崖っぷち王国の大躍進!~末っ子王子はチートスキル『素材合成(マテリアマージ)』で大空を制覇する~

「元の斧がこれ。レガロが合成してみせたのがこいつだ。父さん、どうするよ?」
 マグナスが持ってきた小ぶりな手斧に、驚きを隠せない。
 手に取ってみれば、レガロでも扱えそうな華奢なサイズながら、しっかりした作りだ。
 刃先はまるでついさっき研いできたかのようにしっかりしているし、斧頭と柄のぐらつきもない。
「切れ味は俺が保証する。なんなら、元のヤツより鋭いくらいだ」
 マグナスが、難しい顔で腕組みをしたまま俺の質問に先回りして答える。
「レガロの様子はどう?」
 ラシェルが心配そうにする。
この間の、誕生日パーティーを思い出しているのだろう。あれは確かに肝が冷えた。
 レガロが使った二種類のスキルは、極めて異質だ。
 三歳のあの子が、ドラゴンの仕掛け箱の構造を理解していたとは思えない。
 にもかかわらず、大人が舌を巻く精度で仕掛け箱を分解してみせた。
 そのうえ、見たことのない魔法陣を構築し、指先ひとつで元通りに直してみせたのだ。
 俺以上の剛腕を振るうマグナスにも、シルヴァンの魔法の才にも驚かされたものだが、今回の衝撃はそれ以上だ。
「あの子の身体にかかる負荷を考えれば、完全に使用を禁止すべきか?」
 そもそも、三歳でスキルを発動するなど前代未聞だ。
 ラシェルが言わんとしていたことを、かわりに口にした。
「魔力の制御、今はもうできてると思うよ? 最初みたいに倒れちゃうことはないんじゃない?」
 シルヴァンが肩をすくめる。使用禁止はないんじゃないの、とでも言いたげだ。
「一時期は悩んでいたようだが、少しアドバイスしただけでスキルのなんたるかも理解してみせた。あれだけの才能があるんだ。禁止にするのはどうかと、俺は思うね」
 マグナスがにやりと笑い、はっきりと口にした。
 弟の成長を喜ぶ一方で、あのスキルに対する単純な好奇心も垣間見える。
「私は反対。魔力が制御できている。スキルを理解している。そう見えるだけで、負担がかかっていないとは言い切れないのでしょう?」
 ラシェルが涙目で訴える。
「しかもあの子、スキルを覚えてから少し変わったと思うの。妙に大人びた感じがしない?」
「わかる、急にしっかりしゃべるようになったよね。とても三歳とは思えないくらいに」
 お前もな。十歳のシルヴァンがわけ知り顔で肩をすくめてみせるものだから、危うく口角が上がりかける。いかん、ラシェルの手前、ここは絶対に笑ってはいけない場面だ。
 スキルを覚えた影響で、知能や身体能力が上がるなんてのはよくある話だ。
 個人的にそっちは心配していない。俺はどちらかと言えば、マグナスとシルヴァンに賛成だった。
 ラシェルに正面から視線を合わせる。
「押さえつけたところで、隠れてもっと危険を冒すだけかもしれん」
「ヴィクター、そんな言い方しないでくださいな。あの子はそんな子じゃありません」
「いいや、なんつっても俺たちの子だからな。現に今も、自分の部屋で色々やってるだろ? 毎日見慣れないもんが増えたり減ったりしてるとメイドから報告があったぞ。それをあの子が俺たちに話しているかといえば、ノーだよな」
「それは……でも……」
「あの子を信じて、成長を見守る方がいいと思う。それとも、完全に禁止せにゃならんほど、レガロを信頼できないか?」
「そんなことはありません。私はただ、心配なのです」
「だからこそだ。三歳にしてはまあまあやるがまだまだだぞって、言ってやろうじゃないか。無理せずしっかり努力して、スキルを扱えるようにする方向に、俺たちが導いてやらなくてどうする」
 考えてみれば、あの子が生まれたばかりの頃から、あの子の身の回りのものはよく壊れていた。
 そういうこともあるか、とあまり気にしてこなかったが、素材分解のスキルを制御できていなかったのだと考えれば納得がいく。
 不完全とはいえ、生まれたばかりですでに無自覚にスキルを使っていたのだとしたら?
 しかも、スキルを自覚したその日に複雑な仕掛け箱を分解して直してみせたり、短期間で斧を別の形に作り変えてみせたり、とんでもない速度で成長を続けているのだ。
 才能は伸ばしたいが、暴走は防ぎたい。当然ながら慢心もさせたくない。
 ラシェルも、マグナスも、シルヴァンも、誰の言うことも正しいし尊重したい。難しいが、すべてバランスよくやる必要がある。
「スキルを使用禁止にはしない。しないが、あの子を特別扱いもしない。これは以前決めた通り、基本的には今後も徹底してほしい」
 これは、レガロがスキルを発動して倒れたあの日に、みんなで話し合って決めたことだ。
「それなら任せて。ちょっと前に聞かれた時も、三歳でスキルを覚えるのはそんなに珍しくないって答えておいたよ」
「俺も大丈夫だ。あいつがこの手斧を合成してみせた時、なんでもないような顔であしらってやったからな。俺の弟なら、これくらい当然だってな」
 上出来だ、とシルヴァンとマグナスに笑みを返す。
「ラシェル、頼む」
 まだ沈んだ表情をしているラシェルの肩に、そっと手をやった。
「……わかったわ」
 しばらくの間、うつむいて考えていたラシェルが、顔をあげる。
「私だって、あの子の成長は嬉しいもの。ただし、レガロが体調を崩したりだとか、異変があればすぐ止めさせますからね」
 俺はマグナスとシルヴァンと顔を見合わせて、大きく頷く。
「大丈夫だよ、母さん。魔力の扱いは、母さんからしっかり教えてもらっているからね。レガロが二度と魔力切れで倒れないように、僕がしっかり教えるよ」
 シルヴァンがやわらかく微笑み、簡易詠唱で風の魔法を発動させてみせる。
 シルヴァンの魔法の才は、ラシェルを凌ぐだろうと言われている。簡易詠唱なんてものは、俺やラシェルの代にはなかった代物だ。
 ラシェルから教えを受けて独自に進化を続けるシルヴァンが、それをレガロに受け継ぐ。いい流れじゃないか。
「頼んだぞ、シルヴァン」
 嬉しくなって、自然と口元が緩んだ。
「魔力切れなんぞに負けないよう、体力も必要だよな。俺が、レガロを立派な戦士としても通用するように鍛えてみせるさ」
 マグナスと、拳の先をコツンとぶつけて、にやりと笑った。
 魔力切れと体力は正直関係ないが、それをここで指摘するのは野暮というものだ。
「マグナスもよろしく頼む。魔力の制御も戦士としての力も身につければ、怖い物なしだな」
 誰に似たのか、やや強引なところはあるが、マグナスはこう見えて努力家だ。
しっかり着実に、地に足をつけた訓練をしてくれるだろう。
「すまないな。俺もラシェルも、もう少しお前たちとの時間を持ちたいと思ってはいるんだが……・苦労をかけてばかりだ」
「ステラロードが世界から孤立しないように、手を尽くしてくれてるんだろ? わかってるって」
 マグナスが胸を張り、シルヴァンや同席していた重臣たちも力強い首肯を返してくれる。
 頼もしい家族と仲間に囲まれ、胸が熱くなった。
 状況は苦しくとも、きっとなんとかしてみせようという気概が湧いてくるじゃないか。
「それでこそステラロードの民だ。皆、頼んだぞ」
 崩壊を目論む涙腺を黙らせるために、俺は大きく口を開けて豪快に笑ってみせた。