カイナのことは、ミカにしか見抜けない

「ねえねえ、聞いた? 旧校舎のこと……」
「あ、あー。また出たんだってね、蜘蛛の巣……」
「何だっけ、旧校舎三階で見かけるやつ?」
「そうそう。白い蝶が現れるって話」
「その蝶を見てしまった生徒はさ、一週間以内に、顔を奪われちゃうの。顔だけ」
「へえ~」
「そんでさ、顔はきれいに取られて、あとの体は蜘蛛の巣でできた標本に閉じ込められちゃうの」
「蝶なのに蜘蛛なんだよね〜。どっちかはっきりしろってのに」
「次は誰が捕まるんだろうね?」

 昇降口で上履きに履き替えている間、僕――浪川愁(なみかわしゅう)は、同級生の女子生徒たちが他愛なく話している噂というやつを耳にした。
 学校敷地内の隅っこに追いやられたかのような位置にある旧校舎には、あるひとつの噂がある。
 旧校舎三階に行くと、白銀の蝶がときどき飛んでいるらしい。その蝶を見た者は例外なく、一週間以内に【蜘蛛】に捕まる。
 捕まった者は顔を奪われる。らしい。
 いろいろと突っ込みたいところはあるが、真実性は高い。なぜなら、興味本位で旧校舎に肝試しに行って、実際に白い蝶を見たという生徒が行方不明になっているからだ。
「……変な話」
 僕はというと、その怖い噂を聞き流して教室へ向かうだけ。怖いことは怖いが、現実感がわかなくてどこか遠い国の話に感じる。実害は出ているらしいが、白い蝶を見たというのも本人からの証言でしかないし、行方不明になったのも事実というだけで、本当に蜘蛛の巣標本になってるかは誰も見ていない。
 教科書とノートに満ちてずっしりした通学用カバンを肩に掛け直す。一年教室の三階へ向かうべく階段に足を踏み出した瞬間。
 横に、白銀の何かが、ふわっと通り過ぎた。
 僕はぎくっとして視線を追わせた。蝶ではない。人間だった。
 ふわふわの、銀色に透き通った髪の男子生徒が、一階の二年教室へと入っていった。
 なんだか、花の蜜のような甘い匂いと、蝶のぱたぱたする羽ばたきの音を感じた。
「……銀髪?」
 見たことのない人だった。この学校は一学年一クラスしかない。クラスは多くて二十人くらいだし、目立つ生徒はすぐに知れ渡る。
 転校生かな? その時はそう思って、あまり気にせず教室へと向かった。