崖っぷち王国の大躍進!~末っ子王子はチートスキル『素材合成(マテリアマージ)』で大空を制覇する~

 マグナ兄の指揮の元で進められた橋の修繕工事は、大詰めを迎えていた。
 必要な素材は森の整備と並行して集められ、橋を架けたい場所へ運び出してある。これは家臣や国民のみんなから有志を募集して、人手をかけて推し進めた。
 もちろん、きちんとした仕事として給金を出している。それ以上に、スキルと魔法で橋を架けるのだという話がみんなの関心を集めたこともある。
 おかげで、人手には苦労しなかった。こんな面白そうな話に乗り遅れてたまるか、と言わんばかりにたくさんの人が手をあげてくれたからだ。この国のみんなは、お祭り騒ぎが大好きらしい。
 橋を架ける場所の両岸には、風と土の魔法使い、それからもともと橋の工事に携わっていたメンバーがスタンバイしている。
「始めようか。なに、事前に詰めた通りに進めれば大丈夫だ」
 まずは、シルヴァ兄も含めた風魔法使いのみんなで、風のクッションを作ってもらう。
「この規模ならまあ、こんなもんか?」
「そうだね、これで足りると思う」
「いいだろ。シルヴァン、頼むぞ」
 シルヴァ兄たちの風魔法は、ある意味で今回の工事の要だ。
 新しい橋の素材を風のクッションに乗せて、橋を架けたい場所の、崖と崖の真ん中あたりまで運んでいく。僕の素材合成だけでは、橋自体は作れても、きちんとした場所に設置するのはまだ難しい。それはこないだ落としてしまった橋や、マグナ兄の手斧で検証済みだ。
 なるべく橋を架ける場所の近くで合成して、魔法や専門の技術を使って、しっかり設置する必要があるのだ。
 風のクッションに乗せられて、大量の素材が宙を舞う姿に、観客と化した国民のみんなは早くも大歓声である。
「エアクッションの魔法、すごいよね。素材を乗せてそのまま移動できちゃうなんて。僕たちが乗ったら、びゅーんって空を飛べるんじゃない?」
 空を飛ぶのはやっぱりロマンだよね。
 ちょっとしたジャンプくらいはできても、自由に空を飛ぶ魔法はないのだとシルヴァ兄に聞いてはいた。だけどもしかしたら、このエアクッションが使えるんじゃないかな。
 もしそうなら、森から素材を移動させるのに人手を使わなくてもいいかもしれない。
「レガロは面白いことを考えるね。でも残念ながら、ちょっと難しいかな。十人以上の風魔法使いが呼吸を合わせて、ようやくゆっくり運べるくらいだから。びゅーんと飛ぶのはね」
「そっかあ」
 そんなに上手くはいかないか。気を取り直して、マグナ兄の指示を待つ。
「向こうも準備できてるな。レガロ、やってくれ」
 橋の両側への魔法使いと技術者の配置を確かめたら、いよいよ僕の出番だ。
「いくよ……素材合成!」
 シルヴァ兄たちがエアクッションで浮かべてくれている素材が、巨大な魔法陣に吸い込まれる。
 あれからさらに練習して、最新仕様の橋は完璧にイメージできている。カチカチと、小気味よく何かが噛み合う音がして、魔法陣の光が強くなった。
 素材運びを手伝ってくれたみんなや、見物に来ていたみんなからさらに大きな歓声があがる。
「できた……お願いします」
 今度は、出力した橋を崖の上まで移動できた。両岸の魔法使いと技術者たちが、いっせいに橋の固定にかかる。
 ステラロード王国の各所に設置された橋は、両岸だけで固定するタイプの原始的なものが採用されている。どこも断崖絶壁で結構な高さがあるので、真ん中に支柱を立てるような構造は難しいからだ。
 強い地盤と、土魔法による補強がそれを可能にしているらしかった。みるみるうちに、橋を固定する両岸の土が光沢のある黒に染められていく。
「簡単にいうとあれは、土を固くする魔法だよ。専門知識のある技術者の指示通りに、魔法使いが橋を固定していくんだ」
 シルヴァ兄がそっと教えてくれる。外国の魔法技術がどれほどかはわからないけど、ステラロード王国の魔法も、僕からみれば十分にすごいと思う。
「ひとまず完成だな。確認はしっかり頼む」
 マグナ兄の言葉を受けて、風魔法使いと技術者が中心になって、橋の各所をじっくり観察して回る。
 最初は両岸からひとりずつが点検し、少しずつ人数を増やしていって、最終的には橋いっぱいに人が並んだ状態になった。
 両岸に集まった人々から拍手が巻き起こる。どうやら大丈夫そうだ。
 素材を移動する風魔法は抜きにして、低い場所で何度かリハーサルを重ねて臨んでいるとはいえ、やっぱり少しほっとした。
 ちゃんと役に立てたのだという安心感で、力が抜ける。
 座り込みそうになった僕の肩を、マグナ兄ががっしり掴んでにやりと笑った。
「まあまだまだのとこもあるが、ひとまずよくやった」
「そうだね。魔力操作もまだ詰められそうだけど、とりあえずはいい感じじゃないかな」
 シルヴァ兄もそばにやってきて、白い歯を見せた。
 本来なら、素材の調達、古い橋の解体、橋の組み立てそれぞれに結構な時間がかかる。
 橋を落としてしまったのは誤算だったとはいえ、素材分解と素材合成で各工程を大幅に短縮できた。
 個人的にはかなり頑張ったつもりなのだけど、兄たちに言わせればまだまだらしい。
 考えてみればそうだよね。手伝ってくれた家臣や国民のみんなが大袈裟に驚いてくれたのは、僕が王族だからだろう。それこそシエナのように、僕と変わらない年齢で長い航海を乗り越え、魔物と戦っているような子がいるのだ。
 これくらいで慢心していたら、マグナ兄やシルヴァ兄と肩を並べて活躍するなんて、夢のまた夢だ。
 試してみたいことはまだまだあるし、少しでもみんなに近づけるように頑張ろう。