◇◇
帰る頃には、外は綺麗な夕焼け色に染まっていた。
「紡くん、送ってくよ」
「え。さすがに悪いよ」
「俺がそうしたいだけだから」
お邪魔しました、と玄関を出る僕に早見くんが付いてくる。結局断りきれず並んで歩くことになった。
住宅街は静かで、さっきまでの賑やかな空間が嘘みたいだ。残った花守くんと豊崎くんは今どんな話をしてるんだろう。
──気まずい……。
専属スタイリストの話を断ってしまった手前、僕から雑談を振って良いものか悩む。隣の早見くんの、見事なEラインを描く横顔からは何の感情も読み取れない。
「……紡くんって」
前に視線をやったまま、早見くんが口を開く。
「ほんとに服が好きなんだね。土曜日の時もだけど、さっきも楽しそうだった」
「やっぱり分かる……?」
「うん」
花守くんに『これでリンクコーデを組め!』と言われた時それはもうワクワクして、気づけば脳内で様々なパターンを作っていた。スタイリストの話を受けないのなら、その時点で断るべきだったんだろうけど。
「紡くんは、自分がセンス良いからってそうじゃない人を置いてけぼりにしない」
「……」
「誰が見てもこれは何ために、どんな意味を込めて選んだ服なのか分かる」
夕日を背にぽつぽつと語られるそれは、ぴくりとも動かない目尻に反してどこまでも優しい。
「だから俺たちのスタイリストになってほしかった。俺は気持ちを顔に出すのが苦手だから、服で表現する方法を教えてもらえればって」
「……僕なんかが恐れ多いよ」
そう、恐れ多い。
見た目も中身も至って普通な僕が、彼らの仲間入りをするだなんて。
「君たちのスタイリストにふさわしい人なら他にもたくさん──……」
「安心して、紡くん」
「え?」
「NEON CHAOSに君の“好き”を馬鹿にする奴はいない」
「……!」
初めて聞く断定的な口調に声が詰まった。こういう時真っ先に『顔とセンスが──』と脳裏を過ぎる“あの人”より一瞬前に、花守くんの感極まった顔が浮かぶ。
「俺が受け入れられてるんだから説得力あるでしょ?」
「そんなこと……」
「それでも嫌なら断って良いから、最後にもう一回だけ言わせて」
いつの間にか、早見くんがこちらを見ていた。
陽が沈むのと入れ違いに冷たい空気が撫でるのに、僕の頬はどんどん熱くなる。
「俺たちの専属スタイリストになってください」
断ったはずの誘いが、深いお辞儀と共にもう一度差し出された。
──僕が関わって良い世界じゃないって、今でも思う。
──だけど。
「本当に、僕で良いの?」
「俺は紡くんが良い。花守たちもそう言うと思う」
「動画映えするファッションとかイマイチ分かってないから、迷惑かけちゃうかも……」
「俺なんか分かってるのにあの様だよ」
「……ふふっ」
「やっと笑ってくれた」
頭を上げた早見くんがさらりと言うものだから我慢できずに小さく吹き出せば、穏やかな笑みが返ってくる。胸の奥で、心配や不安とは別の感情が膨らんでいく。
──やってみたい。
──この眩しい人がますます輝けるような、そんな服を探してみたい。
「えっと……よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
満足そうに頷く早見くんは自宅に引き続き僕が組んだコーディネートを着ており、抜き襟で羽織ったジャケットの隙間からはあの蛍光ピンクのカットソーが覗いている。この路線ならもう何パターンか組めそうだ、と頭の片隅で思った。


