崖っぷち王国の大躍進!~末っ子王子はチートスキル『素材合成(マテリアマージ)』で大空を制覇する~

「この辺りから、港まで一直線にストンって行けたらすごく楽だと思わない?」
 お昼ご飯を食べてマグナ兄と合流してから、僕たちは港を見下ろせる崖の上までやってきた。
 僕が考えたのは、断崖絶壁を一気に下りられる大型エレベーターだ。
 業務用というか、ある程度の荷を運べるくらいの広さがある大きなエレベーターを数基設置して、過酷な階段や坂を使わなくても荷物や人の移動ができるようにしたい。
 例え荷運びそのものが人力でも、動く歩道、エスカレーター、エレベーターと繋げられれば、負荷はだいぶ抑えられると思うのだ。
 そもそも港に大型船が入れないとか、ステラロードの品物がどれくらい海の向こうで売れるのかとか、まだまだ問題はたくさんある。
 それでも、僕が今ここにいてできることは、全部やっておきたかった。
 それが、前世の記憶を取り戻した僕にできる、新しい家族への恩返しのような気がしていた。
「おん? 一直線ってはどういうことだ? まさか例の、えすかれーたってヤツをここから港に伸ばそうってのか?」
 マグナ兄が、怪訝な顔をして顎に手をやった。シルヴァ兄も腕組みをして首を傾げているし、ふたりともピンときていないようだ。少しざっくり話しすぎたかもしれない。
「ここからまっすぐ、大きな箱を上下に移動させる仕組みを作ろうと思うんだ」
「どうやって?」
「わかんないけど、なんとなく」
 僕は、スキルで作るものすべての構造を完璧に把握することを、とっくに諦めていた。
 こういう風に動く、こういう感じのものを作りたい。
 そのイメージを詳細に思い浮かべれば、その通りのものができる。そう理解するしかない。
 動く歩道にしても、エスカレーターにしても、それらの動力として風を魔力に変換している風力発魔力にしても、完全に中身を理解できているわけではない。
 だから、どうやってと聞かれるのが一番困ってしまう。
 ただし、作ったものを素材分解すると、それらしいパーツに分解されるから不思議だ。
「どういうものを作りたいかはわかってるつもりだから、多分大丈夫だよ」
「ここから、下まで一直線にか?」
「大きな箱って何で作るの? 木とか?」
「そう、一直線に。材料は木か石か金属、どれにしようか迷ってるんだけど、どれがいいかな? 重いものを運べるようにしたいから、やっぱり金属かな。壊れにくいのがいいなとは思ってるんだよね」
「重いものってのはどれくらいだ?」
「船に荷物を運んだり、船から荷物を運んだりできたら便利かなって」
「積み荷を運ぶつもりか、なるほどな。悪いがこいつは許可できない」
「えええ、なんで!?」
 港までの直通エレベーター、上手くいったら絶対に便利なのに。
 マグナ兄もシルヴァ兄も、渋い顔で首を横に振るばかりだ。
「下を見てみろ。どれだけの高さがあると思ってる」
「大きな箱に重いものを入れて、一直線に上下させるなんて危なすぎるよ」
「絶対便利だし、映えると思うんだけどな」
「ばえ……なんだって?」
「想像してみて、マグナ兄。どっしりした金属の箱がぐうっと上下して、出入口はこう……両開きの扉になってるんだ。かっこよくない?」
 マグナ兄は「なるほど?」と呟いて、口元がゆるやかな弧を描きかける。
 僕の説明から何を想像してくれているかはわからない。わからないけど、効果ありだ。
「レガロ、ちゃんと必要かどうかで考えてって言ったよね? マグナ兄も、ちょっといいかもって顔しないでよ」
「お、おう。シルヴァンの言う通り、ダメだぞ」
 いけると思ったところで、シルヴァ兄から指摘が入る。
 この崖にエレベーターが並んでいたら、絶対にかっこいいと思うんだけどな。
 三人の中で一番大人なのは、もしかしてシルヴァ兄なのでは?
 実は僕と同じように、三十路手前の人とか入ってないよね?
「じゃあ別の、失敗しても迷惑がかからない場所にひとつ作って、それを見てもらうのはどう?」
 シルヴァ兄やマグナ兄が反対する理由は、なんとなく想像できる。
 崖の端に大きな空洞を作ることになるので、崩落でもしたら大変だ。
 それに、得体の知れない箱に重いものを入れて垂直に上下させて運ぶなんて、前世の記憶がなくて、なおかつスキルに確信がなければ僕だって反対する。
「やってみるのはいいことだな。ただし、レガロの身が危ないと思ったらすぐ中止だ」
「エアクッションの応用で、レガロを守る魔法をかけておくからね。その状態でスキル使うのは、大丈夫だよね?」
 ふたりの言葉を聞いて、僕は少し反省した。ふたりが一番に心配してくれていたのは、僕の安全だったのだ。エレベーターの機能ばかりをアピールしていた自分が恥ずかしい。
「ありがとう、怪我しないように気を付けて、できる限り頑張ってみる」
 港を見下ろす崖から移動した僕たちは、港からも町からも離れた崖にやってきた。
 港のところと同じくらいの高さだし、試してみるにはちょうどよさそうだ。
 断崖絶壁の端に立って、自分を中心にぐるりと地面を指先で囲む。
 出現した巨大な魔法陣が、掃除機のように岩をぐんぐん吸い込んで、エレベーターの箱以外の部分を四角く合成しながら下降していく。天井は開いている状態だ。
 素材の分解は、直接手を触れていなければできない。
 崖下まで一気に作りきるために、僕は巨大な魔法陣の上に乗っかって、右手で素材合成、左手で素材分解を発動し続けている。
 ふたつのスキルを同時に使うのも、ぶっつけ本番だった。エスカレーターや動く歩道とは、比べものにならない魔力がごんごん吸い取られていく。
「レガロ、本当に大丈夫か?」
「うん、なんとか大丈夫そう」
 上から降ってきた心配そうな声に、努めて明るい声で返事をした。
 崖下に辿り着いたところで、エレベーターが崖上に到着する部分を、空洞に蓋をするように合成してから外に出る。
 仕上げに、実際に上下する箱とワイヤー、エレベーターが動く動作をイメージして中身を合成した。
 ワイヤー部分の金属は、分解した岩から抽出できた金属から作ったものだ。
 ここにきて、色々なイメージやアイデアが沸いてきて、魔力切れの時とは違った高揚感があった。確実な成長を実感して、思わず笑みが漏れる。
「本当にできちゃった」
 扉の形に四角く切り取られた岩肌に、上向きの三角形のボタンがついている。
 わくわく半分、おそるおそる半分でボタンを押す。
 チン、と世界観にそぐわない電子音がして、扉が開いた。
「エレベーター……だね」
 そっと中に足を踏み入れる。
 数字の一と、屋上を表すRのボタンと、開け閉め用のボタンがある。イメージ通りだ。
 崖下から入って、反対側から出ていく形なので、扉とボタンは両側についている。
 天井にはしっかりと灯りもついていて、入ったら真っ暗なんてこともない。
 管理会社の連絡先だとかは書いていないけど、それ以外はどう見ても前世の日本で見かけたエレベーターだ。剣と魔法の異世界に、それも断崖絶壁をくりぬいたような形でエレベーターが鎮座ましましているのは、とてもシュールである。
崖の上ではエスカレーターや動く歩道がもりもり動いているのだし、今更か。
 Rを押す。扉が閉まり、浮遊感があった。
 もう一度、チン、と世界観にそぐわない電子音がして扉が開く。
「おう、レガロ……だよな?」
「マグナ兄、警戒しすぎだってば」
 当たり前ではあるのだけど、開いた扉の向こうにはふたりがいて、なんだか少し安心する。
 何度か試運転をやって問題ないことを確かめると、ふたりはエレベーターを認めてくれた。