◇◇
「土曜のアレ行った!?」
「行った行った、早見のデートコーデがやばかった!」
「えー何それっ」
「土曜日、早見たちが駅前の広場で公開撮影やってたんだよ」
「うちも見たかったぁ!」
「動画は来月アップするって言ってたよー」
朝の教室は早見くんのことで持ちきりだった。見慣れた光景のはずだけど、今日は熱量が違う気がする。
きゃっきゃしている女子たちの合間を縫って自分の机にたどり着いた僕は鞄を机に置くのも早々に、スマホからとあるSNSを開いた。
【土曜日はありがとう。おかげさまで大好評だったよ】
昨日届いたダイレクトメッセージと、続けて送られた早見くんの写真。その身に纏っているのは彼がうちの店に来た際いっしょに選んだ服だ。プロフィール画面に付いた認証バッジと、えげつないフォロワー数からして早見くんのアカウントで間違いないだろう。
──僕、早見くんにインステ教えたっけ……?
──ああ、お店のアカウントから飛んだのか。
会計を担当したお父さんから聞いたけどあの日早見くんは企画に使う服だけでなく、僕がマネキンに施したアイテムも数点買っていったらしい。
──ただでさえもすごい売り上げだったのに他のも買ってくれるなんて……コーディネートのお礼にしてもじゅうぶん過ぎる。
「早見って本気出すとあんなおしゃれなんだね」
「動画だといつもシンプルな私服だから分かんなかったわ」
「早見の顔とスタイルだったら、てきとーな服でデート来ても全然許せるけど!」
「それな!」
そんなテンション高めな話し声が耳を掠め、咄嗟に後ろの席を振り返る僕。
──土曜日、あんなに熱心に服を選んでいた彼が聞いたら傷ついてしまうだろう。
──まだ来てないみたいで良かった。
なんてほっとした瞬間。
「あっ、本人来た!」
「おはよっ、待ってたよー!」
「土曜の撮影めっちゃ良かった!」
僕を含む他の男子相手ならまず上がることのない、女子たちの黄色い声。早見くんが登校して来たのだ。迷わずこちらに向かう足取りは自分の席を目指してると思いきや、僕の前でぴたりと止まる。
「おはよ、紡くん」
「お、おはよう……」
「土曜日はほんとにありがとう」
鞄を持つのと逆の手には駅ナカでよく見るおしゃれな雑貨屋さんの紙袋が握られている。綺麗にラッピングされた中身が僅かに見えて、誰かへのプレゼントかな?そう考えた直後──なんとそれは僕に差し出された。
「これは……?」
「お礼。気に入ってくれると良いけど」
「そんな、うちの店でいっぱい買ってくれただけでありがたいのに!」
「アレは普通に買い物しただけだし」
それまで盛り上がっていた女子たちは、今ではひっそりと僕らのやりとりを眺めている。「早見いま、下の名前で呼んだ?」、「あの二人そんな仲良いの?」という囁き声が聞こえて居心地が悪い。
「あ、ありがとう。でも次からお礼はなくて大丈夫だから……」
「分かった」
早見くんがちゃんと頷くのを確認してから紙袋を受け取った。よし、これで周りの好奇の目から解放される。
「紡くん」
「な、なに?」
「きのう一日、考えてたんだけど」
……安心するにはまだ早かったらしい。間の机を物ともせず、ゆるりと接近する綺麗な顔の迫力に僕は息を飲む。
「俺には紡くんが必要っぽい。……指輪、受け取ってもらえて良かった」
不意に向けられた甘やかな微笑み。
困惑とからかいの混じった、クラスメイトたちの絶叫。
もらったプレゼントの中身を今知り、あ然とする僕。
「次は“メンバーの私物アクセサリー大公開!”って企画なんだけど。このファッションリング俺も持ってて、紡くんなら良いコーデが思いつくかなって」
「……そこを最初に言ってほしかった……!」
僕にプレゼントするついでに、動画の撮影で着る服の参考にしたかったってことか。
理解が追いついた時には既に遅く、「交際中!?」「結婚秒読み!?」などの聞き捨てならないワードがクラス中を飛び交っていた。


