崖っぷち王国の大躍進!~末っ子王子はチートスキル『素材合成(マテリアマージ)』で大空を制覇する~

 怪訝そうな顔のシエナにお礼を言って、壊れた各パーツを手に取ってじっくりと観察する。
 どれも砕けたり裂けたりしているとはいえ、魔力を帯びているのが僕にもわかる、良質な素材だ。
「術者の魔力を宝石に集めて、思い通りに調節して魔法を放てるようにするのが、ロッドや魔法杖の役目よ。単純に力を増幅するのではなく、調節できるのが大事なの」
 母さんが、そっとアドバイスをくれる。
 僕の素材合成は、どんなものを作りたいかのイメージが大切だ。それをわかった上でのアドバイスはすごく助かる。
 ちらりとシエナに視線を移す。シエナの魔力を、できるだけ伝えやすい形にしたい。
 炎魔法が得意と言っていたっけ。頭の中で、炎の源となる魔力が、魔法金属を伝って赤い宝石に集まるところを想像する。集中して、小さく息を吸った。
 右手の人差し指をすっと前に出して、素材合成を発動する。くるりと囲んだロッドのパーツが魔法陣に吸い込まれると、シエナや侍女、護衛の騎士たちから驚きの声があがる。
 魔法陣が輝き、カチカチと癖になる音がして光が強くなる。
スキルの発動が終わり、テーブルの上に一本のロッドがことりと落ちる。先端には、砕けたはずの赤い宝石がきらきらと輝き、なめらかな曲線を描く魔法金属部分も、爪で裂かれた跡はなくなっている。
「よかった、上手くいきました。部屋の中で使える魔法があれば、試してみていただけますか?」
 ロッドを両手で持って、恭しく差し出す。
「あれ? ええと、シエナ姫?」
 しばらくしても反応がないので、おそるおそる顔を上げる。
 シエナは、引き攣った笑顔のまま、固まっていた。侍女も、護衛の騎士たちも同じ表情だ。
「あの、念のため、ちゃんとできているかどうか確かめてみていただけませんか? もしかして、デザインとか少し変えてしまったかもしれないので、お気に召しませんでしたか?」
 返答はなく、部屋の中がしんと静まりかえる。 
「ごめんなさい、驚きすぎてしまって……そうだわ、確認ですわよね。ええもちろん、確認させていただきますとも」
 しばらくしてから、ようやくぎくしゃくと動き出したシエナが、ロッドを手に取ってさらに表情を変える。
「すごい……宝石も完全に元通りですし、前よりさらに手に馴染む感じがしますわ」
 これならきっと、と呟いて、ぶつぶつと詠唱を始める。表情は真剣そのもので、一流の魔法使いの風格を感じさせた。
「素晴らしいわ。こんなことができるなんて。私、感動いたしましたわ、レガロ様」
 勢いで、ぎゅっと手を取られる。
「次のフェスタに向けて準備をされているとおっしゃっていたのは、レガロ様のお力なのですね? 私、とっても楽しみにしておりますわ」
「レガロはさすがに、フェスタにはまだ……」
「どんな素敵な商品にお目にかかれるのでしょう? そうだわ、ステラロード王国のために、とびきり上質な魔法金属を用意しておくよう、お父様にも伝えておきますわね? レガロ様と……いえ、イグナイト王国とステラロード王国が力をあわせれば、きっと素敵なことが起こりますわ」
 僕の手を離してくるりと一回転してみせたシエナは、ロッドを抱きしめて恍惚とした表情だ。
 侍女も護衛の騎士も、それを諫めるどころか、「こんなこともできるのでは? いえ、あんなことも?」とシエナを煽りに煽っている。
「おほほほほ、何を隠そう、レガロこそがステラロード王国の隠し玉ですのよ。どうかこの場で見聞きしたことは、内密にしていただけますか? 次のフェスタまで秘密にしておきたいのです」
 母さん、それ、初耳です。
 最初は止めに入ろうとしていた母さんも、イグナイト王国とステラロード王国の協業の話まで飛び出してしまっては、流れに身を任せるしかなかったらしい。
 イグナイト王国一行を見送った頃には、僕と母さんはくったりとして、ほとんど気力が残っていなかった。
「ヴィクター、ごめんなさい。次のフェスタにはレガロを連れていくことになったわ」
「どうしたんだ、ラシェル。あんなに反対していたじゃないか」
「ええ、そうね。レガロには早すぎると今でも思っているわ。信じてくださる?」
 光が消えた目つきのまま、母さんの口が綺麗な弧を描く。
 フェスタの話を聞いたのは、今日が初めてだ。母さんとしては僕を連れていくつもりはなくて、あえて黙っていたのだろう。
 それが、成り行きとはいえ連れていく流れになってしまったのだから、とんでもない葛藤が渦巻いているに違いない。
 何かを察した父さんは「もちろん信じるさ、当たり前だろう?」と苦笑いで返すのが精一杯だ。
「こうしてはいられないわ。レガロ、行くわよ?」
「ど、どこに?」
 うふふ、と肩で笑って、母さんが幽鬼のようにふらりと歩き出す。
「イグナイト王国の皆様を納得させられる商品を、一緒に考えるのよ。期限は半年弱……面白くなってきたわね、そうでしょう?」

 シエナを見送って十日後、シルヴァ兄と視察した橋へ、今日はマグナ兄と一緒にやってきた。
 シルヴァ兄の視察結果を受けて、優先度が高いと判断された橋を修理するのか、それとも架けなおすのかを判断するためだ。
 フェスタに向けた商品を考えるのが最優先事項ではあるけど、国内をほったらかしにもできない。素材合成で役に立てるかもしれないと思って、マグナ兄に同行の許可をもらったのだ。
「こりゃあ、架けなおした方が早そうだな」
 難しそうな顔で腕組みをして、マグナ兄がため息をつく。
「修理するのは大変そう? この橋は壊しちゃうの?」
「そうだな。ロープも板も随分古くなってる。どっちにしてもほとんど作り直しになるなら、壊して架けなおした方が早いってとこだな」
 橋の真ん中あたり、マグナ兄が指をさした辺りの木の板が欠けているのが見えた。
 誰かが踏み抜いて、危うく落ちかけたことで使用禁止にしたのだろう。ある意味、ちょうどいい。
「壊しちゃうなら、スキルを試してみてもいい?」
「おお? 構わないが、どうするんだ?」
「分解して、そのまま合成できたらいいのかなって思って」
「落ちないように気を付けろよ」
 当然ながら、橋のまわりの断崖絶壁に柵はない。
 崖の近くは風も強いし、今の僕は身体も軽いので、本当に気を付けないと。
「じゃあ……いくよ」
 橋に手を触れた瞬間、ぱあんと小気味よい音を立てて、橋がバラバラになる。
「分解した素材を、そのまま使って……と」
 円を描いた指先から橋サイズの大きな魔法陣が現れ、バラバラになった素材を吸い込んで、新しい橋を合成した。この十日間で、一番最近架けなおされた最新の橋をチェックしておいたので、形はそれに合わせてある。
 落下していく素材を囲んだので、魔法陣は高さ的に崖の真ん中あたりにあって、そこに最新仕様の橋がどどんと出力されて浮いている形だ。
「おお、やるな。そのまま上げてくれ」
「うん……あれ?」
 僕が思い描いたイメージでは、ソルを助けた時に蛇を閉じ込めた檻のように、最新仕様の橋を組み立てながら崖の上まで持ってくるつもりだった。
 それなのに、あれよあれよという間に組みあがった橋は、完成した時点でその動きを止めた。
 そこから、ありえない勢いで魔力が吸われて、あっという間に維持できなくなってしまった。
「ううう……もう……限界」
 浮力を失った橋は、まっさかさまに崖下に落ちていき、ばらばらに砕け散った。
「おお、こいつはまた派手にやったな」
「ごめんなさい。ただ橋を落としただけになっちゃった……崖の下、大丈夫だったかな」
「大丈夫だろ。使用禁止にした橋の下は釣りだとかも禁止にしてる。にしてもどうした、珍しく当てが外れたみたいだな」
 僕はだいぶ冷たい汗をかいたのに、マグナ兄は嬉しそうだ。
「合成した橋を、動かせなかったんだ」
「なるほどな。それ、ちょっとこっちでやってみないか?」
 マグナ兄に促されて、いったん崖から離れる。
 例によって、手渡されたのはマグナ兄が持っていた手斧だ。
「地面に置いたこいつを分解して、俺の手の中に収まるように合成してみろよ」
「わかった……やってみる」
 手斧に触れて分解し、すぐさま素材合成を発動する。
 パーツ毎に分解した素材を魔法陣からそのまま出力し、マグナ兄の手元に持っていきながら、完成させるイメージで動かす。
「おお、いけたな。じゃあ次だ」
 合成し直した手斧をもう一度僕に渡して、マグナ兄が僕からさらに距離を取る。
「……ダメ、かも」
 同じイメージで素材合成してみたものの、手斧はマグナ兄の手元に届く前に完成して、ごとりと地面に落ちた。
「わかったろ? 射程距離っつうか有効範囲っつうか、そういうのも含めて自分のスキルをよく学ぶといい」
 ショックだった。
 分解も合成も、それなりに使いこなせてきたつもりになっていた。それなのに実際は、この体たらくだ。
 マグナ兄の、よく学べという言葉が身に染みる。
「それじゃあ行くか」
「えっと、どこに?」
 思考が追いつかなくて、ぼんやり聞き返してしまう。
「この橋、作り直してくれるんだろ?」
「そのつもりだったけど、でも……落としちゃったし」
「だからだ。ちょうど、木材を切り出して間引いておかないとまずい森がある。素材は潤沢にあるわけだ。人はまあ、適当に声かけりゃ集まるだろ」
 何を言っているのかわからず、きょとんとした僕の頭を、マグナ兄がわしわしと撫でる。
「まさか、諦めてないだろうな?」
「いや、えっと」
「レガロ、お前のスキルには有効範囲があった。それだけだろ?」
 そうだ。僕のスキルでは、合成中の素材をある程度は動かせても、完成品は動かせない。橋の形を作れても、設置できないのでは意味がない。
「レガロが色々考えて、なんとか役に立とうとしてくれてんのは、みんなわかってる。ひとりで抱えなくていいんだ」
「マグナ兄……」
「古い橋を解体して、新しいヤツを作れる。じゃあ後はそいつを、どうやってうまいこと架ければいいかって話だろ? それとも、俺たちはそんなに頼りないか?」
 ぶんぶんと首を横に振る。
 そんなわけない。こんなに頼もしい言葉はない。
 前世では、生活も仕事もほとんどひとりで完結させていた。そのせいで、誰かに手伝ってもらう選択肢が消えてしまっていた。
いつの間にか僕は、ひとりでなんでもしなくてはいけない気になっていたみたいだ。
「親父たちをびっくりさせてやろうぜ」
 楽しそうに笑うマグナ兄を見て、僕も自然と口角が緩む。全身が温かくなる気持ちだった。