誕生日パーティーの後、僕はどうやら丸一日眠り続けていたらしい。
目が覚めたのが明け方だったのに、マグナ兄もシルヴァ兄もそばについてくれていて、朝早くから大騒ぎになってしまった。
結論から言えば、昨日のあれは魔力切れに近い症状なのでは、という話だった。
自身に宿る魔力の許容量を超えて魔法を使うと、全身が虚脱感に襲われる。虚脱感を無視してさらに魔法を使ってしまうと、意識を保っていられなくなる。まさしく、あの時の僕の状態そのままだ。
僕の認識では、素材合成はスキルのはずだ。とはいえ、指先で描く円は光り輝いて、魔法陣まで浮かんでいたから、スキルと言いつつ魔法に近いものなのかもしれない。
「おもちゃも直ったし、レガロも無事だった。それで十分だろ」
「あんまり無茶したらダメだからね」
目を覚ましたその場こそ大騒ぎになったものの、その後のみんなの反応はあっさりしたものだった。
シルヴァ兄が、僕が直したドラゴンの仕掛け箱を手渡してくれ、マグナ兄には軽くデコピンはされたものの、表情は怒っていなかった。
父さんは通常運転で仕事に忙しそうだったし、母さんも「よかった、起きたのね」とほっとした様子でハグはしてくれたものの、スキルについて根掘り葉掘り聞いてきたりはしなかった。
念のため何日か安静にするように言われたので、今日は外出禁止だ。
自室の窓からは、昨日と同じく水平線が広がっている。よく晴れた空に水面がきらきらと輝いて、海鳥が舞っているのが見えた。
これだけのいいお天気で外に出られないのは残念だけど、昨日の今日だし仕方ない。
「ねえシルヴァ兄、スキルってみんな持ってるものなのかな?」
自分の予定を変更して、お目付役を買って出てくれたシルヴァ兄に聞いてみる。
「そうだね。スキルか魔法か、どちらかは持っている人が多いんじゃない?」
「そっか。一回使っただけで倒れちゃうのって、普通なの?」
シルヴァ兄が、顎に手をあてて考える。
考えるというか、言葉を選んでいるように見える。やっぱり、残念なスキルなんだろうな。
壊れたものを直せるとはいえ、何もないところから何かを作れるわけではなく、素材がなければ何もできない。
ついでに、ふとした拍子に完成品をバラバラにしてしまう、素材分解スキルのオプション付きだ。
しかも、スキルを使うたびに意識を飛ばして倒れてしまうのでは、使い勝手が悪すぎる。
「レガロの場合は、少しだけスキルを覚えるのが早かったから、練習が必要なんじゃない?」
「練習?」
「そう。一般的には、スキルや魔法は七歳になったくらいで覚える人が多いんだ。ああ、三歳でもまあそんなに珍しくはないけどね。大人になってからいきなり覚えることもあるし」
本当は三歳プラス二十数年だから、だいぶ遅い方かも。
などと言えるわけがないので、神妙に頷いておく。
「七歳くらいが多いのは理由があってね。それくらいの歳で、スキルや魔法を使っても魔力切れを起こさないくらいの魔力が宿ると言われてるからなんだ。レガロはまだ、スキルを思いっきり使う魔力が身体に宿っていないから、倒れちゃったんだと思うよ。だから、調節して使えるように今のうちから練習するんだよ」
スキルも魔法も、どっちも魔力を使うんだね。
シルヴァ兄の説明を聞きながら、自分の中で認識を改める。
スキル用の力、魔法用の力と分かれているより、シンプルでわかりやすい。
「じゃあ、使うたびに倒れちゃうスキルじゃないの?」
「負荷の高いスキルや魔法でそういう話を聞かないわけじゃないけど、大丈夫
じゃないかな」
「どうして大丈夫ってわかるの?」
「マグナ兄が言ってたでしょ? レガロはそんなに弱くないって」
途中までは希望が持てそうな話だったのに、最後は根性論だった。
あからさまにがっかりした僕に、「大丈夫だってば」とシルヴァ兄が苦笑いする。
前世の記憶を思い出して、心が急成長したことで、スキルを直感的に理解できた。実際にスキルを使って、おもちゃだって直せた。ただし、身体は三歳なので魔力量が足りていなかった。好意的に解釈するならそういう話だ。
反対に最悪のケースを考えるなら、そもそも負荷が高いスキルだった場合だ。一回使うたびに倒れてしまう超高負荷なスキルである可能性も、まだ捨てきれない。どうか前者でありますように。
「大丈夫になるように頑張ってみる。魔力を調節する練習って、どうすればいいの?」
せっかくだ。風魔法の使い手であるシルヴァ兄に、練習方法を聞いておこう。
調節しても倒れてしまうのか、そうでないのかは早めに知っておきたい。
「それじゃあ先に質問させてね。レガロはスキルを使った時、どんな感じだった? 感覚っていうか。例えば、身体が熱くなるとか、反対に寒くなったとか」
「ふわふわして身体が熱くなる感じは、確かにあったかも」
安心感のあるやわらかな笑顔で、シルヴァ兄がうんうんと頷く。
「身体が熱くなって、なんだか気持ちいい感じ?」
「そうそう、そういう感じ」
「それ、ダメ」
さっきまで素敵な笑顔で話を聞いてくれていたシルヴァ兄が、これでもかというわざとらしい苦い顔を作って、両手でバツを作った。
思わず、うえ、と変な声が出てしまう。
「ダメなの?」
「ダメです」
被せ気味の即答だった。
ふんす、とシルヴァ兄が鼻息をわざと大きく吐き出して、ぎゅっと腕組みをする。
「その感覚って、魔力を制御しきれてない証拠なんだよね。そういう風にならずにスキルを使えるようになること。まずはこれだね」
「……そうならないためには、どうしたらいいの?」
「ちょっと見ててごらん」
そう言うとシルヴァ兄は、右手をかざしてぶつぶつと何かを唱え始める。
わあ、詠唱だ。僕はそれを、完全に前世の映画かアニメの感覚で眺めていた。
僕の視線に気づいて、なんだか誇らしそうにしたシルヴァ兄が、少しだけ声量を上げてくれる。
もしかしてシルヴァ兄、意外とノセられやすいタイプなのでは?
「はい、この通り。本来は強い風を起こす魔法だよ」
さらりさらりと、シルヴァ兄の手のひらからそよ風が吹いてきて、頬を撫でた。
室内で魔法を使うシチュエーションがどれくらいあるかはわからないけど、部屋の中で突風が吹き荒れたら困るのは間違いない。確かにこれは、しっかりと制御されている感じがするね。
「すごいね。えっと、それで、どうやったらそういう風にできるの?」
「もう一回見せた方がいいかな?」
「うん……?」
「魔法を使う時には魔力を溜めるでしょ? 僕はスキルは持ってないけど、多分この感じは同じだと思うんだ。ファッとして、ギュッとなりそうなところを、スッとやってあげるわけ」
今度はシルヴァ兄の左手から吹いてきた風が、そよそよと髪を揺らす。
「ね?」
シルヴァ兄が満面の笑みで、ことりと首を傾げてみせる。
オーケー。このお兄ちゃん、人に教えるのには向かない感覚派だ。
「ワカッタ……アリガト」
名プレイヤー、名監督ならず。
僕はどうにか、発声を拒否しようとする口から、前向きな単語を片言で送り出した。
「それはよかった。練習しすぎて、倒れないように気を付けるんだよ」
「うん、ありがとう」
お礼を言って、ちょっとトイレに行ってくる、と席を立ったシルヴァ兄を見送る。
完全にひとりになったところで、僕はがっくりと肩を落とした。
目が覚めたのが明け方だったのに、マグナ兄もシルヴァ兄もそばについてくれていて、朝早くから大騒ぎになってしまった。
結論から言えば、昨日のあれは魔力切れに近い症状なのでは、という話だった。
自身に宿る魔力の許容量を超えて魔法を使うと、全身が虚脱感に襲われる。虚脱感を無視してさらに魔法を使ってしまうと、意識を保っていられなくなる。まさしく、あの時の僕の状態そのままだ。
僕の認識では、素材合成はスキルのはずだ。とはいえ、指先で描く円は光り輝いて、魔法陣まで浮かんでいたから、スキルと言いつつ魔法に近いものなのかもしれない。
「おもちゃも直ったし、レガロも無事だった。それで十分だろ」
「あんまり無茶したらダメだからね」
目を覚ましたその場こそ大騒ぎになったものの、その後のみんなの反応はあっさりしたものだった。
シルヴァ兄が、僕が直したドラゴンの仕掛け箱を手渡してくれ、マグナ兄には軽くデコピンはされたものの、表情は怒っていなかった。
父さんは通常運転で仕事に忙しそうだったし、母さんも「よかった、起きたのね」とほっとした様子でハグはしてくれたものの、スキルについて根掘り葉掘り聞いてきたりはしなかった。
念のため何日か安静にするように言われたので、今日は外出禁止だ。
自室の窓からは、昨日と同じく水平線が広がっている。よく晴れた空に水面がきらきらと輝いて、海鳥が舞っているのが見えた。
これだけのいいお天気で外に出られないのは残念だけど、昨日の今日だし仕方ない。
「ねえシルヴァ兄、スキルってみんな持ってるものなのかな?」
自分の予定を変更して、お目付役を買って出てくれたシルヴァ兄に聞いてみる。
「そうだね。スキルか魔法か、どちらかは持っている人が多いんじゃない?」
「そっか。一回使っただけで倒れちゃうのって、普通なの?」
シルヴァ兄が、顎に手をあてて考える。
考えるというか、言葉を選んでいるように見える。やっぱり、残念なスキルなんだろうな。
壊れたものを直せるとはいえ、何もないところから何かを作れるわけではなく、素材がなければ何もできない。
ついでに、ふとした拍子に完成品をバラバラにしてしまう、素材分解スキルのオプション付きだ。
しかも、スキルを使うたびに意識を飛ばして倒れてしまうのでは、使い勝手が悪すぎる。
「レガロの場合は、少しだけスキルを覚えるのが早かったから、練習が必要なんじゃない?」
「練習?」
「そう。一般的には、スキルや魔法は七歳になったくらいで覚える人が多いんだ。ああ、三歳でもまあそんなに珍しくはないけどね。大人になってからいきなり覚えることもあるし」
本当は三歳プラス二十数年だから、だいぶ遅い方かも。
などと言えるわけがないので、神妙に頷いておく。
「七歳くらいが多いのは理由があってね。それくらいの歳で、スキルや魔法を使っても魔力切れを起こさないくらいの魔力が宿ると言われてるからなんだ。レガロはまだ、スキルを思いっきり使う魔力が身体に宿っていないから、倒れちゃったんだと思うよ。だから、調節して使えるように今のうちから練習するんだよ」
スキルも魔法も、どっちも魔力を使うんだね。
シルヴァ兄の説明を聞きながら、自分の中で認識を改める。
スキル用の力、魔法用の力と分かれているより、シンプルでわかりやすい。
「じゃあ、使うたびに倒れちゃうスキルじゃないの?」
「負荷の高いスキルや魔法でそういう話を聞かないわけじゃないけど、大丈夫
じゃないかな」
「どうして大丈夫ってわかるの?」
「マグナ兄が言ってたでしょ? レガロはそんなに弱くないって」
途中までは希望が持てそうな話だったのに、最後は根性論だった。
あからさまにがっかりした僕に、「大丈夫だってば」とシルヴァ兄が苦笑いする。
前世の記憶を思い出して、心が急成長したことで、スキルを直感的に理解できた。実際にスキルを使って、おもちゃだって直せた。ただし、身体は三歳なので魔力量が足りていなかった。好意的に解釈するならそういう話だ。
反対に最悪のケースを考えるなら、そもそも負荷が高いスキルだった場合だ。一回使うたびに倒れてしまう超高負荷なスキルである可能性も、まだ捨てきれない。どうか前者でありますように。
「大丈夫になるように頑張ってみる。魔力を調節する練習って、どうすればいいの?」
せっかくだ。風魔法の使い手であるシルヴァ兄に、練習方法を聞いておこう。
調節しても倒れてしまうのか、そうでないのかは早めに知っておきたい。
「それじゃあ先に質問させてね。レガロはスキルを使った時、どんな感じだった? 感覚っていうか。例えば、身体が熱くなるとか、反対に寒くなったとか」
「ふわふわして身体が熱くなる感じは、確かにあったかも」
安心感のあるやわらかな笑顔で、シルヴァ兄がうんうんと頷く。
「身体が熱くなって、なんだか気持ちいい感じ?」
「そうそう、そういう感じ」
「それ、ダメ」
さっきまで素敵な笑顔で話を聞いてくれていたシルヴァ兄が、これでもかというわざとらしい苦い顔を作って、両手でバツを作った。
思わず、うえ、と変な声が出てしまう。
「ダメなの?」
「ダメです」
被せ気味の即答だった。
ふんす、とシルヴァ兄が鼻息をわざと大きく吐き出して、ぎゅっと腕組みをする。
「その感覚って、魔力を制御しきれてない証拠なんだよね。そういう風にならずにスキルを使えるようになること。まずはこれだね」
「……そうならないためには、どうしたらいいの?」
「ちょっと見ててごらん」
そう言うとシルヴァ兄は、右手をかざしてぶつぶつと何かを唱え始める。
わあ、詠唱だ。僕はそれを、完全に前世の映画かアニメの感覚で眺めていた。
僕の視線に気づいて、なんだか誇らしそうにしたシルヴァ兄が、少しだけ声量を上げてくれる。
もしかしてシルヴァ兄、意外とノセられやすいタイプなのでは?
「はい、この通り。本来は強い風を起こす魔法だよ」
さらりさらりと、シルヴァ兄の手のひらからそよ風が吹いてきて、頬を撫でた。
室内で魔法を使うシチュエーションがどれくらいあるかはわからないけど、部屋の中で突風が吹き荒れたら困るのは間違いない。確かにこれは、しっかりと制御されている感じがするね。
「すごいね。えっと、それで、どうやったらそういう風にできるの?」
「もう一回見せた方がいいかな?」
「うん……?」
「魔法を使う時には魔力を溜めるでしょ? 僕はスキルは持ってないけど、多分この感じは同じだと思うんだ。ファッとして、ギュッとなりそうなところを、スッとやってあげるわけ」
今度はシルヴァ兄の左手から吹いてきた風が、そよそよと髪を揺らす。
「ね?」
シルヴァ兄が満面の笑みで、ことりと首を傾げてみせる。
オーケー。このお兄ちゃん、人に教えるのには向かない感覚派だ。
「ワカッタ……アリガト」
名プレイヤー、名監督ならず。
僕はどうにか、発声を拒否しようとする口から、前向きな単語を片言で送り出した。
「それはよかった。練習しすぎて、倒れないように気を付けるんだよ」
「うん、ありがとう」
お礼を言って、ちょっとトイレに行ってくる、と席を立ったシルヴァ兄を見送る。
完全にひとりになったところで、僕はがっくりと肩を落とした。



