉が顔と記憶を奪われてしまう。
「青葉……っ!!」
 青葉のもとへ駆け寄ろうとした時、僕の足がぎしりと動かなくなった。鉛のように重く、床に根っこを張ってるみたいに動かない。
 そのまま膝からくずおれて、助けに行くどころではなくなった。
「じっとしていろ」
 三峰先輩の、冷たい声だ。彼の声を聞いた途端、僕の足がさらに重たくなる。助けようと心が動くと、胸と首が締めつけられるように苦しい。体のなかに入り込んだ三峰先輩の魔力が、全身にうごめいて命令を聞かせている。
「せんぱ……」
「あの巨大な蜘蛛、【食事】をしていふときは無防備になるようだ。青葉鷹斗(たかと)の記憶を吸っている時を狙って撃てばいい」
「青葉を……見捨てる、んですか……!」
「きみの友人には悪いことをしたのだろうが、そうでもしないとこの怪物には勝てそうもない。
 きみも余計なことをするな。考えなしに突っ走って、貴重な【目】を損ねられたら困る」
 先輩は右手を蜘蛛の方へかざし、そのまま動かない。彼の手のひらには青い光が仄明るく照っていた。魔法なのだろうが、僕にはよくわからない。
 いや、それよりも。
 青葉を助けなきゃ。
 このままじゃ、青葉は記憶を吸われて顔を奪われてしまう。その後の末路は、蜘蛛の餌だ。生きたまま食いちぎられて死ぬのを待つなんて、考えただけで手が震える。
 必死に足を動かそうとしても、びくともしない。三峰先輩の命令に従う他ないのだろうか?
 そして、僕には何の策もない。考えなしに突っ走っても、青葉を助けられるわけじゃない。
 僕は無力だ。三峰先輩みたいに魔法を使えないし、腕っぷしだって強くない。
 でも、それでも……。
「だからって……だからって!」
「……?」
 僕の手のなかに、冷たい金属の感触。手をひらけば、黒猫のキーホルダーのついた、部屋の鍵だ。
 指でつまむ部分を逆手に握りしめる。魔法で動けない体なら、目を覚ましてやればいい!
「おれと仲良くしてくれた初めての友達が危ない目に遭って!
 黙って見ているわけにはいかないんだよ!!」
 僕は左手のひらに、鍵を思い切り突き刺した。