◇◇
「俺は誤解していた。紡、お前のコーディネートは最高だ」
「ど、どうも……」
鏡で全身を確認した花守くんが、涙ながらに肩を組んでくる。
「いや、認めるの早過ぎません?」
呆れた様子でツッコミを入れつつ、花守くんの後ろから鏡を覗き込む豊崎くん。
「でも俺も同感です。折笠先輩ってすごいんですね」
満足そうな二人にほっと胸を撫で下ろす。
さっき突然ネオンカラーのカットソーを出されて『これでリンクコーデを組め』と言われた時は戸惑ったけど、クローゼットの中のアイテムを貸してもらったおかげで上手く出来た。
「だから言ったでしょ。紡くんは信用できるって」
僕の隣では土曜日ぶりに蛍光ピンクのソレを身に纏った早見くんがどこか誇らしげに頷いている。今回のコーデに使ったアイテムは全部彼の私物で、うちのお店で買っていったアイテムも丁寧に保管されていて感動した。
「付け襟とブルゾンでこんなに変わるんですね。すぐに真似出来そうなのも良いです」
「俺ってベレー帽似合うんだな。この後そっこーで買いに行くわ!」
バイト中にお客様に聞かれれば合わせ方のアドバイスをすることはあるけど、それでこんなに喜んでもらえるなんて。……『顔とセンスが合ってない』、『地味顔の分際で』。コーディネート中、そんな反応が一切なかったのもありがたかった。
──僕は人のコーディネートを考えるの“は”好きなんだ。
──思い出させてくれた早見くんに感謝しないと。
「……俺はてっきり」
「ん?」
と、それまで花守くんたちを眺めていた早見くんが徐に口を開く。
「他のトップスの下に重ねて襟だけ見せるとか……そういう風にするかと思った」
「差し色だね。確かにそういうやり方もあるけど……リンクコーデっていうお題だったし、どんなアイテムで揃えたか分かりやすい方が良いかなって」
相変わらず視線が合う気がする猫のプリントを見遣り、「それに」と続ける僕。
「あのカットソーを選んだ理由って、“NEON CHAOS”にぴったりだからでしょ?早見くんの気持ちがこもってるのに隠したらもったいないよ」
リンクコーデを組めと蛍光ブルーのそれを花守くんに付きつけられ、早見くんと色違いで──さらに豊崎くんがグリーンバージョンを持っていると聞いた時にピンときた。
“NEON CHAOS”。
動画配信者として活動する三人のグループ名。早見くんはこのカットソーたちを見つけた時、鮮烈な何かを感じ取ったんじゃないか。
「……」
「早見くん……?」
「……さすがだね」
不自然に空いた間に的外れなことを言ったのでは?と心配になった頃、柔らかな笑みがそんなことはないと教えてくれる。
「紡くんはいつも、気づいてほしいことに気づいてくれる」
「そんな……たまたまだよ」
「ううん。普段から周りを見てないと出来ないことだよ。俺はそんな紡くんのことが──」
「はいそこ、二人の世界に入らなーい!」
何か言いかけた早見くんを遮るように、花守くんが文字通り間に入ってくる。「そういうのはタイミング選んで言えよ!」と小声のツッコミが聞こえるけど……尋ねられる雰囲気じゃない。
「とにかく、これで紡の実力は分かった!俺たちは心の底からお前を歓迎するっ」
「え?……あっ」
歓迎ってなんのことだと一瞬考えて、すぐに思い出した。僕はこのNEON CHAOSの専属スタイリストにならないかと持ち掛けられ、正式採用のための試練にクリアしたらしい。
「折笠先輩のセンスがあればファッション系の企画はなんでも出来ますね。手始めに何かやります?」
「もう一回デートコーデしよ。紡くんの好きなタイプが知りたい」
「織は私情はさみすぎ!」
「あっ、あの!」
嬉々として話を進める三人に向かって大きく挙手をする。僕の性格上、すぐ言わないと永遠にタイミングを失ってしまう。
身体ごと向いてこちらに注目してくれた早見くんたちを前に大きく息を吸って、言った。
「せっかくのお誘いだけど……ごめんなさいっ。僕、君たちのスタイリストにはなれません!」


