君に思いを告げる服



◇◇


(つむぎ)くん、お菓子もっと食べる?」
「えっと、もう大丈夫……」
「欲しいのあったら遠慮なく言ってね。喉乾いてない?このジュースもおいしいよ」
「あ、ありがとう」

 目の前のテーブルに並ぶのは普段口にしないような高級なお菓子たち。僕が座るソファーのすぐ隣にいる早見くんはその真顔とは裏腹に、穏やかな声音で気遣ってくれている。
 ……正直言って大変な一日だった。
 クラスメイトで大人気動画配信者でもある早見くんに朝の教室でプロポーズまがいのことをされた僕はその後、囃し立てたり悲鳴を上げたりする周囲の誤解を解くのに苦労した。だけど努力も虚しく、今度は帰りのLHR(ロングホームルーム)が終わった瞬間に『大事な話があるから家に来てほしい』と誘われ今に至る。
 ──早くその場を離れたい一心でOKしてここに来たけど、明日のみんなの反応を思うと胃が痛い。
 ──『告白された!?』、『なんて返事したの!?』とか聞かれるんだろうなぁ。
 ひと部屋を動画の撮影場所に宛てているというここ……早見くんの自宅がまさかの大豪邸だったのも僕をそわそわさせた。

「……(しき)がこんな優しく喋るの初めて見たわ」
「撮影中もそんな感じでいてほしいですね」
 
 テーブルを挟んだ向こうのカーペットの床に胡坐(あぐら)をかき、こちらを眺めているのは花守(はなもり)くんと豊崎(とよさき)くん。早見くんが所属する動画配信者グループのメンバーで、二人も僕らと同じ高校に通っている。確か花守くんが隣のクラスで、豊崎くんは一年生だったはず。
 僕の方は彼らのことは動画で知っていたけど、実際には初対面だったのでついさっき自己紹介させてもらった。早見くんとクラスメイトになった時も思ったけど同じ学校とはいえ、有名人に認知されるって不思議な気持ちだ。
「というか、花守たちはなんでここに?今日は動画の撮影ないよね」
「お前がその折笠って奴をスタイリストにスカウトするって言うからわざわざ来たんだよ!」
「確かにあのコーデは良かったけど……どんな人か分からないのにすんなり了承出来るわけないでしょう」
 素で首を傾げる早見くんに、花守くんと豊崎くんが間髪入れずツッコミを入れる。すごい、動画で見たのとまったく同じ空気感だ。
 
「……僕をスタイリストに……?」

 と、他人事ではなさそうな部分を聞き取った僕は持っていたジュースをテーブルに置く。さっき教室で言っていた“大事な話”とは告白ではないらしい(当たり前か)。
「折笠先輩、聞いてないんですか?」
「うん、初耳……」
「おい織っ、ここに来るまでに説明しとけし!」
「ごめん。紡くんと学校の(はなし)しながら帰るのが楽しくて……忘れてた」
「……っ」
「あのデートコーデ」
 大きなソファーだしもうちょっと離れて座っても良いんじゃ……と声をかけるタイミングを完全に逃してしまった。肩が触れるか触れないかの距離でそんなことを言われて両耳が急速に熱くなる。そんな僕の様子に気づくことなく、淡々と切り出す早見くん。
「花守たちも珍しく褒めてくれて」
「そりゃ今まで見た私服の中で断トツで似合ってたからな。織がマネキン買いしたっつう、他のコーデも良かった」
「ファッション系の企画は根強い人気があるんですけど、俺たち全員服のセンスに自信がなくて……。そっち方面に強い仲間がいたら良いねって前から話してたんです」
「そう。──だからね、紡くん」
 ここで早見くんが僕の顔を覗き込んでくる。……服のセンスに自信がないと言った豊崎くんが『織先輩ほどじゃないですけど』とひっそり続けていたけど、気にしてないようだ。

「俺たちのグループの専属スタイリストになってくれない?」
「……!」

 これまでの話の流れで分かっていたけど、面と向かって言われ思わず息を飲む。
 ──専属スタイリスト?
 ──チャンネル登録者数が増える一方の大人気配信者グループの衣装を、僕が決める?
「紡くんのファッションセンスを、俺たちに貸してほしい」
「えっと……」
「もちろん給料も出るよ。その辺はちゃんと大人に管理してもらってる」
「……僕……」
「──ちょっと待ったぁ!」
 ただでさえも近い早見くんとの物理的な距離がさらに縮まり、視界いっぱいの美貌に卒倒しそう……という時にテーブルに両手をついて乗り出して来たのは花守くんだ。
「勝手に話を進めるな織!確かにソイツの家でやってるっつー古着屋と個人SNSを見た限りは情報リテラシーはちゃんとしてそうだけど……まだ決めるのは早い!」
 いつのまに僕のSNSのチェックを……とひとり恐れおののく僕を横目に、花守くんはどこからか蛍光ブルーの布を取り出した。畳まれた服のようだ、ちらりと覗く圧の強いプリントには見覚えがある。
「このグループを作った時、みんなで着ようと織が買ってくれた服だっ、絶望的にダサ……普通に生きてたら出会わないデザインだったから着たことはない!」
 言い直したところで本音が隠しきれていない。バッ!と広げたことで全貌が露わになったその服は予想通り、うちの店に早見くんが来た時に着ていたカットソーの色違いだった。
「これのグリーンバージョンも、豊崎に持って来させてある!」
「コレにそんなカラーバリエーションが……!?」
「折笠っ、本当にうちの専属スタイリストになるつもりならなぁ!」
 喋るほどに僕に顔を寄せてくる花守くんもかなりのイケメンだけど、なぜだか早見くんと違ってフラットな気持ちで見ていられる。
 

「手始めにこれを使って俺ら三人のリンクコーデを組んでみろ!織とは違って簡単にお前を認めないからな!!」