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数日ぶりにやって来た早見くんの家はやっぱり立派だった。撮影部屋のローテーブルの上には、色とりどりのテイクアウトの箱と洒落たグラスに入ったジュースが並んでいる。
「そんじゃあ少し遅くなったけど──“NEON CHAOS”へようこそ、紡!!」
それこそ動画でしか見たことないような巨大クラッカーが、パンッと雰囲気に反して軽い音を立てて鳴った。反射的に両耳を塞いだ僕の元に、早見くんが駆け寄ってくる。
「紡くん、大丈夫?」
「僕は全然……ちょっとびっくりしただけ」
「花守……やり過ぎ」
「悪ぃ、初の専属スタイリスト誕生でテンション上がり過ぎたわ」
「ううんっ、歓迎してくれて嬉しいよ」
クラッカーを鳴らした花守くんへ首を振るついでに周りを見渡す。テーブルの端では、豊崎くんが人数分の小皿に料理を分けてくれていた。
「逆転勝利あると思わなかったわ。織からのLIME読んだとき叫んだもん俺」
「ほんとに折笠先輩が入ってくれて良かったです。これでファッション系の企画がバンバン出せます」
「うん。僕に出来ることはなんでもする」
一度断ったのに『やっぱりやらせてください』だと虫が良過ぎるかな?とも思ったけど、二人とも快く受け入れてくれた。その優しさにも精一杯応えていきたい。
「ファッションと言えば、新しいメインビジュアル出来たから見てくれよ!」
空のクラッカーを片付けてからぐいっ、と自分のスマホを差し出す花守くん。勢いに押されて受け取ると、某有名動画サイトにある彼らのチャンネルが映っている。
「わあ、さすがみんなかっこ良いね……!」
「嬉しいけどそこじゃねーよ!全員お前が組んでくれたコーデ着てんのっ」
「あっ、ほんとだ」
今の“NEON CHAOS”のトップページにはサイケデリックな世界観で妖しい表情を浮かべた三人の写真が表示されていて、その身に纏っているのはこの間僕が組んだリンクコーデだ。
「変えた瞬間SNSですげぇバズったんだからな!」
「“色違いのシャツでこんなに個性出てるのすごい!”、“小物までちゃんとリンクさせてるの天才”……とにかくコーディネートを褒める投稿が多かったです」
「さすが紡くん」
さっきまで向かいにいたはずの早見くんは、気づけばグラスごと僕の隣に移動してすっかり腰を落ち着けている。まるで自分が褒められたかのように大きく頷くのが気配で分かった。
──……みんなかっこいいのに、どうしても早見くんに目が行っちゃう……!
──真ん中で写ってるからかな。変に誤解されないうちにスマホ返さないと……。
「あ、ありがとう花守くん」
「ん?本題はここからだぞ」
「え?」
「次の企画のご案内です!!」
画面の中の早見くんから目が離せないままスマホを返そうとすると、何かの操作を終えた花守くんが不敵な笑みでもう一度渡してくる。
「“古着屋さんでネオカが一日バイトしてみた!”……古着?」
「あ」
画面を読み“古着”という単語に思わず反応した僕をよそに、思い出したような声を上げる早見くん。
「それ、俺が出した企画だ」
「早見くんが?」
「紡くんちのお店で買い物してから、古着が気になってて」
「そうなんだ、お父さんが聞いたら喜ぶよ」
「うん、喜んでた」
「……ん?」
何気ない会話だったけどスルーしたらいけない気がして、隣を見る。
「喜んでた……?」
「前に紡くんのお父さんと電話した時に言ったら、『古着屋やってて良かった!』って」
「電話した時に……!?」
「一日バイトの件もマネージャーと相談しに行ったらすぐ引き受けてくれて。素敵な人だよね」
「一日バイトの件も!?」
初耳の情報が多すぎて頭が付いて行かない。早見くんはいつの間に僕のお父さんと電話する仲になったのか。というか待って、一日バイトって、うちの店でやるの!?
「なんだよお前。珍しくアポ取り頑張ってると思ったらこの企画、紡のとこでやんの?」
「そう。『紡にはサプライズにしよう』って、お父さんから言われたから黙ってた」
「サプライズ計画出来るって結構な仲良しだな……」
早見くんと花守くんの会話がなぜか遠くに聞こえる。さっきから全然口を付けていないグラスから、ゆっくりと水滴が流れ落ちた。
「大丈夫ですか?折笠先輩」
料理の取り分けが終わったらしい豊崎くんが、ひと皿僕に寄越しながら言う。
「びっくりしましたよね。のんびりして見えて意外と外堀から埋めるタイプなんですよ、織先輩って」


